実臨床における取組み

 

三重大学医学部附属病院

三重大学医学部附属病院

■三重大学医学部附属病院のご紹介

 三重大学医学部附属病院は、1876年に安濃郡塔世村(現在の津市栄町)の三重県病院内に設置されたことに始まります。現在は三重県唯一の特定機能病院として先進医療、高度医療を行い、三重県における医療の中心を担う施設として地域住民に貢献しています。2015年5月からは新外来棟がオープンし、診療機能の向上を図っています。
 同病院眼科では、最先端の医療を取り入れ、糖尿病網膜症、緑内障、加齢黄斑変性などの失明にいたる重篤な疾患の治療、研究、教育に特に尽力しており、失明の不安を抱えた患者さんに寄り添う診療を実践しています。今回は、週に約20名の糖尿病黄斑浮腫(DME:diabetic macular edema)患者さんの治療に携わっていらっしゃる杉本昌彦先生にお話を伺いました。

DME診療の体制

DME診療にかかわる眼科スタッフ

■医 師:5名(毎週金曜日の特殊外来で1日約20名のDME患者を診察)
■看護師:5名
■視能訓練士(ORT):7名
■クラーク:2名

 当科には週に約80名の糖尿病網膜症(DR:diabetic retinopathy)の患者さんが通院しています。
DMEを認める患者さんは3割程度(約20名)で、そのうち約6割の方が抗VEGF療法を行っています。
注射日は木曜日としていますが、そのほかの曜日でも患者さんの症状に応じて実施します。

DMEの患者像

  • ■通院中のDR患者の多くは進行例である
  • ■他施設からの紹介が多く、ほとんどはすでに治療を受けている
  • ■以前はDRやDMEが進行してから紹介されるケースが多かったが、最近は重症例の紹介が減少している

 当院は特定機能病院であるため、当科に通院中のDR患者さんの多くは進行例で、ほとんどが増殖前糖尿病網膜症(PPDR:pre-proliferative diabetic retinopathy)や増殖糖尿病網膜症(PDR:proliferati
ve diabetic retinopathy)です。
 また当科では他施設からの紹介が多く、週に2~3名の患者さんの紹介を受けています。こうした患者さんの多くは、網膜光凝固やトリアムシノロンアセトニドのTenon嚢下投与といった治療を行っても抵抗を示す症例や、抗VEGF薬を単回投与したが改善がみられない症例など、何らかの初期治療ではDMEの改善が認められなかった症例や増殖性変化の抑制が認められなかった症例です。他科からも週に4~5名の患者さんの紹介を受けていますが、この場合はDRやDMEに対して加療されたことのない患者さんを診ることがあります。
 以前はDRやDMEの病状がかなり進行してから紹介されることが多かったのですが、最近は内科の先生方の糖尿病患者さんに対する治療や教育、生活指導が功を奏し、重症化した症例を受けるケースは減少している印象があります。

DMEの検査から治療まで

  • ■診察および検査の頻度は網膜症病期により設定
  • ■OCT検査の網膜厚カラーマップを用い、肥厚部位を把握する
  • ■視力に変化を認めなくても自覚症状が改善することがあるため、網膜感度閾値検査を実施する
三重大学医学部付属病院眼科 外来フロア図

 DME患者さんの受診および検査の頻度は、単純網膜症(SDR:simple diabetic retinopathy)で6~12ヵ月に1回、PPDRで2~3ヵ月に1回、PDRで1ヵ月に1回ですが、PDRで増悪が懸念される方は1~2週間に1回としています。
 検査から治療までの流れは図に示した通り、まずは無散瞳で実施できる眼底検査、OCT検査、視力検査、眼圧検査などの検査を実施してから診察を行います。このときに糖尿病罹病期間やコントロール状態などの病歴を細かく聴取し、細隙灯検査で前房深度の確認と同時に虹彩新生血管の有無を確認します。次に網膜感度閾値検査、OCTアンギオグラフィーなどの散瞳により正確な結果を得られる検査を実施し、再び入室していただき散瞳下の診察を行います。眼底の状況に応じて蛍光眼底造影検査を行います。網膜感度閾値検査は治療効果の指標として用いており、視力に変化を認めなくても自覚症状が改善する症例に有用です。なお、散瞳薬が効果を発現するまでの時間は、必要に応じて血液検査を実施し、また低血糖にならないように食事をおとりいただいています。腎機能や血糖コントロールの状態は患者さんへの聴取だけではなく、血液検査の結果をみて判断するようにしています。

