アイリーア治療戦略

 

抗VEGF薬による
糖尿病黄斑浮腫治療のエビデンスと
実臨床における治療戦略

DME

糖尿病網膜症患者において発症する糖尿病黄斑浮腫は視力低下の要因となり、患者のQOLを大きく損なう疾患です。
従来よりレーザー治療、硝子体手術が行われてきましたが、近年はステロイド硝子体内注射・テノン嚢下投与に加え、抗VEGF薬硝子体内投与も承認され、治療選択肢が増えています。
ここでは、実臨床において治療の主流となりつつある抗VEGF薬治療について、臨床試験のエビデンスを踏まえつつ、いかに実践すべきか、2人の専門家に伺いました。(取材:2019年11月)

DMEの病態と治療の変遷
(長岡泰司先生)

糖尿病患者における血糖コントロール不良は、糖尿病網膜症(DR)をはじめとする種々の眼疾患の合併要因ともなります。糖尿病黄斑浮腫(DME)はDRの病態から発症する合併症であり、DRの病期に関係なく発症します。DMEは、網膜における毛細血管瘤形成や網膜毛細血管の透過性亢進により血漿成分が貯留して黄斑部の浮腫をきたす病態であり、硝子体出血や牽引性網膜剝離などとともに視力低下の要因となります。
DMEの治療は、80年代に網膜に対するレーザー照射による局所/格子状抗凝固の有用性がETDRS試験により示され1)、わが国においても広く施行されるようになりました。レーザー治療は凝固斑の拡大などの副作用もあるため、現在ではETDRSの時代より照射の条件を弱めて、より安全性を高めた手技が用いられるようになっています。90年代には硝子体手術2)、さらに有用性が報告され3,4)、期待されていたステロイド硝子体内注射やテノン嚢下投与も近年承認され、これらも重要な治療選択肢となりました。一方で、ステロイドの硝子体内注射による治療では眼圧上昇や白内障の進行などの副作用が懸念され、また、いずれの治療法も再発などにより頻回治療やそれに伴う網膜侵襲の課題があります。そのため、より安全で視力改善の持続性がある治療法が求められていました。

抗VEGF薬を用いた新しいDME治療戦略
(長岡泰司先生)

2014年にDMEに対する抗VEGF薬の硝子体内投与が承認されて以降、DME治療の主流となりつつあります。その大きな特徴として、従来のステロイドによる治療やレーザー治療に比べて視力改善が良好であることが挙げられます5-7)
アイリーアを含む抗VEGF薬の効果を比較したDiabetic Retinopathy Clinical Research Network's(DRCR.net)Protocol-T8,9)のエビデンスより、全体解析をみますと、1年目の最高矯正視力文字数の変化量は、アイリーア投与群が+13.3文字であり、他の抗VEGF薬に比べて視力文字数を有意に改善することが示されました(p=0.034、ANCOVAによりベースライン視力を調整しHochberg法により多重性を調整)(図19)。ベースライン視力が20/50(0.4)以下の患者を対象としたサブグループ解析においても、アイリーア群が他の抗VEGF薬に比べて有意に改善することが示されました(p=0.003、ANCOVAによりベースライン視力を調整しHochberg法により多重性を調整)(図29)。また、抗VEGF薬による治療回数の中央値は、アイリーア群は、1年目が9回、2年目が5回に対し、他の抗VEGF薬は1年目が10回、2年目が6回であり、いずれの治療群においても、2年目の投与回数は、1年目と比べて半減していました9)。初期治療を積極的に行うことで治療回数が減ることが示唆されます。
抗VEGF薬治療は、視力改善が良好であることを示しましたが、これらの効果発現が速やかである点も特徴のひとつです。視力低下は患者のQOLを大きく損なう要因であるため、実臨床において患者自身が効果を実感することは重要であり、最初の治療に対する印象はその後の治療継続に影響します。患者負担の問題がありますが、長期成績のエビデンスを踏まえ「頑張って治療を継続したほうが良い」とムンテラすることも多くなり、長期使用患者も増えてきています。その中で、だんだん投与回数も減ってきている患者も増えています。治療効果が速やかに得られることは、治療モチベーションの向上にもつながるため、治療選択において考慮すべき点であると考えます。

