実臨床における取組み

 

名古屋大学医学部附属病院

名古屋大学 医学部 附属病院

 名古屋大学医学部附属病院は、明治4(1871)年名古屋藩評定所跡に公立の仮病院が設置されたことに始まります。平成16年度の国立大学法人化により、現在の国立大学法人名古屋大学医学部附属病院となりました。2015年現在、同病院の標榜科は34科、病床数は1,035床で、特定機能病院に指定されています。
 同病院眼科の主な専門は網膜硝子体疾患であり、日本各地より多くの紹介患者さまが来院しています。今回は、実際に糖尿病黄斑浮腫(DME:diabetic macular edema)診療にかかわっている野々部先生と医療スタッフの皆様にお話を伺いました。

DME診療の体制

■DME診療にかかわる眼科スタッフ
医 師9名
特に専門外来を設けておらず、月曜日から金曜日の外来で1日約20名のDME患者を診察
看護師4~5名(一部、病棟と外来を兼任)
主に注射前後の患者に対するフォロー、手術室の準備などを担当
視能訓練士11名 検査全般を担当
■DMEにおける抗VEGF薬の硝子体内注射実績
2014年11月~2015年9月 約300件
眼科

 当院では、糖尿病網膜症(DR:diabetic retinopathy)や加齢黄斑変性、網膜剥離などの疾患に対する治療を積極的に行っており、年間700件を超える網膜硝子体手術を施行しています。また、糖尿病黄斑浮腫(DME:diabeticmacular edema)に対する抗VEGF薬の硝子体内注射は、2014年11月から2015年9月の11ヵ月間で約300件の実績があります。DMEの専門外来は特に設けておらず、月曜日から金曜日の外来で9名の医師が1日約20名のDME患者さまを診察しています。眼科の診察室は9部屋あり、50床の入院患者さまと1日200~250名の外来患者さまを診察しています。

DMEの患者像

  • ■近年、DME患者は増加傾向にあり、年齢は50代から60代に多い
  • ■他病院からの紹介が多く、約70%を占める
  • ■血糖コントロールが良好であればDRの進行を抑えられ、DMEの発症も少ない可能性があるため、糖尿病初期の段階で治療の意義を伝えることが大事
中心窩への硬性白斑沈着

 近年、DME患者さまは増加傾向にあり、年齢は50代から60代に多くみられますが、なかには20代の患者さまもおられます。当院の患者さまは他病院からの紹介が最も多く、約70%を占めています。紹介によって来院する患者さまの特徴として、視力が不良であること、様々な症状を有している傾向があります。なかには、中心窩に硬性白斑が沈着しており、視力改善が期待できないほど重症化している場合もあるため、内科からだけではなく、眼科からの紹介も早期の段階から行われることが望まれます。重症の患者さまは、自覚症状がなかったために眼科を受診していなかった、もしくは自己判断で糖尿病治療を中断していた場合がほとんどです。血糖コントロールが良好であれば、DRが進行することは少ないため、糖尿病が認められた初期に10年後、20年後を見据えた治療の意義を医師が伝えることが大事だと考えています。

DMEの検査から治療まで

  • ■血糖コントロールやDR、DMEの状態に応じて診察間隔を設定し眼科検診を行っている
  • ■DMEの検査項目は、視力、眼圧、広角眼底撮影(造影含む)、OCTを基本とし、視野検査、ERG、OCT angiographyも考慮する

 糖尿病と診断された後の眼科検診は、血糖コントロールの状態や眼底所見に応じて診察の間隔を設定します。眼底検査でDRや明らかなDMEがみられない場合でも、視神経の状態やわずかな網膜形態の変化を評価するため光干渉断層計(OCT:optical coherence tomography)を活用しています。さらに、視力矯正が適切でない眼鏡を日常的に使用していると視力の低下に気が付かないため、初期の検査で現在使っている眼鏡による視力矯正が適切かどうかを調べます。
 検査の結果、視力の低下が認められた場合は、白内障など他の要因との関連を検討します。また、糖尿病治療の変更などで血糖値の変動が大きいと考えられる場合には1~2ヵ月ごと、汎網膜光凝固術(PRP:panretinal photocoagulation)を施行している場合は終了するまで検査は毎週行います。

