実臨床における取組み

 

杏林大学医学部付属病院

杏林大学医学部付属病院 眼科(杏林アイセンター)

■杏林大学医学部付属病院 眼科(杏林アイセンター)黄斑外来のご紹介
○黄斑医療スタッフ 眼科医:8名/看護師:3名/視能訓練士(ORT):20名
○患者数 加齢黄斑変性患者:120〜150例/1日受診患者数:平均350名

 東京都三鷹市にある杏林大学医学部付属病院は、東京西部地区三多摩の中核医療センターの役割を果たしています。同院の眼科部門は1999年に杏林アイセンターとして設立され、黄斑専門外来日には1日あたり平均120名ほど、多いときには180名にのぼる加齢黄斑変性(AMD)の患者さまを診療されています。今回は、岡田アナベルあやめ先生(医師)、山本亜希子先生(医師)、鴇沢亮先生(医師)、名畑浩昌さん(ORT)、右近由香さん(看護師)にお話を伺いました。

Treat and Extend のメリット・デメリット岡田アナベルあやめ先生

Treat and Extend導入の経緯

 加齢黄斑変性(AMD)の滲出性変化により、中心視力が低下するのはいうまでもないことです。したがって、滲出性変化が出現しないよう、安定した状態をいかに作っていくのかを治療の目標にするべきです。抗VEGF療法が日本に入ってきた当時は、必要時投与(pro re nata:PRN)が主流でした。しかしその後、欧米のエビデンスや診療パターンにおいて、Treat and Extendのほうが視力維持に有効であると考えられました。そこで当センターでは、患者さまにとって最も有益な治療法を提供したいという強い気持ちをもって、Treat and Extendを導入しました。

Treat and Extendのメリット

 Treat and Extendは、滲出性変化が抑制されている状態を維持しながら、投与間隔を4週間ごとから少しずつ延長していくという方法です。考えてみると、難しい概念ではなく、糖尿病や高血圧、ほかの慢性疾患の治療と同様に、病的な状態の抑制を維持するということです。しかし、実際に導入してみると、Treat and Extendのメリットは視力維持だけではないことがわかりました。それ以前のPRNでは、患者さまは毎月来院する必要があり、時間や費用、身体的な負担だけでなく、来院したその日に投与されるかどうかわからないという精神的な負担が大きかったようです。一方、Treat and Extendでは、来院日に必ず投与があるので、この精神的なストレスがかなり軽減されます。また、投与間隔がうまく延長できれば、当然、時間や費用、身体的な負担も軽減されます。医師側における重要なメリットとして、診察日にかかる説明の時間が短くなることが挙げられます。来院日に必ず投与するので、投与するかしないかという議論がなくなり、滲出性変化の有無によって、投与間隔を延長、同じ、もしくは短縮しますという簡単な説明になるからです。当センターのように非常に混雑する診療所では、患者さまの投与間隔が延長できるようになると、一人あたりの来院数が減ることで、混雑もある程度緩和され、スタッフの負担が軽くなることが期待されます。

Treat and Extendのデメリット

 初めに患者さまへTreat and Extendに関してきちんと説明する必要があります。その概念はそれほど難しくはないので、ほとんどの患者さまがTreat and Extendによる治療をぜひ受けたいとおっしゃいます。一方、診療所においては患者さまの投与間隔が延長・短縮することにより、週によっては外来の患者さまが集中することがあり、毎週の外来の予約数を均一にすることができません。したがって、これに対応できる体制や豊富な人材(医師、看護師、ORT)を備えることが重要になります。

患者さまにとってベストな治療法とは

 最終的に患者さまにとって何が最も有益なのかを考えるのは医師の務めです。その観点から考えたとき、AMD患者さまへの治療法はTreat and Extendがベストであると考えます。ぜひ、他の診療所でも試みてもらえればと思います。

Treat and Extend のチーム医療

効率化のための工夫

―毎日、多くの加齢黄斑変性の患者さまが来院されるとのことですが、
効率的な診療のためにどのような工夫をされているのでしょうか。

名畑さん

名畑さん(ORT):黄斑外来の診察までに検査が終了するように、ORTはさまざまな工夫をしています。眼科全体と黄斑外来の1日の予約数を考慮して患者さまの順番を変えることや、検査の流れを工夫すること、視野検査の結果などから視力を予測して視力検査を行うことなどにより、時間短縮を図っています。また、検査の内容や動作についての説明をスタッフ間で統一しておくと、患者さまが次第に慣れてスムーズに進められます。さらに、オーダーが集中するOCT検査のスタッフを固定し、別のスタッフが患者さまを呼び入れるようにすることでスタッフの入れ替え時間も短縮できます。