■DRCR.net Protocol-Tの試験概要(海外データ)
目的
中心窩に及ぶ糖尿病黄斑浮腫(DME)を有する患者を対象に、(1)アイリーア硝子体内投与、(2)ベバシズマブ硝子体内投与、(3)ラニビズマブ硝子体内投与の有効性および安全性を比較検討すること
試験対象
中心窩に及ぶDMEを有する患者660例660眼※1 ※1 試験対象眼は各患者片眼のみとする
投与方法
対象患者を、アイリーア2.0mg投与群、ベバシズマブ1.25mg投与群、ラニビズマブ0.3mg投与群の3群に無作為に割り付けた。いずれの治療群においても、初回投与後は再治療プロトコルに従って再治療が行われ、24週目以降はレーザー実施基準に従ってレーザー治療が実施された。52週目までは4週ごと来院とし、52週目以降は4週ごと来院を基本とし、疾患状態および治療内容に従って8週ごと、16週ごとの来院に延長可能とされていたが、52週目と104週目は全患者の来院が規定されていた。
主要評価項目
1年目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量(ベースラインの最高矯正視力で調整)
副次評価項目
1年目における試験実施計画書に従った硝子体内投与回数 など
主な安全性評価項目
投与手技に関連する、薬剤に関連する(眼、全身性)有害事象 など
解析計画
● 主要評価項目については、ベースライン視力を調整した共分散分析(ANCOVA)により群間比較を行う。その際、Hochberg法により多重性の調整を行う。欠測値については多重代入法を用いて補完する。平均値から3SD以上の外れ値は除外する。
● 副次評価項目については、評価項目に応じ、ベースライン因子を調整したANCOVAなど適切な手法を用いて検討する。
● 安全性評価項目については、片眼のみ、あるいは両眼とも投与を受けた患者群ごとの全身性有害事象の発現状況についても検討する。
なお、有効性の主要な評価項目については、主なベースライン特性による層別解析を行うとともに交互作用についても検討する。2年目については1年目の統計解析手法を踏襲する。
利益相反
本試験で用いられた薬剤(アフリベルセプト)はRegeneronPharmaceuticals社より提供された。著者にRegeneronPharmaceuticals社、BayerHealthCarePharmaceuticals社から経済的支援、謝礼を受領している者(#1、2)、Regeneron Pharmaceuticals社の株式所有者(#2)が含まれる。
なお、本試験の資金提供組織はNationalInstitutesof Health(NIH)であり、プロトコルの作成、実施、データの管理についてはDRCR.netが主体である。
TheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork: N Engl J Med. 2015; 372: 1193-1203 #1
WellsJA,etal.:Ophthalmology.2016;123:1351-1359 #2

注意:本試験のラニビズマブの用量は0.3mgであるが、本邦でのラニビズマブの糖尿病黄斑浮腫への適応は0.5mgである。試験実施国(米国)および本邦未承認であるベバシズマブの結果は、作成要領に従って提示していない。

【本邦におけるラニビズマブの用法及び用量(糖尿病黄斑浮腫)】
ラニビズマブ(遺伝子組換え)として1回あたり0.5mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。

実臨床における抗VEGF薬の治療様式と課題
(杉本昌彦先生)

近年、DMEに対する抗VEGF薬硝子体内投与の有用性が複数の無作為化比較試験(RCT)から示唆されており、各種ガイドラインで引用されています10,11)
しかし、各国のリアルワールド研究からの報告ではRCTで示された程の高い治療成績が得られていない状況があります。その要因のひとつとして、実臨床においてはRCTで用いられる投与スケジュールとは異なる様式で抗VEGF薬治療が施行されていることが挙げられます。我々がJ-CRESTグループによる多施設共同研究として市中病院や診療所も含む眼科医に2016年3月から2017年6月に実施したアンケート調査結果では、抗VEGF薬の初期治療は単回投与が最も多く、次いで3回投与が多いことが示されています12)。また、その後はリアクティブ投与である随時(prorenata;PRN)投与を実施していると回答した医師が多い状況でした。すなわち、実臨床においては「1+PRN」や「3+PRN」での治療が行われていることが推察されます。さらに、J-CRESTでは実臨床におけるDME治療成績として、網膜疾患を診療する27施設で2010年から2015年に治療介入された未治療DME患者の医療記録の解析を報告していますが13)、抗VEGF薬治療単独で2年後に視力良好(最高矯正視力>20/40)となった患者割合は49.3%であり、抗VEGF薬以外の治療(同52.0%)や抗VEGF薬治療と他の治療の併用(同38.9%)と比べて大きく上回る成績ではなく、やはり初期の投与回数を含めて治療様式を再考する必要がありそうです。

初期治療における抗VEGF薬複数回投与の意義
(杉本昌彦先生)