DMEの検査から治療まで
検査機器

 初診時に特に重要なのは、OCT検査所見です。水平断によって浮腫の形状を確認し、網膜厚のカラーマップを用いて、網膜が最も肥厚している病変部位を把握します。それを踏まえて蛍光眼底造影検査を実施し、再度、網膜厚カラーマップを見ながら、原因となる毛細血管瘤などの異常血管を確認します。こうした病変が認められた場合には、網膜光凝固の適応になるため、網膜光凝固による加療の指標にします。

 また、患者さんへのムンテラは主に医師が診察時に実施しています。内容は、疾患、検査、治療など多岐にわたるため、患者さんが混乱してしまわないように一度に行う説明は2つ程度にするよう心がけています。また、その際には製薬会社が作成している患者さん向けの冊子や、治療方針を1枚にまとめた自作の説明書などを活用して、患者さんの理解向上に努めています。複雑で多岐にわたる内容になりますので、ご高齢の方など、お一人では混乱されるのでは、と感じた患者さんの場合には、次回以降にご家族を交えて説明するようにしています。一方で、注射日における日常生活の注意などの細かな説明については看護師が行います。

ムンテラ用資材

DME治療の実際

  • ■DME治療における初回治療の約60%は抗VEGF療法である

 DME治療における初回治療の内訳は、網膜光凝固が約10%、抗VEGF療法が約60%、トリアムシノロンアセトニドのTenon嚢下または硝子体注射などのステロイド療法が約20%、硝子体手術が約10%です。基本的に単独治療を行っており、初回からの併用療法はほとんど行っていません。
 DME治療では、まず網膜毛細血管瘤や無灌流領域が同定され、網膜光凝固が適応となる場合は網膜光凝固を施行します。それ以外の症例および網膜光凝固では効果不十分な症例は抗VEGF療法に移行します。抗VEGF薬の導入期投与に対する反応が乏しい場合は、ステロイド療法もしくは硝子体手術へと移行し、硝子体手術で改善しない場合には術後早期にステロイド療法を追加で実施します。

DME治療の流れ

 一方で、経済的な理由や脳梗塞、心筋梗塞の既往歴があるなどの理由で抗VEGF療法実施がためらわれる場合は、抗VEGF療法は行わずステロイド療法に移行します。ステロイド療法で効果不十分な場合は硝子体手術を施行し、それでも改善が認められない場合、再度抗VEGF療法を検討することもあります。

抗VEGF療法の実際

  • ■抗VEGF薬の投与方法はTreat and Extendが6割、残り4割がPRN
  • ■抗VEGF薬に対する反応性は導入期投与(毎月1回3~5回投与)後に判断する

 抗VEGF薬の投与方法には、Treat and Extend、適宜投与(PRN:pro re nata)、定期投与という選択肢がありますが、現在、当科のDME患者さんの6割がTreat and Extend、4割がPRNです。
 Treat and Extendには、それぞれの患者さんにとって最も安定した状態を維持しながら投与できるというメリットがあることから、当科では、抗VEGF薬に対する反応があり、患者さんのご希望がある場合にはTreat and Extendを第一選択にしています。反応性の有無の判定は、単回投与では自覚症状または視力改善効果が現れていないことがあるため、導入期の連続投与(毎月1回3~5回投与)後に行います。一方で、経済的な理由や投与頻度に関する負担などからTreat and Extendによる治療が難しい場合は、PRNを選択しています。
 また、患者さん自身が抗VEGF療法による効果を実感して、PRNからTreat and Extendに投与方法を変更したいと希望されたり、Treat and Extendでスタートしたものの、同様の理由で継続が困難になったりするケースでは、投与方法を変更することもあります。

Treat and Extendの方法

  • ■維持期の基本となる投与間隔は8週間
  • ■延長・短縮は2週間ずつとする
  • ■延長の基準は「網膜厚が350μm以下」を2回連続満たした場合
  • ■短縮の基準は①350μm以下であった網膜厚が350μmを超えた場合、②維持期開始時から20%以上の網膜厚の増加がみられた場合

