実臨床における取組み

 

北九州市における病診連携の取り組み
~Treat and Extendを軸としたAMD治療戦略~

AMD治療戦略をTreat and Extend (T&E)投与にシフト 地域医療機能推進機構(JCHO)九州病院 統括診療部長 眼科部長 藤澤 公彦 先生

北九州黄斑疾患研究会の立ち上げと“3つの目標”

 2012年当時、約100万人都市だった北九州市で抗VEGF薬治療(硝子体内注射)を実施する医療機関は産業医科大学病院・小倉記念病院・JCHO九州病院のわずか3施設しか存在しませんでした。北九州市は全国の政令指定都市の中でも最も高齢化が進んでおり、3施設の硝子体内注射件数は右肩上がりで、診療体制に大きな危機感を抱いていました(図1)。

図1

藤澤 公彦:日本の眼科. 2018; 89(6): 795-797

 抗VEGF薬の適応症が中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(AMD)に加えて、網膜静脈分岐閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫、糖尿病黄斑浮腫(DME)にまで拡大されたことも、注射件数の増加に拍車をかけました。将来的にも高齢化に伴う患者数の増加が予想され、AMD診療において病診連携を構築しなければ、3施設の眼科診療がパンクしてしまうことは明らかでした。
 そこで連携体制を構築するために、2012年3月に北九州黄斑疾患研究会を立ち上げて“3つの目標”を掲げました。

AMDの病診連携における“3つの目標”

  • 特定の医療機関に偏りがちである硝子体内注射件数を分散化する
  • 患者さんの医療機関受診に要する時間を減らす
  • 治療の質を落とさない
    (視力改善率・維持率を落とさない)

 現在、北九州市内に約100施設ある眼科のうち約8割が研究会に参加し、そのうちの64施設がAMD地域医療の連携手帳(パス)と連携マニュアルを用いた病診連携に参加しています(図2)。

図2

藤澤 公彦 先生 ご監修

 病診連携は治療担当施設(硝子体内注射や光線力学的療法を実施)と協力施設(患者紹介と経過観察を担当)の2施設間でパスを持った患者さんが行き来するイメージです。連携パスおよび連携マニュアルはJCHO九州病院眼科のホームページに掲載しています。

患者さんの受診時間が連携により半減

 “3つの目標”のうち、2つめの目標(患者さんが医療機関受診に要する時間を減らす)が最も早く達成されました。硝子体内注射後の経過観察を協力施設に依頼したことで、パス運用前は平均3.8時間であった患者さんの受診に要する時間が、運用後は1.9時間に半減しました。治療を分担したことに対する満足度も多くの患者さんが『満足』と回答されました。研究会立ち上げから学会発表までの期間を第1期(2012~2013年)と位置づけ、この結果を2013年の第67回日本臨床眼科学会で発表しました。
 BRVOとDMEを対象に硝子体内注射を実施する医療機関は早い段階で40施設以上に増えましたが、AMDを対象に実施する施設は10施設にも満たず、BRVOやDMEと比較してAMD治療の効果(視力改善幅)に疑問を抱く開業医の先生方が多かったことがその背景にあると感じました。実際に『「大きな病院で治療したほうが結果が良かったのではないか」と患者さんに思われることが不安』という声を開業医の先生方から耳にしました。1つめの目標である硝子体内注射件数の分散化は、AMD連携に限って言えば一筋縄ではいきませんでしたが、治療法を地域で標準化することにより、解決できるのではないかという思いもありました。

研究会で治療を標準化して患者さんの不安を解消

 2013~2015年の第69回日本臨床眼科学会までの期間を第2期と位置づけ、3つめの目標である「治療の質を落とさない(視力改善率・維持率を落とさない)」に取り組みました。
 この間に実施したアンケートによると、約80%の患者さんの視力が改善または維持できたという結果が報告されました。PRN(pro re nata:必要に応じ随時) 投与に基づく病診連携は一定の成果を得られましたが、連携を始めるモチベーションとなった1つめの目標(特定の医療機関に偏りがちである硝子体内注射件数を分散化する)を達成するためには、北九州の治療プロトコールを統一し、どの医療機関でも同じ治療が受けられることを地域にアピールする必要があると感じました。
 現在、連携するすべての医療機関にポスター(図3)が掲示されています。ポスターには、患者さんの不安を払拭するために「クリニック、病院、大学病院で、治療方法は同一です」「国内、海外のデータを分析し、最良の治療を目指しております」といった内容が記載されています。開業医の先生方にとっても、北九州で標準化されているAMD治療に参加している医療機関であることを標榜できることは、地域住民に対するPRにつながると思います。

図3

抗VEGF薬の投与レジメンをT&E投与に変更

 抗VEGF薬の投与レジメンをPRN投与からT&E(Treat and Extend:個々の患者さんに合わせて投与間隔を適宜調整)投与(図4)に変更したことも、患者さんの不安解消につながりました。