私自身は、抗VEGF薬の初期治療はなるべく3回投与を実施する方針としています。1回投与では再発が懸念されること、投与回数に依存して浮腫の減少がみられること、および初回3回投与後の視力回復が良好であれば長期経過後の視力も良好である報告14)を鑑み、3回投与を実施して抗VEGF薬の治療反応性を検討しています。良好な治療反応性が得られる場合は、この後の投与頻度も含めてどのように治療を継続してゆくかを考えるステップに進みます。この時、患者には「1回では効果判定が難しいため、まずは3回頑張ってみましょう」とムンテラしています。一方で、抗VEGF薬治療は、治療費や通院など患者負担が大きく伴います。DME治療はステロイド治療や硝子体手術など他の治療選択肢もありますので、抗VEGF薬の初期治療における治療反応性を考慮し、他の治療法への切り替えを見極めることも重要です。

抗VEGF薬の全身性イベントに対する安全性
(長岡泰司先生)

抗VEGF薬はいずれの添付文書においても、「脳卒中または一過性脳虚血発作の既往歴等の脳卒中の危険因子のある患者」に対して注意を要することの記載があります15,16)。アイリーアに関しても適正使用ガイド17)にしたがい、全身への影響が懸念される脳卒中や虚血性心疾患の初期症状を有する患者への使用に注意する必要があります。これらの注意が記載される背景には、基礎研究からの知見で抗VEGF薬が血管抵抗の増加とそれによる血圧上昇、血栓形成亢進などの要因となる可能性が指摘されているためと考えられます。すなわち、VEGFのシグナルを阻害することにより、血管内皮細胞では一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI2)の産生が低下し、血管拡張能の低下および血圧上昇のリスクとなる可能性が考えられます18,19)。また、血管内皮細胞の細胞死により内膜の細胞膜や細胞外基質に対する凝固促進性リン脂質の暴露が増加し、血栓形成が助長される可能性が考えられます20)。一方、臨床試験におけるデータに目を向けると、DRCR.netProtocol-Tの安全性解析において、アイリーア投与によるAPTC定義に基づくあらゆる有害事象の発現率は、心筋梗塞・脳卒中の既往歴別で見ると、既往歴のない患者群で10例(5%)、既往歴のある患者群で2例(10%)でした()。

主な有害事象(2年間)

試験眼に発現した眼の主な有害事象†

●アフリベルセプト投与群224例中、霧視54例(24.1%)、硝子体浮遊物41例(18.3%)、結膜出血34例(15.2%)、白内障28例(12.5%)、眼痛25例(11.2%)、視力低下22例(9.8%)、眼乾燥20例(8.9%)、嚢下白内障17例(7.6%)、眼刺激16例(7.1%)、流涙増加および硝子体出血各15例(6.7%)、視力障害12例(5.4%)であった。

●ラニビズマブ投与群218例中、霧視50例(22.9%)、硝子体浮遊物49例(22.5%)、結膜出血26例(11.9%)、眼痛23例(10.6%)、視力低下22例(10.1%)、眼乾燥20例(9.2%)、眼そう痒症16例(7.3%)、眼刺激15例(6.9%)、白内障13例(6.0%)、流涙増加および眼充血各11例(5.0%)であった。

全身性の主な有害事象†

●アフリベルセプト投与群224例中、高血圧39例(17.4%)、鼻咽頭炎39例(17.4%)、咳嗽22例(9.8%)、貧血、頭痛および副鼻腔炎各20例(8.9%)、嘔吐および尿路感染各17例(7.6%)、インフルエンザ16例(7.1%)、コントロール不良の糖尿病、高コレステロール血症、上気道感染各15例(6.7%)、胃食道逆流性疾患、季節性アレルギーおよび慢性腎不全各14例(6.3%)、低血糖、背部痛および浮動性めまい各13例(5.8%)、悪心、転倒、腎不全、気管支炎および蜂巣炎各12例(5.4%)であった。

●ラニビズマブ投与群218例中、高血圧44例(20.2%)、鼻咽頭炎29例(13.3%)、インフルエンザおよび頭痛各20例(9.2%)、上気道感染19例(8.7%)、肺炎および副鼻腔炎各18例(8.3%)、背部痛17例(7.8%)、貧血15例(6.9%)、コントロール不良の糖尿病、浮動性めまいおよび咳嗽各14例(6.4%)、下痢、ウイルス性胃腸炎、悪心各13例(6.0%)、うっ血性心不全、ビタミンD欠乏、腎不全、尿路感染および蜂巣炎各12例(5.5%)、低血糖、末梢性浮腫、季節性アレルギー、転倒、脱水、関節痛および気管支炎11例(5.0%)であった。

