滲出型加齢黄斑変性(neovascular age-related macular degeneration;nAMD)治療における抗VEGF薬を用いた投与方法として、以前は一定の間隔で投与するプロアクティブ投与であるFixed dosing(固定投与)が主に用いられていた。ただし、毎月投与では治療負担の増加、3ヵ月ごと投与では治療効果が不十分1)などの問題があり、リアクティブ投与である随時(pro re nata;PRN)投与が用いられるようになった。しかしながらPRN投与もまた、毎月の診察を要することから通院の負担、治療の遅れによる視力低下等のリスクが認識されるようになり、現在では2ヵ月ごとの固定投与や個々の患者に合わせて投与間隔を適宜調整するTreat and Extend(T&E)投与などのプロアクティブ投与が用いられることが多くなってきた。
T&E投与では診察ごとに抗VEGF薬を投与するが、このときに疾患活動性の再発が認められなければ次回投与までの間隔を延長、認められれば短縮という方法で投与間隔を調整する。T&E投与は2週幅で調節、最大投与間隔は12週で行われた報告が多く、固定投与やPRN投与と比べて病態悪化の予防、投与回数の減少などのメリットが期待されている。実臨床下において、未治療のnAMD患者を対象にアイリーアのT&E投与を行うと、ETDRS視力表による最高矯正視力文字数の変化量が投与4年目でベースラインから+3.6文字で、投与回数は1年目で7.7回、2~4年目でいずれも4回台であったことが海外で報告されている2)。さらに、関西医科大学眼科学教室では抗VEGF薬の導入期後、維持期開始から最初の再発まで経過観察を行い、再発までの期間を同定する独自のModified T&E投与によって、より少ない投与回数での視力改善・維持を実現している3)。
これからのnAMD治療は高齢化だけでなく、長寿化も考慮した長期管理が求められる。そのため、導入期には十分な治療を行って視力を改善し(=Get Vision)、維持期には視力維持を可能にするプロアクティブ投与を選択し(=Keep Vision)、また投与2年目以降は投与回数の減少も考慮して治療を実施すること(=Reduce Number)が重要であると考えられる。
抗VEGF薬によるnAMDの治療では黄斑萎縮(macular atrophy;MA)の発生、拡大が認められることがある。日本人でのMA発生率は欧米人に比べて低く、特にポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy;PCV)で少ない傾向にある4-6)。アジア人を対象にした研究では、抗VEGF薬による治療1年後にnAMD患者、PCV患者ともに線維化およびMA発生率が上昇することが示されている7)。
アイリーアとラニビズマブを用いたT&E投与による24ヵ月間の海外データ(白人中心)では、いずれの投与群もベースラインと比較してMAの発生、拡大が認められたが、MAの平均平方根面積において治療群間に有意差は認められなかった(図1)。したがって本研究からは治療薬による差はないことが示された。
しかしながら、2年以上の長期治療例ではMAは一定の確率で発生するものとして認識すべきである。脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization;CNV)自体の病態悪化による視力低下と治療後MA萎縮による視力低下をある程度想定し、どちらが長期間その患者の視力を保てるかをよく考えた上で治療方法を決定すべきであると考える。そのためには治療開始前にリスク因子と病態を評価する必要がある。抗VEGF薬投与後のMAの発生、拡大のリスク因子としては、高齢・治療前低視力・2型CNV(predominantly classic CNV)・最大病変直径(greatest linear dimension;GLD)が大きい・Reticular pseudodrusen・網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation;RAP)・脈絡膜厚が薄い・治療前に地図状萎縮あり・僚眼に地図状萎縮あり・中心窩網膜内液・毎月投与例(投与回数が多い)・網膜上膜を認める・漿液性網膜色素上皮剥離(pigment epithelial detachment;PED)の高さ・網膜下高反射病巣(subretinal hyperreflective material;SHRM)・出血などが挙げられる4,8-10)。
また治療においては、最少の投与回数で視力改善が維持できる投与レジメンの選択、脈絡膜厚の薄い患者には脈絡膜に影響の少ない薬剤の選択、光線力学的療法(PDT)併用の場合はFull-dose PDTは最少の回数での実施などが抗VEGF薬投与後のMAの軽減のための対策になると考えられる。
血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)は生理的血管形成の重要な制御因子であり11)、病理学的に血管形成に関与し11)、血管透過性と浮腫の形成に関係している12)。VEGFを阻害することにより、一酸化窒素(NO)およびプロスタサイクリン(PGI2)産生の抑制13,14)、エリスロポエチンの過剰産生によるヘマトクリットの増加と血液粘性の上昇15,16)、内皮細胞におけるNO低下などによる血管抵抗の増加からの血圧上昇17)などが生じ、動脈血栓塞栓症(arterial thromboembolic events;ATE)の発症につながるのではないかと考えられている。
アイリーアに関しては、海外第Ⅲ相試験VIEW1試験および日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験VIEW2試験の併合解析18)においてAPTC定義によるATE発症率が3.3%、特定使用成績調査(PMS)中間報告19)において心筋梗塞の発症率が0.08%、脳梗塞が0.08%、小脳梗塞が0.03%であったと報告されている。
なお、血中VEGF濃度と全身性イベント発生との関連性について報告されたIVAN試験では、血中VEGF濃度の上昇によりATE発症リスクが増加することが示されており20)、血中VEGF濃度が低下することでATEにつながるという考え方とは相反する結果が得られたことから引き続き検証が必要である。
ATE発症リスクの軽減には、脳卒中発症に寄与するリスク因子である高齢・高血圧症・男性・脂質異常症・糖尿病・心房細動・喫煙・多量飲酒に注意すべきである。リスク因子が重積するほどその危険性が高まる可能性があるため、患者の状態の把握は不可欠である21)。
抗VEGF薬投与後のMAや全身性の有害事象は一定の確率で発生する。患者の背景因子、眼の病態に応じて、患者ごとに細やかに治療方法の選択・調整を行う必要がある。
※:試験薬に関連する有害事象を含む
FAS:最大の解析対象集団 SAF:安全性解析対象集団
Gillies MC. et al.: Ophthalmology(2019)in press
利益相反:著者にBayerより謝礼、研究費等を受領している者、Bayerのアドバイザリーボードメンバー等が含まれる。
1)Regillo CD, et al.: Am J Ophthalmol. 2008; 145: 239-248
2)Traine PG, et al.: Ophthalmol Retina. 2019; 3: 393-399
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18)バイエル薬品株式会社承認時評価資料
19)アイリーア®硝子体内注射液40mg/mL特定使用成績調査中間報告(2017年5月)
20)Rogers CA, et al.: Ophthalmol Retina. 2018; 2: 118-127
21)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編: 脳卒中治療ガイドライン2015
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