実臨床における取組み

 

神戸市立医療センター中央市民病院

神戸市立医療センター中央市民病院

■神戸市立医療センター中央市民病院のご紹介

 神戸市立医療センター中央市民病院は、1924年に神戸市長田区に市立神戸診療所として誕生しました。以降、神戸市の基幹病院として地域住民の健康を支えるため、質が高く安全な医療を提供し続けています。
 同病院眼科では、地域医療を担う中核病院として標準的医療を高水準で実施するとともに、西日本を代表する高度先進医療機関として、最先端の高度眼科医療に取り組んでいます。
 今回は、神戸市および近隣地域の糖尿病黄斑浮腫(DME:diabetic macular edema)の治療に尽力されている石田和寛先生、宮本紀子先生にお話を伺いました。

DME診療の体制

DME診療にかかわる眼科スタッフ

■医 師:6名(毎週金曜日の専門外来で1日25~30名のDME患者を診察)
■看護師:3名
■視能訓練士(ORT):14名
■クラーク:4名
眼科担当医師

 当科には毎週金曜日の専門外来日に約60名の糖尿病網膜症(DR:diabetic retinopathy)の患者さんが通院しています。そのうちDMEを合併している患者さんは、およそ半数の25~30名です。スタッフは医師6名(右写真)のほか、看護師3名、視能訓練士14名、クラーク4名で対応しています。

DMEの患者像

  • ■院外からの紹介は重症度の高い患者が多い
  • ■眼科受診をきっかけに糖尿病と診断される患者もいる
  • ■眼科受診を行っていただくためには疾患に対する理解を促す必要がある
糖尿病診断後の眼科受診頻度の目安

 当科では、院内および院外施設からDR患者さんの紹介を受けていますが、治療が必要なDMEを合併している患者さんは院外からの紹介で多くみられます。その場合、視力はかなり低下していることが多いのですが、中には糖尿病の診断すらついておらず、眼科での指摘をきっかけに、内科へ紹介されて糖尿病であると診断されるような場合もあります。
 糖尿病診断後は、DRを認めない場合は可能な限り近医へ紹介し、1年に1回程度の定期受診を促しています。DRを認める患者さんの場合、非増殖糖尿病網膜症(NPDR:non-proliferative diabetic retinopathy)では、軽度であれば4~6ヵ月に1回、中等度であれば2~3ヵ月に1回、重度の場合には1~2ヵ月に1回、また、増殖糖尿病網膜症(PDR:proliferative diabetic retinopathy)の場合は1~2ヵ月に1回の受診を勧めます。DMEを合併している患者さんの場合、治療を要する可能性があれば1~2ヵ月に1回、抗VEGF療法あるいはステロイド療法を行っている場合は1ヵ月に1回の受診を基本としています(右表)。

 患者さんの生涯にわたるQuality of Vision(QOV)を良好に保つため、当科では、製薬メーカーで作成しているパンフレットを用いながら、DRの病態、進行、予後などを説明して疾患に対する理解を促し、病識が乏しいことの多いDRを認めない患者さんであっても定期的な受診を続けていただけるようムンテラを実施しています。

DMEの検査から治療まで

  • ■問診では腎機能、高血圧症、高脂血症の有無といった全身状態も確認
  • ■診療は長時間に及ぶため看護師によるきめ細やかな患者サポートが必要
DMEの検査から治療まで

 初診時の問診では、血糖値、HbA1c、家族歴、体重、内服薬などを確認します。さらに、DME患者さんに対しては、腎機能に加え、高血圧症、高脂血症の有無も確認しています。
 初診時の検査は、無散瞳下で視力検査、眼圧検査、眼底検査、変視症定量評価チャート(Mチャート)を実施し、散瞳後にスペクトラルドメインOCT検査、OCTアンギオグラフィー、カラー眼底写真撮影、広角眼底写真撮影を行います(下写真)。蛍光眼底造影検査は、通常は予約をとっていただき1~2週間以内に実施しますが、予約に空きがあれば初診時でも実施します。
 DR患者さんの診療は長時間にわたるため、中には低血糖を起こす患者さんがいる可能性があり、待ち合い室などで気分が悪そうにしている患者さんがいないか、看護師がよく気を配り、速やかに血糖測定を行うなどフォローをしています。蛍光眼底造影検査まで終えると、その後は診察室にて今後の治療方針を患者さんと決定します(右図)。