糖尿病における眼科検診の概要
患者指導の際に使用している小冊子

 DMEの検査項目として、視力、眼圧、広角眼底撮影(造影含む)とOCTを全員に行います。そのほかに視野検査や網膜電図(ERG:electroretinogram)、OCT angiographyなどの結果を考慮して、通常は2週間以内に治療を開始します。当院では、白内障が強く眼底が評価しにくい場合や手術前などには、ERGを行うことが特徴です。ERGのメリットは、白内障や硝子体出血などで眼底が見えにくい場合にも網膜虚血の評価に加え、視力の予後予測ができることです。また、黄斑浮腫においては、局所ERGを活用することで形態異常と機能障害の関係を解析することができます。造影検査は通常、半年ごとに行っていますが、PRPを施行した後に治療評価を目的として行うことも多くあります。
 検査が終了すると、造影画像とOCT所見を患者さまに説明しながら、今後の治療方針を決めていきます。その時に硝子体内注射に伴う眼内炎リスクについても説明し、翌日に必ず当院あるいは紹介元の病院を受診するようにお話しています。病状、症状、治療の必要性、治療の内容およびその方法について説明する際には、小冊子をお渡しして理解を深めていただくように努めています。また、当院では視力が低下している患者さまのことを考慮して、文字が大きい説明文書や同意書を作成しています。

抗VEGF薬治療の実際

  • ■当院におけるDMEに対する抗VEGF薬単独での治療は、約40%を占める
  • ■抗VEGF薬を注射してからPRPを行う併用療法が多く施行されている

 当院における抗VEGF薬による単独での治療は、DME治療全体の約40%を占めています。当院の患者さまはPRPが必要なDRが多いため、抗VEGF薬を注射してからPRPを行う併用療法が多く施行されています。すでに他院で何らかの治療を受けている患者さまも多いため、そのほかの治療として硝子体手術は約30%、ステロイド薬による治療は約20%、局所レーザー光凝固は併用が多く、単独治療は約10%です。
 特に若年でDRの活動性が高く、病勢の強いDME患者さまは眼血流が減少しており、抗VEGF療法に適していると考えています。DRの活動性は主に造影検査で診断します。造影後期に新生血管からの旺盛な蛍光漏出を認め、血管新生緑内障が懸念されるほど活動性が高い患者さまに抗VEGF薬を注射することで、DMEの改善とともにDRの進行が抑制されることを経験しています。DRの進行を抑制できれば、DMEの根本的な治療にもつながる可能性があり、この点が抗VEGF療法の大きなメリットの一つと考えます。
 PRPによりDMEが増悪する可能性もあるため、抗VEGF薬を注射しPRPを完成させています。PRPは通常、1週間ごとを目安に左右に施行し、2ヵ月で終了します。最近はパターンスキャンレーザーの使用によりさらに短期間での施行も可能になっています。この間にDMEの状態を考慮して注射回数を調整しながら、抗VEGF薬を1~2回注射します。
 また、眼圧が高い場合も抗VEGF薬が適しています。ステロイドの使用可否を判断する眼圧の目安としては、18mmHg以上と考えています。眼圧の高い患者さまに限ったことではないのですが、私が抗VEGF薬を注射する際には、前房穿刺を行って眼圧を調整しています。硝子体内注射時に生じる急激な眼圧上昇の蓄積が、視神経のダメージにつながると考えているためです。

抗VEGF薬の投与スケジュール

  • ■治療開始時に1ヵ月ごとに5回投与した後、Treat and Extendを基本としている
  • ■経済的な問題や通院による負担の課題は残されているものの、視力改善には5回連続投与が望ましいと考える

 当院における抗VEGF薬の投与スケジュールは、治療開始時に1ヵ月ごとに5回投与した後、Treat and Extendを基本としていますが、医師により若干異なります。浮腫の薬剤への反応性や経済的な負担を考慮して治療開始時の連続投与を3回に減らす、あるいは必要時投与(PRN)で治療を続ける場合があります。また、両眼の治療が必要な場合は、原則、対側眼の投与まで2週間は空けるようにしているため、受診回数が増えて通院が困難になることもあります。経済的または通院の負担によってどうしても抗VEGF薬投与が難しいと判断される場合は、当院で多くの実績がある網膜硝子体手術を施行することもあります。
 大規模臨床試験の結果から、視力改善には5回連続投与することが望ましいと考えますので、患者さまに対してもエビデンスをふまえてお伝えしますが、突然5回と聞いた患者さまの多くは、治療へのモチベーションがなかなか上がりません。そこで、「まずは3回注射して様子をみてみましょう」や「これからの10年を考えて、最初の1年はこの治療スケジュールで頑張ってみませんか」など、前向きにお伝えするように心がけています。

抗VEGF薬による治療を安全に行うために

  • ■感染予防
  • ①手術に準じた消毒
  • ②スタッフは手術用のマスク、帽子を着用
  • ③注射の3日前から抗菌薬を点眼
  • ■人為的なミスの防止
  • ①二つのホルダー(一つは[右]あるいは[左]、もう一つは薬剤名が記載されている)を首にかける
  • ②ホルダーのストラップは少し長め(注射時、仰臥位でドレープをかけた状態でもホルダーを簡単に確認できる)
  • ③注射前には医師が必ず本人に最終確認
抗VEGF薬注射を施行する手術室
患者さまのストラップホルダー

