実臨床における取組み

 

長崎大学病院

長崎大学病院

■長崎大学病院のご紹介

長崎大学病院の歴史は、1861年に長崎小島郷稲荷岳に開設された長崎養成所に始まり、2011年には開院150周年を迎えました。現在、長崎大学病院には医師をはじめ約2,700名の職員が勤務し、県下唯一の大学病院として長崎県の医療の発展・向上に貢献しています。長崎県は多くの離島を抱え、また山が多く移動に時間がかかることからも地域の拠点病院の役割は重要で、同施設は大学病院として長崎県下の拠点病院に十分な人材を派遣する役割も担っています。

長崎県では眼科領域の手術、注射が必要な患者さんの多くが同施設の眼科を受診しています。また、被爆都市であるため、被爆者健康手帳(自己負担分の医療費が無料)をお持ちの方も受診します。今回は、同施設の眼科において、糖尿病網膜症(DR:diabetic retinopathy)および糖尿病黄斑浮腫(DME:diabetic macular edema)患者さんの診療に中心的に携わっていらっしゃる築城英子先生、松本牧子先生にお話を伺いました。

DME診療の体制

DME診療にかかわる眼科スタッフ

  • ■医 師:15名(毎週木曜日の糖尿病網膜症専門外来で1日約30名のDME患者を診察)
  • ■看護師:3名
  • ■視能訓練士(ORT):8名

当科では15名の眼科医で、1ヵ月あたりのべ300名のDR患者さん、120名のDME患者さんの診断・治療を行っています。月・水・金曜日が初診日、木曜日が糖尿病網膜症専門外来日(以下、糖尿病外来)です(表1)。糖尿病外来のDR患者さんの診察数は1日に50名程度ですが、そのうちDME患者さんは30名程度です。

外来診療ブースは11あり、そのうち10ブースで医師がそれぞれ診察を行っています(写真1)。残りの1ブースは処置・注射用として使用しています(写真2)。抗VEGF薬の注射を行う患者さんには診察・検査後に処置・注射用ブースへ移動してもらい、注射担当の医師が投与を行います。

表1:外来診療スケジュール

表1:外来診療スケジュール

※表中の「硝子体内注射」は主に加齢黄斑変性治療におけるものであり、DME患者さんへの治療は木曜日の糖尿病網膜症専門外来日に行います。

写真1:外来診療ブース

写真1:外来診療ブース

写真2:処置・注射用ブース

写真2:処置・注射用ブース

DMEの患者像

  • ■初診は眼科からの紹介が基本
  • ■通院中のDME患者は全例が治療中
  • ■通院中のDME患者の15%がSDR、60%がPPDR、25%がPDR

初診の患者さんは他の眼科からの紹介を基本としています。初診でDRと診断された患者さんは、木曜日の糖尿病外来で治療開始となり、注射やフォローアップも同外来で行いますが、レーザー治療のみの患者さんは水・木曜日のレーザー外来を受診してもらいます。

当科に通院中のDME患者さんの約15%が単純糖尿病網膜症(SDR:simple diabetic retinopathy)、約60%が増殖前糖尿病網膜症(PPDR:pre-proliferative diabetic retinopathy)、約25%が増殖糖尿病網膜症(PDR:proliferative diabetic retinopathy)です。

また、当院は基幹病院の役割を果たすため、当科での治療介入が必要な患者さんを診療し、フォローアップしています。

そのため当科に通院中のDME患者さん全員に治療を行っています。ただし治療介入後、経過観察を行い、半年間ほど治療を必要としなかった場合は、かかりつけ眼科にお戻しするようにしています。

DMEの検査から治療まで

  • ■初診の検査後に治療法や費用などについてパンフレットを用いて説明
  • ■初診時の検査結果をもとにカンファレンスで話し合って治療方針を決定
  • ■早期に治療介入ができるよう、初診時に直近の糖尿病外来を予約して再来院してもらう

図1:DMEの検査から治療開始まで

>図1:DMEの検査から治療開始まで

当科におけるDMEの検査から治療までの流れを図1に示します。初診時は問診のほかに、無散瞳下で視力検査、眼圧検査、前眼部検査を行い、散瞳後に眼底写真撮影、網膜血流測定、OCT検査を行います(写真3)。蛍光眼底造影検査は初診時もしくは、月曜日午後の造影外来で行います。患者さんには初診の検査後に治療法や高額療養費制度などについて、製薬会社が作成しているパンフレットを用いて説明します。同時に、直近の糖尿病外来に予約を入れ、早期に治療介入できるようにしています。初診後のカンファレンスでは初診時に行った検査結果などをもとに治療方針を話し合います。再診時に患者さんに検査結果を伝えるとともに、カンファレンスにて決めた治療方針を説明し、同意が得られた場合は治療を開始します。患者さんは初診時に渡したパンフレットで疾患や治療法について勉強しているため、再診時に行う治療について理解されています。