検査室

DR患者さんをフォローアップするための眼科と内科の連携

  • ■内科と共同で症例検討会を実施
  • ■連携により患者の生活背景などへの理解が深化
  • ■ムンテラでも、患者の行動変容につながるようなキーワードを組み込むように

 DME診療を行ううえでは、過去6ヵ月以内の脳血管および心血管イベントの既往歴をしっかり確認すること、そして内科医と連携をとり血糖値など全身のコントロールを良好に保つことが欠かせません。
 近年、当科では院内の内科と共同で症例検討会を実施するなどの診療科を越えた連携を強化し、これまで以上に密に患者さんをフォローアップできるよう取り組んでいます。
 これまで、「HbA1cが下がるように食事療法や運動療法をがんばりましょう」といった声かけだけでは、患者さんの行動変容に結びつけることが困難であると感じていました。この取り組みを通し、今まで見えづらかった患者さんの食生活などの生活背景がより明確になったため、最近はそれぞれの患者さんの状況を踏まえ、ムンテラに行動変容につながるようなキーワードを組み込むように心がけています。例えば、NPDRからPDRへ進行しそうな患者さんに対しては、この時点で血糖コントロールを行わずPDRへ進行した場合に、QOVに及ぼす影響や予後、内科的治療では改善が困難になることなどを説明して、患者さんに血糖コントロールを行うことの重要性に気付いていただき、行動変容につながるようなムンテラを心がけています。
 また、眼科のみならず内科での治療へのモチベーションも上げてもらうため、検査値が悪いことを指摘するだけではなく、治療目標値に達していなくても少しでも改善したらしっかりほめて、患者さんの努力を認めるようにしました。すると、よくなかった点を指摘したときに比べ、よかった点を認めたときのほうが、患者さんがより積極的に治療に取り組むようになってきたと感じています。
 今後も内科との連携をより密にとりながら、患者さんの将来のQOVを良好に保つためのフォローアップをしていきたいと考えています。

DME治療の実際

  • ■DME治療における初回治療の60~70%は抗VEGF療法

 DME患者さんに対する初回の治療としては、抗VEGF療法を選択するケースが近年増加傾向にあり、60~70%にのぼっています。一方、硝子体手術の割合は約5%と減少傾向で、網膜光凝固も約5%、残りがステロイド療法(トリアムシノロンアセトニドのTenon嚢下投与)となっています。
 浮腫が中心窩になく、その責任病変となる網膜毛細血管瘤からの漏出が確認される場合には、局所網膜光凝固を実施することもありますが、視力予後を考慮して抗VEGF療法を行うことのほうが多くなっています。硝子体手術は、患者さんの心理的負担や抵抗感が強く、治療に対するハードルが高いため、まずは抗VEGF療法やステロイド療法を実施して反応をみてから手術の適応を考えるようにしています。ただし、網膜牽引を認め、視力の低下をきたしている患者さんについては硝子体手術がファーストチョイスになることがあります(下図)。

DME治療の流れ

汎網膜光凝固(PRP)は、PRP前に浮腫がある場合はPRP後の炎症を抑える目的でステロイド療法を併用していますが、その後浮腫が消失しない場合に抗VEGF療法を併用するというパターンがあります。

抗VEGF療法が適している患者像

  • ■抗VEGF療法が適している患者像
  •  ①DMEの罹患期間が短い患者
  •  ②後部硝子体膜の肥厚がない患者
  •  ③硝子体による網膜牽引がない患者

 抗VEGF療法による治療効果が期待される患者さんの特徴として、①DMEの罹患期間が短いこと、②後部硝子体膜の肥厚がないこと、③硝子体による網膜牽引がないこと、の3つが挙げられます。
 まず、DMEの罹患期間が短ければ、視細胞層へのダメージが少ない段階で治療を開始できることがその理由です。視細胞層が一度ダメージを受けてしまうと、その後に抗VEGF療法を実施して浮腫が引いても、視力の回復が得られないことがわかっています。そのため、視細胞層が障害を受ける前の早期の段階から抗VEGF療法による治療介入をすることが好ましいといえます。
 また、中心窩に付着した後部硝子体膜の肥厚や、硝子体膜による網膜牽引が生じると黄斑部が変形し、視機能の低下が起こると、抗VEGF療法を実施しても網膜を正常化させることが難しくなってしまいます。そのため、黄斑部の変形が起こる前に治療介入することが重要です。後部硝子体膜の肥厚や硝子体による網膜の牽引がみられ、黄斑の変形をきたしている症例の場合には、硝子体手術がよい適応となります。