安全性を保持するための工夫

―抗VEGF薬を安全に投与するための工夫がありましたら教えてください。

右近さん(看護師):治療眼と治療薬の確認は、注射室に入る前に必ず看護師が2人で行い、麻酔を点眼する際には患者さま自身にも治療眼と薬剤名を言っていただくようにしています。注射室ではさらに医師と看護師で確認を行います。また、注射介助担当の看護師が注射だけに集中できるように、その他のスタッフが協力することも安全につながっていると思います。

鴇沢先生:主に注射を担当している私は、眼内炎の予防を徹底しています。手術のときと同様に、皮膚の消毒および眼瞼と結膜の洗浄を行っています。また、開瞼器を装着したときにマイボーム腺からの分泌物などがみられた場合には、再度洗眼を実施するなど、細心の注意を払っています。

岡田先生:口腔からの菌が眼内炎の原因のひとつであるといわれているので、当院では注射の際、術者はマスクを着用し、患者さまにはドレープを使用しています。このような徹底した管理により、当院では今のところ眼内炎が発生したことはありません。

AMD診療に関して心がけていること

―AMD診療に関して心がけていることにはどのようなことがありますか。

鴇沢先生

鴇沢先生:注射時の患者さまの痛みに対する恐怖や不安を和らげるために、ドレープをかけた後も患者さまに声かけをしたりして落ち着いてもらえると良好な固視が得られ、正確に穿刺をすることにも役立っています。

右近さん:看護師は、待ち時間に患者さまと他愛のない話をして、少しでも和んでいただけるようにしています。また、眼科の経験が浅く知識が十分ではない看護師には、なぜその知識が必要なのか理由を伝えて学習してもらうようにし、実務を通して必要な知識の確認も行っています。その際、一方的に教えるのではなく、自分で考えられるような質問をし、根拠となる知識を私自身も身につけるようにしています。

名畑さん:われわれORTは、撮影技術などの情報収集のために検査関連の研究会に参加して撮影のコツなどを学んだり、医療機器の展示会に参加して新しい機器や機能の情報があれば医師にフィードバックしたりしています。また、AMDの病態や最新の知見を学ぶため勉強会や学会にも参加しています。スキルアップが実感できると、自然とやりがいを感じます。患者さまとのコミュニケーションも大切にしており、「あなたに検査してもらえてよかった」などと言われるとさらにモチベーションが上がります。

チームのメンバーに助けられていること

―チームのメンバーに助けられていることにはどのようなことがあるのか教えてください。

岡田先生

岡田先生:私たちのチームは「患者さまのための治療」を目指して、全員が「患者さまのために何ができるか」を考えています。その思いが一致しているため、職種は関係なく、気になることはその都度、話し合って体制を改善してきました。大切なのは、普段からコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことだと思います。それによって、意見を交換しやすくなり、さまざまな問題や改善策が出されます。スタッフは患者さまへの思いが強く、非常に優秀で努力しているため、いつも助けられています。職種ごとで言えば、看護師の提案で導入した看護指導も診療をスムーズにしてくれています。受診が2回目以降で特に問題がない患者さまに対する注射後の説明・注意事項の確認は看護師が行っています。

右近さん

右近さん:看護指導を始めるにあたっては、先生方と十分に話し合い、指導方法やカルテへの入力フォーマットなどをマニュアル化しました。専門的な知識も必要であるため、先生方と相談して看護指導を行うスタッフを決めています。説明時は感染予防薬を点眼する眼と日程などが記載された説明用紙を用いて、それを毎回持ち帰っていただき、ご家族にも確認してもらえるようにしています。患者さまの理解力、聴力や視力などに合わせて説明の仕方を工夫することも大切だと思います。

治療説明用紙
山本先生

山本先生:看護指導導入により診療時間の効率化が図れただけではなく、医師がキャッチアップできなかった情報を拾い上げて、フィードバックしてもらえるようになり、大変助かっています。

岡田先生:当センターでは新しい撮影機器を積極的に取り入れているのですが、その都度、ORTは機器の操作方法を学び、適切な検査を行ってくれるため感謝しています。

山本先生:ORTは検査だけではなく、AMDの病態などについても学んでいるので、検査時の患者さまからの質問に対し、可能な範囲で回答してくれます。このような対応は、患者さまの安心感につながっているように思います。

岡田先生:患者さまの満足度を決めるのは、視力や視野などの症状の改善はもちろんですが、精神的な充足感が半分程度を占めていると考えられます。待ち時間が長く、われわれ医師と話す診察時間はごくわずかという状況で、看護師やORTによるケアは大きな役割を担っています。