図4

藤澤 公彦 先生 ご監修

7年ほど前の学会で「患者さんが注射をするとわかった上で受診した場合の安心感は違う」という内容とともに、T&E投与について初めて聞いた時は、少し違和感を覚えました。当時は、PRN投与を突き詰めれば、理想的なAMD治療につながると考えていました。しかし、「今後はT&E投与が主流になるかもしれない」という思いからT&E投与に取り組んでみたところ、患者さんがこれまで以上に良い経過をたどることを経験しました。この実績をもとに、研究会会員の先生方と議論を重ねてAMDの治療戦略を変更し、再治療基準をわかりやすくするとともに、再治療の投与期間を治療薬ごとに設定しました。

第3期におけるAMD治療の新しい北九州方式

  • 抗VEGF薬の投与レジメン変更
    ・PRN投与 → T&E投与
  • 再治療をするかどうかの診断基準の簡素化
    ・any fluid(浮腫や出血があるか)
  • 薬剤ごとの適正な投与間隔延長の設定
    ・アフリベルセプト:16週まで
    ・ラニビズマブ:10週まで
  • 初回3回投与後の維持投与開始の時期設定
    ・アフリベルセプト:8週目
    ・ラニビズマブ:6週目

各薬剤の用法・用量については各薬剤の添付文書をご参照ください

 治療戦略を変更した第3期(2015~2018年)の成果は、AMDを対象に抗VEGF薬治療を実施する施設数にあらわれました。2017年8月時点では39施設、2019年6月時点では50施設を超えました。新しい“北九州方式”が特に開業医の先生方にとってAMD治療への一歩を踏み出すきっかけになったと思います。

T&E投与導入に対する抵抗感

 開業医の先生方の中にはT&E投与に抵抗を示されることも導入当初にはありました。厳密なPRN投与を続けたいという先生もいらっしゃいましたが、所見の悪化を確認した時点で視力低下が進んでいることを説明し、研究会内のT&E投与の実績を見ることで、徐々にT&E投与に切り替える先生方が増えています。
 また、基幹病院の専門医が患者さんの経過を把握しづらくなることを懸念する声もありましたが、OCT検査で浮腫や出血があるかどうかをチェックすることで、開業医の先生方も症状の悪化を見逃すことはありません。また、OCT画像の読み方についても講習会を実施していますので、病院勤務医の先生方に比べて開業医の先生方の診断力が劣ることはありません。
 従来のPRN投与は、悪化なのか維持なのか、診断力や判断のポイントが求められ、難しい判断を迫られていました。それに対してT&E投与はfluidがあるかどうかが判断基準になります。

再紹介の判断基準

眼底検査(細隙灯顕微鏡検査、OCT検査)における網膜病態の判断基準

<眼底所見による判断基準について>
出血あるいは滲出性変化(網膜浮腫など)がある場合

<OCT検査による判断基準について>
網膜厚の増大、CME・SRDの増大、出現など活動性を認める所見がある場合

該当する所見が認められた場合に再紹介とする

CME:嚢胞様黄斑浮腫 SRD:漿液性網膜剥離

抗VEGF薬の投与レジメンをT&E投与に変更して予想以上の手応え

 AMDの病診連携における“3つの目標”のうち、最も重要なことは、3つめの「治療の質を落とさない」ことです。すでに論文も発表されつつありますが1)、症状悪化時に事後的に投与するPRN投与に比べて、事前に計画された投与間隔を検査結果に応じて調節するT&E投与のほうが、明らかに患者さんの視力経過が良く、抗VEGF薬の投与レジメンを変更して良かったと実感しています。所見の悪化から視力が低下するまでは約1ヵ月ありますが、その前に硝子体内のVEGF濃度が上がっているという事実を考えると、PRN投与よりも、検査結果に応じて調節するT&E投与のほうが良いと思いますし、患者さんからも視力が改善(維持)されないのでは、という心配の声を聞かなくなりました。

今後の取り組みと目標

 北九州市で取り組んできたAMDの病診連携により、3施設に集中していた硝子体内注射は、BRVOやCRVOを含めて50施設以上の医療機関が取り組むようになりました。今後もAMDを中心に抗VEGF薬治療を実施する施設数は増え続け、最終的には60~70施設まで増えると期待しています。現在、研究会では、硝子体内注射を連携前から実施していた小倉記念病院と産業医科大学病院とともにDME地域医療の連携パスの構築に取り組み始めています。2020年度の診療報酬改定では、病診連携や連携パスにさらなるインセンティブがつくことを期待しています。過去に診療報酬で評価された取り組みのプロセスを見ると、医療費の削減が評価されていると感じます。我々は、患者さんの受診に要する時間を短縮することで負担を軽減し、視力を回復させるために連携を進めています。我々の取り組みが医療費を削減するかどうかはわかりませんが、介護者の負担の軽減などの経済的なアウトカムには寄与できると思っています。今後もデータを集め、評価していただけるように分析も進めます。
 今後の目標は連携の“デジタル化”です。福岡の病診連携のICT「とびうめねっと」を活用させていただきながら、最終的にはクラウド化して、患者さんがスマホ等から自身の情報にアクセスできるようにしたいと考えています。

1)Hatz K, Prünte C: Acta Ophthalmol. 2017; 95(1): e67-e72

北九州AMD地域医療連携パス
地域医療機能推進機構(JCHO)九州病院
PP-EYL-JP-0537-18-11

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