写真3:検査室

写真3:検査室

DME治療の実際

  • ■DME治療の約8割は抗VEGF療法を実施
  • ■抗VEGF薬の投与はアイリーアの場合、導入期注)は1ヵ月ごとに1回、連続3~5回投与注)
  • ■網膜症の治療が必要な場合にはPRP、浮腫の原因と考えられるMAには局所光凝固を施行

当科における具体的なDMEの治療フローを図2に示します。DME治療は抗VEGF療法を基本としており約8割の患者さんがこの治療を受けています。治療を開始する前に全例に蛍光眼底造影検査を行い、光凝固を併用する必要性があるかどうかを検討します。同時にDRに対する治療が必要な患者さんには汎網膜光凝固(PRP:panretinal photocoagulation)を併用します。PDR患者さんでは全例にPRPを行い、PPDR患者さんではPRPもしくは選択的光凝固(TRP:targeted retinal photocoagulation)を行います。浮腫の原因と考えられる毛細血管瘤(MA:microaneurysm)が認められた場合にはMAに対して局所光凝固を行います。抗VEGF療法との併用を含めて約15%の患者さんに実施しています。

導入期注)に抗VEGF薬としてアイリーアを選択した場合、毎月投与を3~5回連続で行い、維持期注)には適宜投与(PRN:pro re nata)あるいはTreat and Extendを行っています。導入期注)に3~5回の連続投与を行うのは、導入期注)に頻回投与を行ったときの有効性を治験や実臨床の経験から実感しているためです。1回の抗VEGF薬投与で効果が現れるケースはほとんどなく、連続して投与を行わないと効果が得られにくいので、最初に3回分の投与予約を取ることを勧めています。DMEは特に視力がゆっくりと、徐々に改善していくところが特徴的であると感じており、患者さんも6ヵ月くらい経過して徐々に実感が得られるようです。効果が現れ、投与間隔が延びてきた維持期注)の患者さんには2~3ヵ月ごとに受診してもらい、再注射に備えて受診日の3日前から抗菌点眼薬を使用してもらいます。再投与の判断はOCT所見(主に網膜厚カラーマップ)に基づいて行いますが、通常は350~400μmを超えた時点で検討します。なお、患者さんから視力低下の訴えがあった場合には再投与を行います。

このほか、患者さんの経済的理由で抗VEGF薬を選択できない場合や、硝子体手術の施行例などの場合は、STTA(トリアムシノロンアセトニドTenon嚢下投与)を検討します。抗VEGF薬の登場以降、当科では硝子体による網膜牽引が認められる場合も、まずは抗VEGF療法を検討しており、DMEに対する硝子体手術は必要性が低くなったためほとんど施行していません。

なお、抗VEGF薬で治療を開始した後はほかの治療に切り替えることはなく、2種類ある抗VEGF薬内での切り替え、またはSTTAの併用が選択肢となります。

注)使用に際しては薬剤の製品添付文書をご参照ください。

図2:DMEの治療フロー

図2:DMEの治療フロー
  • ・通常、STTAと抗VEGF療法は併用しない
  • ・眼内レンズ(IOL)使用の場合は白内障のリスクがないためSTTAの併用を検討
  • ・硝子体手術後や、経済的理由などで抗VEGF療法を選択できない場合はSTTAを検討

かかりつけ眼科との連携を重視

  • ■DMEの治療中はかかりつけ眼科と密に連携
  • ■患者手帳を用いて検査結果や注射の予定を共有
  • ■最終治療から半年以上浮腫がみられず治療が不要となった場合はかかりつけ眼科にお戻しする