 当院では、特に感染予防を重視しています。手術に準じた消毒を行い、注射を施行する手術室に入室するスタッフは手術用のマスクならびに帽子を着用しています。加えて、患者さまには抗VEGF薬注射の3日前から抗菌薬を点眼していただいています。
 また、当院では人為的なミスを防止するための取り組みを行っています。患者さまには、注射をする眼を示す[右]あるいは[左]のホルダーに加えて、当院では4種類の硝子体内注射薬による治療を行っているため薬剤名を記載したホルダーも首にかけていただいています。ホルダーのストラップを少し長めにしている理由は、注射前に仰臥位でドレープをかけた状態でも腹部にホルダーがあり、確認しやすいためです。以前は注射をする側の手に印をつけていましたが、一緒に診療に取り組む医療スタッフとも相談した結果、このホルダー方式が定着しています。そして、注射前には医師が必ずご本人に最終確認をするようにしています。

DMEにおける抗VEGF薬治療の意義

  • ■評価する点
  • ①DMEの速やかな改善
  • ②レーザー光凝固単独治療では限定的であった視力改善
  • ③DR改善の可能性
  • ④外来治療が可能になり、積極的な治療の機会が増えたこと

 抗VEGF薬を評価する点として、治療抵抗性を認めることもあるもののDMEの速やかな改善が認められること、レーザー光凝固による単独治療では限定的であった視力改善が可能となったこと、DRそのものを改善する可能性があることがあげられます。以前の治療では視力の改善が期待できなかったような患者さまが、抗VEGF薬の治療によって明らかな視力改善が認められることもあります。視力が改善すると患者さまも治療効果を実感できるため、一緒にDME治療に取り組んでいる看護師や視能訓練士からも、患者さまの治療に対するモチベーションが上がっているという話をよく耳にします。
 また、抗VEGF薬によって積極的な治療の機会が増えています。抗VEGF薬が登場するまでは、当院におけるDMEの第一選択は手術だったため、治療開始まで時間を要していましたが、抗VEGF薬により外来治療が可能となりました。そのため、当院では検査から2週間以内にはDME治療を開始していますし、特にDMEは就労されている患者さまも多くおられるため、社会生活を大きく妨げずに治療が続けられる点が大きなメリットといえます。
 抗VEGF薬の今後の課題として、治療抵抗性を示す患者さまにおける通院や経済的負担があげられます。頻回の再発や、導入期における改善が軽微な場合は、抗VEGF薬の投与が増え、通院や経済的な負担により持続的な治療が困難になるためです。また、今後もDME患者さまの増加が予想されるため、DMEの早期発見、早期治療がさらに重要になると考えられます。

抗VEGF薬投与の例

医療スタッフのお話

●看護師の声

注射後の注意事項

 看護師は主に、抗VEGF薬を注射する手術室の準備や患者さまに対する注射前後のフォローを行っています。特に重要な注射後の注意事項は、文書を用いて説明しています。抗VEGF薬注射が初めての患者さまは非常に緊張感が高まっている状態なのですが、回数を重ねても変わらず緊張感を持続している患者さまも多くみられます。そのため、手術室に胎教音楽を流し、不安なことがあればわかりやすく説明をするように心がけ、患者さまにリラックスした状態で注射を受けていただけるようにしています。
 また、一部の看護師は病棟と外来を兼任しており、病棟のカンファレンスにも参加して連携をはかっています。兼任のメリットとしては、外来で顔見知りの看護師が病棟にいると患者さまが安心して入院生活が送れること、入院時に患者さまの病態や性格を把握していますので、退院後の外来受診の際には一人一人に合わせた細やかな指導ができることです。

●視能訓練士(ORT)の声

 ORTは視力、眼圧、OCT、造影などの検査全般を担当しています。抗VEGF薬の注射時に比べると、検査時は不安が少なく、リラックスしている患者さまがほとんどです。ただ、造影検査の時は、副作用のお話をするので少し緊張される方もおられます。
 抗VEGF薬などの治療で視力改善がみられると、患者さまの治療に対するモチベーションが上がります。「前回と比べて網膜の形がきれいになってない?」など、患者さまから積極的に聞かれることもあります。当院では、患者さまに対して注射前後にOCTを見せて説明しますので、回数を重ねるごとにご自身の症状の変化を注意深く感じ取られるようになり、病状を把握できるのだと思います。
 特に、治療を行った後の検査は微妙な差を意識しています。たとえば、DME患者さまは中央の視野が乏しいため、視力検査の際に視野の中心を見るために顔を動かすことが多いのですが、その動きが前回と比べて少なくなっていたら改善傾向にあると考えます。
 このようにDME患者さまを直接観察し小さな変化も見逃さないように心がけ、通常の画像所見や視力に加えて、その小さな変化についても主治医の先生にお伝えすることが、結果的に患者さまの治療に対する理解を深めることにつながると考えています。

L.JP.MKT.OP.11.2017.1173

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