 Treat and Extendの基本的な概念は、視力あるいは網膜厚などの何らかの基準を設け、それに対して投与間隔を延長または短縮していくという治療です。当科では、投与間隔8週間(2ヵ月間)をベースとして、投与間隔を2週間ずつ調整していく形のModified Treat and Extend(Modified T&E)という投与レジメンを用いています。
 Modified T&Eのメリットは、8週間(2ヵ月間)と比較的計算しやすい投与間隔であること、2週間ずつの調節のため増悪しても短い期間で対処できることです。
 投与期間の延長・短縮の判断には、OCT検査による網膜厚およびそのカラーマップを用いています。一般的にTreat and Extendの延長・短縮を判断する指標は、視力とOCT検査による網膜厚の2つに大別されます。Treat and Extendを検討した既報では視力を投与期間の延長・短縮の基準としています。視力を指標にすることは、患者さん自身が自覚できるため、納得したうえで延長できるという点では理にかなっているかもしれません。しかし、視力とOCT検査による黄斑浮腫の性状や網膜厚などの客観的データは、必ずしも相関しないことがあります。視力はあくまで自覚的なもので、変動の幅が大きいと考えられることから、当科では客観的なデータを得られるOCT検査によるデータを延長・短縮の指標としています。また、視力の改善がなくとも、網膜形態の改善に伴い自覚改善を得られる症例も散見され、これらには網膜感度閾値が評価に有用です。
 そして、投与期間延長の具体的な基準は、網膜厚350μm以下を2回連続満たした場合、短縮の基準は、①350μm以下であった網膜厚が350μmを超えてしまった場合、②維持期開始時の網膜厚値から20%以上の網膜厚の増加がみられた場合としています。延長・短縮の間隔はいずれも2週間ずつとし、最短投与間隔は4週間(毎月投与)、最長投与期間については明確には定めていませんが、現時点では約2年で16週まで延長可能となった患者さんもいらっしゃいます。

三重大学医学部附属病院眼科における抗VEGF薬の投与レジメン

抗VEGF薬の治療の意義

  • ■抗VEGF薬はDME患者に対する治療機会の増加に貢献

 抗VEGF薬は単回投与では効果が得られにくいため、投与を継続することが必要となっており、患者さんの経済的負担や通院にかかる負担が少なくないという問題を抱えています。しかし、DMEは硝子体手術などを行っても治療が難しい疾患であり、これまでは治療が可能な施設も限られていましたが、近年は抗VEGF薬の登場により施設を問わず簡便に治療できるようになってきました。こうした抗VEGF薬がDME治療にもたらした変化により、患者さんはこれまでに比べて治療の機会をより多く得られるようになりました。この点から、抗VEGF薬はDME治療に大きく貢献していると考えます。ただ、抗VEGF薬は投与基準が定まっておらず、施設や医師によって基準が異なっています。今後は抗VEGF薬による治療指針の策定が求められます。

医療スタッフのお話

●看護師の声

患者説明用紙、点眼指導・確認用紙

 看護師は、検査時の誘導、診察後の説明、注射時の介助など様々な場面で患者さんと接しています。OCTや眼底写真を撮影する際には、患者さんがスムーズに検査を受けられるよう誘導し、診察後は医師の指示に従って、説明用紙を用いて抗VEGF薬の注射の説明を行います。注射を受ける患者さんの多くが、強い不安を感じているため、特に気を配って言葉をかけることで、安心して注射を受けていただけるようにしています。
 抗VEGF薬の注射に関する注意事項などの説明も看護師が行っています。注射日が決まったら、説明資料を用いて感染予防のための目薬の点眼日や点眼する眼を確認し、注射当日と注射後の注意点も説明します。注射時にはカルテの表紙にチェック表をつけて薬剤と投与眼を2重、3重に確認し、患者さんご自身にもお名前と治療眼を言っていただくようにしています。あらかじめ投与日が決まっているTreat and Extendは、処置などの予定が立てやすいと感じています。

●視能訓練士(ORT)の声

 ORTは、視力、眼圧、視野、眼底写真、OCTや蛍光眼底造影などの眼科検査全般において、DME患者さんと接しています。実際には、治療の前後に視力検査やOCT、患者さんの症状によっては視野検査も行っています。
 検査結果を確認するときには、視力の変化だけでなく、OCT画像での網膜形態の変化、視野検査による網膜感度の変化など、機能と形態を総合的に評価できるようにしています。治療後、視力に変化が見られない場合でも、網膜形態が改善していると「明るくなった気がする」とおっしゃられ、実際に視野検査結果で網膜感度が上がっているケースがあります。
 なお、当院では、様々な検査結果をもとに、医師が総合的に診断や治療効果の評価を行い、患者さんへの説明も医師が行います。それは、各々の検査担当のORTから直接患者さんに検査結果をご説明することによる混乱を避けるためです。また、検査結果には表れないような患者さんご自身が感じていらっしゃる見え方の変化など、些細なことでも検査時にわかったことはカルテに記載し、患者さんの病態の変化をスタッフ全員が把握できるようにしています。

L.JP.MKT.OP.02.2018.1253

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