図3:かかりつけ眼科との連携

図3:かかりつけ眼科との連携

写真4:患者手帳

写真4:患者手帳

当科では地域のかかりつけ眼科との連携(図3)を重視しており、当科で抗VEGF薬を投与した翌日に必ずかかりつけ眼科を受診してもらいます。その際には製薬会社が作成している患者手帳(写真4)を用いて、紹介元の先生方(かかりつけ眼科)と密に連絡をとり、『患者さんを一緒に治療している』という気持ちになっていただきたいと考えています。患者手帳に検査の結果や注射の予定を記載しているので、かかりつけ眼科は治療の状況や次にいつ患者さんが自院を受診するのかを患者手帳から知ることができます。このように治療中は当科とかかりつけ眼科にて併診しており、維持期注)の患者さんが当科を受診しない月はかかりつけ眼科を受診してOCT検査を受けます。そして、最終治療から半年以上浮腫がみられず、治療が不要となった場合は最後に蛍光眼底造影検査によって眼底を確認した後、当科での治療は一旦終了し、かかりつけ眼科にお戻ししています。また、かかりつけ眼科がレーザー機器を有していて、レーザー治療のみの患者さんや、STTAのみを行う場合にはかかりつけ眼科で実施していただき、その結果も患者手帳に記入してもらいます。

患者さんとのコミュニケーションの重要性

  • ■抗VEGF療法のメリットとデメリットを十分に説明する
  • ■治療効果を実感するためには複数回忍耐強く注射することを強調
  • ■モチベーションを維持してもらうため、OCT画像などを示しながら
    治療効果を実感していただく
写真5:患者さん向けの冊子

写真5:患者さん向けの冊子

患者さんへのムンテラ(表2)では、疾患や治療についてわかりやすく伝えることを重視しており、製薬会社が作成している患者さん向けの冊子(写真5)やOCT画像を活用しています。

抗VEGF療法については、メリット(浮腫・視力の改善、手術回避の可能性など)とデメリット(効果はすぐには現れない、治療費が高額など)を十分に説明し、その患者さんの医療費負担割合や家庭環境なども確認しています。抗VEGF療法を実施することへの同意が得られた患者さんには、薬の効果はずっと続くわけではないため繰り返しの治療が必要であることも最初にお伝えした上で、治療開始前に「1回目の注射で効果が現れる患者さんはほとんどいませんが、注射を続けるとじわじわと視力が改善していきますから、3回くらいまではがまんの時期と考えて注射を続けてみましょう」などと説明しています。

安全性に関しては、特に感染性眼内炎、脳卒中などのリスクがあることを説明しています。注射の翌日にはかかりつけ眼科を受診してもらうことになっているため、患者さんには「何か変わったことがあったら、明日かかりつけ眼科を受診した際に必ず伝えてくださいね」と話しています。このように治療に対する正しい理解をしていただくことで、多くの患者さんから抗VEGF療法を受け入れていただいています。

一方、抗VEGF療法は、1回の治療費が高額であること、硝子体内注射への恐怖などから、治療を躊躇する患者さんも見受けられます。それでも、高額療養費制度を適用できる場合には患者さんの自己負担額が軽減されること、注射時の痛みには個人差があることを説明し、患者さんが抱えている不安の解消に努めています。なかなか同意が得られない患者さんには「1回だけでも予約して注射してみませんか」と話し、注射後に次回の注射を予約するように説得することもあります。

また、治療開始後に視力の改善が感じられなくても、OCTでは網膜厚の減少が確認できるケースが多いことから、導入期注)の連続投与中に患者さんから治療継続を拒否されないためにも、患者さんご自身のOCTの断面像や網膜厚マップを用いて治療経過を提示しながら抗VEGF薬の効果を説明することも大切です。加えて、治療は一生続くわけではないこと、どのような症状(硬性白斑、MA、網膜出血など)の改善に寄与するかについても説明することで、治療継続へのモチベーションアップにつながると考えています。再投与が必要となった患者さんには、「浮腫の改善と視力の改善は一致するわけではなく、視力が改善しても浮腫があれば再び低下する可能性があります」と説明し、再投与について納得していただくように努めています。

注)使用に際しては薬剤の製品添付文書をご参照ください。

表2:抗VEGF療法に関する説明のポイント

表2:抗VEGF療法に関する説明のポイント

抗VEGF療法の今後の課題と展望

  • ■最小限の回数で最大限の効果が期待できる抗VEGF薬の投与レジメンの確立が待たれる

抗VEGF療法で得られる効果は患者さんによって異なり、その予測は容易ではありません。抗VEGF薬が眼科の臨床の場に登場して以来、DME治療に抗VEGF療法が広く用いられるようになりましたが、効果が得られるまでに複数回の投与が必要であること、1回あたりの治療費が高額であり、高額療養費制度を利用してもなお患者さんの自己負担が大きいことが問題となっています。今後はこうした課題の解決に向けて、レーザー治療やSTTAの併用を含め、最小限の回数で最大限の効果が期待できる抗VEGF薬の投与レジメンの模索、DME治療のゴールドスタンダードの確立が待たれます。

L.JP.MKT.OP.04.2017.0984

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