今後のチームについて

―最後に、今後のチームの方向性について教えてください。

山本先生:より良い診療を行うためにできることを謙虚に考え、前向きに改善していくことが大切だと思います。そのために、今後も積極的に意見を交わせる雰囲気作りを続けていきたいと考えます。

岡田先生:現状に満足せず、課題や改善策を常に考え、チーム一丸となって患者さまにとってベストなAMD診療が何かを追求し続けていきます。

 日本における中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性に対するアイリーアの承認されている用法・用量は、「アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけること。」です。

当院の概要

 当院では毎週水、木曜日を黄斑専門外来とし、抗VEGF薬を投与する注射日としています。1日に来院される患者さまは120~150名ほどです。黄斑専門外来には、医師8名(診察医と注射医)、コメディカルスタッフ総勢20名、注射介助担当の看護師3名、クラーク3名で臨んでいます。
 現在当院で抗VEGF療法を行っている患者さまは週に120~150名ほどで、2015年の抗VEGF薬硝子体内注射件数は6,412件でした。このうち、滲出型加齢黄斑変性が90~95%を占めており、残りが近視性脈絡膜新生血管(myopic choroidal neovascularization:mCNV)、点状脈絡膜内層症(punctate inner choroidopathy:PIC)や網膜色素線条(angioid streaks)の症例です。滲出型加齢黄斑変性における病型の内訳は、典型加齢黄斑変性55%、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:PCV)40%、そして網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation:RAP)が5%程度です。

来院時のフロー

 患者さまが来院された時、まず最初に視力および眼圧検査を受けていただきます。
 初診時の流れは基本的には下図に示すように、視力、眼圧、両眼の散瞳を行った後、写真室でOCT検査と眼底写真を撮影して診察という流れです。抗VEGF薬の注射が必要と判断した場合は、同日に外来処置室で注射を行います。また、蛍光造影検査は緊急性がなければその日には行わず、1週間以内に実施し、その翌週から注射を開始する場合もあります。

院内フローおよび実施場所

Treat and Extendにおける投与間隔の調節

 抗VEGF薬の投与方法には、Treat and Extend、PRN、定期的投与がありますが、当院ではほとんどの患者さまに対し、Treat and Extendによる治療を行っています。その理由は、Treat and ExtendはPRNや定期的投与に比べてdry化率が高いという実感があるからです。また、PRNでは毎月の来院が必要で、診察や説明に多くの時間が必要であり、定期的投与では治療不足・治療過多の可能性がある、というデメリットも理由のひとつです。
 当院におけるTreat and Extendでは、まず導入期として1ヵ月ごとに1回、連続3回投与を行います。その後もdry化が得られるまで月ごとの投与を継続します。投与間隔の延長は2週間単位で、dry化が2回連続得られた場合に行います。再発時には、再びdry化が得られるまで投与間隔を2週間単位で短縮していきます(下図)。出血で再発する場合はさらに短縮します。

杏林大学医学部付属病院 眼科での Treat and Extend

 ただし、何度も再発を繰り返す症例に対しては投与間隔の延長は慎重に行います。延長・短縮を1週間単位で調節したり、延長の基準を2回連続dry化ではなく3回連続とするなど、患者さまの状態を見ながら決めています。結果的に、4週間ごとの定期投与となるケースもあります。また、RAPの症例では12週まで延長すると再発することを経験し、8週まで延長して慎重に経過をみるようにしています。なお、すでに片眼の視力が不良である患者さまの場合には、残された眼の視力をこれ以上悪化させないよう、より慎重に治療を行っています。

延長・短縮の基準

 当院におけるdry化の判断基準は、①OCT検査において網膜内および網膜下に滲出性変化を認めないこと、②網膜色素上皮剥離(retinal pigment epithelial detachment:PED)の丈が最も低くなること、③出血が消失することとし、これを2回達成したら延長します。dry化2回達成を延長基準に定めた理由は、1回のdry化達成では2回目に同間隔で滲出が悪化した症例を経験し、より確実にdry化を保つためには同じ週数で2回連続dry化を達成することがベストと判断したためです。なお、最長投与間隔は12週間としており、この投与間隔でdry化を4回連続達成した場合、休薬を検討することもあります。
 Wetの判断基準はOCT検査において滲出性変化を認めた場合、あるいは新たな網膜出血を認めた場合、PEDが拡大した場合としています。最短投与間隔は4週間です。投与間隔の延長・短縮は基本的には2週間単位ですが、それで安定しない場合は1週間単位にするなど、それぞれの患者さまに合った投与間隔を設定するようにしています。

 日本における中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性に対するアイリーアの承認されている用法・用量は、「アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけること。」です。

L.JP.MKT.OP.03.2018.1270

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