重篤な有害事象および死亡例

●重篤な有害事象はアフリベルセプト投与群224例中88例(39%)、ラニビズマブ投与群218例中82例(38%)、死亡(全死因)例はアフリベルセプト投与群224例中5例(2%)、 ラニビズマブ投与群218例中11例(5%)に認められた。

(ICH国際医薬用語集[MedDRA]のコード化を用いたメディカルモニターに基づく事象)
†:発現率5.0%以上とする

Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

抗VEGF薬の血管梗塞に関与するマーカーへの影響
(杉本昌彦先生)

DMEに対する抗VEGF薬投与による血中のVEGF濃度の低下が動脈血栓塞栓症のような全身性イベントの発現につながるのであれば、そのような臨床イベント発現前に疾患リスクを反映する因子に変化が認められるのではないかと考え(図3)、我々は抗VEGF薬の硝子体内投与を行った41眼(22眼にアイリーアを投与)を対象として、血管梗塞関連分子(VIRMs;vascularinfarction-relatedmolecules)への影響を検討しました21)。VIRMsとしては、心ミオグロビン、心トロポニン、ICAM-1、MCP-1、MMP-8、Tenascin-C、TSP-2、TIMP-1、VCAM-1、IL-6を対象としました。同時に、VEGF、PlGFも検討しました。その結果、アイリーアの投与から1ヵ月後において、血中VEGF濃度は有意に減少しました(血漿中VEGF濃度:投与前93.7±17.6pg/mL、1ヵ月後64.3±15.2pg/mL、p<0.05、Non-repeatedANOVA)。その一方で、VIRMsに対しては、アイリーア投与後1週、1ヵ月後における前房水、血液(血漿/血清)中濃度の有意な変化を認めませんでした(Non-repeated ANOVA)。このことから、アイリーアを投与することで血中VEGF濃度は低下しましたが、それに起因するVIRMsの変化が認められなかったため、あくまでVEGFの挙動であり、動脈血栓塞栓症の発現とは別であると考えています。

総括(長岡泰司先生)

DMEは糖尿病患者におけるDRに合併し、視力低下による生活への多大な影響が問題となる疾患です。抗VEGF薬は臨床試験のエビデンスにより従来の治療を上回る有用性が示唆され、その役割に期待が持たれています。臨床において抗VEGF薬硝子体内投与を実施するにあたっては、ここで述べたように特に初期治療のあり方が重要になると考えられます。視力低下の問題を抱えた患者に対し、エビデンスに基づき治療を続ける意味を私たち眼科医はお伝えする責務があると考えます。治療には患者の経済的負担や通院など様々な要素が関連し合いますが、患者個々に設定した視力改善目標を目指し、治療を行ってゆくことが重要です。

1) Early Treatment Diabetic Retinopathy Study Research Group.: Arch Ophthalmol. 1985; 103(12): 1796-1806
2) Lewis H, et al.: Ophthalmology. 1992; 99(5): 753-759
3) Jonas JB, et al.: Am J Ophthalmol. 2001; 132(3): 425-427
4) Bakri SJ, et al.: Am J Ophthalmol. 2005; 139(2): 290-294
5) The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network.: Ophthalmology. 2010; 117(6): 1064-1077
6) バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:VIVID-DME試験]承認時評価資料
7) バイエル薬品社内資料[海外第Ⅲ相試験:VISTA-DME試験(外国人)]承認時評価資料
8) The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network.:N Engl J Med. 2015; 372(13): 1193-1203
9) Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(6): 1351-1359
10) Wong TY, et al.: Ophthalmology. 2018; 125(10): 1608-1622
11) 日本糖尿病学会(編・著). 糖尿病診療ガイドライン2019, 南江堂, 2019
12) Sugimoto M, et al.: J Diabetes Investig. 2019; 10(2): 475-483
13) Shimura M, et al.: Br J Ophthalmol. 2019. pii: bjophthalmol-2019-315199[Epub ahead of print]
14) Gonzalez VH, et al.: Am J Ophthalmol. 2016; 172: 72-79
15) アイリーア添付文書(2020年3月改訂[第1版、効能変更])
16) ルセンティス添付文書(2019年11月改訂[第11版])
17) アイリーア適正使用ガイド(2016年11月[第3版])
18) Horowitz JR, et al.: Arterioscler Thromb Vase Biol. 1997; 17(11): 2793-2800
19) Hood JD, et al.: Am J Physiol. 1998; 274(3): H1054-H1058
20) Zarbin MA, et al.: Asia Pac J Ophthalmol (Phila). 2018; 7(1): 63-67
21) Sugimoto M, et al.: Sci Rep. 2019; 9(1): 12373

PP-EYL-JP-0732-18-05

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