抗VEGF療法の実際

  • ■導入期は1ヵ月ごとに1回、連続3回投与注)
  • ■再投与の判断は、①中心網膜厚、②黄斑浮腫の有無により行う
  • ■最大5~6回連続投与して効果がみられない場合は中止してほかの治療法を検討

 抗VEGF薬の投与方法については、適宜投与(PRN:pro re nata)、定期投与、Treat and Extendという選択肢がありますが、当科では治療効果に基づき、必要に応じて迅速に対応できるPRNを採用しています。
 導入期として抗VEGF薬を1ヵ月ごとに1回、3回連続投与します注)。その後、抗VEGF薬に対する反応性を評価し、効果が認められない場合やさらに追加投与することで効果が高まると判断した場合には、1ヵ月に1回の投与を最大5~6回行い、PRNによる投与を継続します。なお、抗VEGF薬を最大5~6回連続投与しても効果がみられない場合は抗VEGF療法を中止し、ほかの治療法を検討します。
 PRN中の通院間隔は1ヵ月です。再投与の判断は①中心網膜厚、②黄斑浮腫の有無によって総合的に判断しています。つまり、患者さんの見え方が悪くなっていなくても、明らかに浮腫が再発し、中心網膜厚が増加している場合には抗VEGF薬の投与を勧めています。
 再発した場合には、再び抗VEGF薬の投与を行います。抗VEGF薬は高価なため、患者さんの経済的な事情により継続困難な場合もありますが、多くの場合は一度効果を得ているので再投与はスムーズです。
 抗VEGF療法実施上の工夫としては、リスクマネジメントのため、注射眼を間違わないように、診察を担当する医師が患者さんの注射眼側の手にマーカーでマーキングし、その後注射担当の医師が施術前に再度注射眼を確認するというダブルチェックの体制をとっています。
 また、抗VEGF療法の開始前に、説明用紙を用いて抗VEGF療法の必要性や手順、期待される効果と副作用についても十分に説明し、理解していただいたうえで実施しています(下図)。導入期における抗VEGF薬の投与回数に関しては、効果を持続させるために少なくとも3回は続けて投与したほうがよいということに加え、さらに2~3回投与すると効果が得られる場合があることを事前にしっかりと説明するようにしています。一方で、導入期の連続投与中に患者さんが治療を拒否されないようにするための工夫として、初回治療時、再発時にともに、自覚できる視力の改善がみられなくても、OCTでは中心網膜厚の減少がみられることが多いため、画像や数値を示しながら抗VEGF薬の効果をしっかりと示すようにしています。カラーマップを用いると、網膜全体における浮腫の程度が視覚的にとらえられるので患者さんにとってはわかりやすくモチベーションの向上につながるようです。

注)使用に際しては薬剤の添付文書をご参照ください。

患者説明用紙

抗VEGF薬の治療の意義

  • ■抗VEGF薬により硝子体手術の件数、入院が減少

 抗VEGF薬の登場により、硝子体手術の件数が減ってきたことを実感しています。硝子体手術は、機器や手技の進歩等により侵襲を低減した手術が可能になり、硝子体による網膜牽引のある症例や後部硝子体膜の肥厚がみられる症例にはよい適応です。しかし、硝子体手術は網膜剝離や術後出血などのリスクを抱えています。また、視力が良好な患者さんにとっては、入院を必要とする硝子体手術はたとえよい適応であったとしても心理的な抵抗感が少なくありませんでした。抗VEGF療法は低侵襲な治療法であり、既に比較的視力が良好なDME患者さんの初期の段階におけるよい治療選択肢のひとつになっていると感じていますが、今後さらに抗VEGF療法がDME治療の中心的役割を果たすようになると考えます。

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