アイリーア治療戦略

 

BRVO治療の最適化とアイリーアの可能性

[監修]東京医科大学八王子医療センター 眼科 准教授 野間 英孝 先生

網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫の治療は抗VEGF薬の登場によって大きく進歩し、早期に適切な治療を開始すれば長期の良好な視力予後が得られるようになった。しかし、BRVO患者の病態は多様であり、抗VEGF治療は個別化して行う必要がある。今回は、東京医科大学八王子医療センター眼科の野間英孝先生に、BRVOの病態、個別化治療への取り組み、アフリベルセプト(商品名:アイリーア®)の特徴やBRVO治療における有用性などについて解説していただいた。


当院におけるBRVOの治療実績

 当院の眼科外来には近隣の眼科クリニックからBRVO患者さんが1日に1、2例、月あたり30~50例紹介されてきます。
 そのほとんどが早期の未治療例です。これまで地域の講演会などでBRVOの疾患啓発を繰り返し行ってきたため、BRVOと診断したら、すぐに当院に紹介して下さる先生方が増えています。それに伴って診療体制も改め、2年ほど前まではBRVOの診療は私1人で行っていましたが、現在は当院の眼科医全員の6名体制で診ています。特にBRVO外来などは設けておらず、患者さんには担当医が決まったら、その医師の外来日に定期的に受診してもらうようにしています。当院では最近、早期かつ未治療のBRVO患者さんの治療方針を定めましたので、全員が同じ治療方針に則って治療を進めています。

当院のBRVO治療

 BRVOの治療は、かつてはステロイド薬、光凝固療法などを行い、最終的には硝子体手術を行うこともありました。しかし、抗VEGF薬の登場によってBRVO治療は大きく変化し、第一選択薬は抗VEGF薬になり、他の治療法を併用したり、他の治療法に変更したりすることは少なくなりました。現在は抗VEGF薬を継続しながら、炎症の強い症例ではステロイド薬、毛細血管瘤(MA)が生じた場合にはレーザー治療を併用する程度です。早期の未治療例ではMAの発現が認められる患者さんは少なく、早期から抗VEGF薬で治療を開始することによりMAの発現を抑制できることが報告されています1)
 当院では、早期かつ未治療のBRVO患者さんに対して、抗VEGF薬(アイリーア)で治療を開始しています。初回投与後は2週毎に通院してもらい、再発がないことを確認しながら経過観察を行います。再発の基準は自覚症状としての視力低下と光干渉断層計(OCT)測定による網膜厚が300μm以上とし、患者さんが視力低下を感じた場合には次の予約日を待たずに受診してもらいます。24週後まで再発が認められなかった症例は治癒したと見なし、いったん治療を終了しますが、24週後までに再発した場合は、その時点でアイリーアを再投与し、その後は初回再発までの期間よりも1週間早いタイミングでアイリーアを定期投与します。BRVOの場合、抗VEGF薬を1回投与しただけで再発しない患者さんもいますし、再発する患者さんも再発までの期間は個々で異なります。しかし、一人の患者さんの再発までの期間はほぼ一定であることが多く、このような投与方法が可能なのではないかと考え、現在データを集積しています。

1)Tomiyasu T, et al. : Sci Rep. 2016 ; 6 : 29445.

BRVOの病態と炎症性サイトカイン

 BRVOでは、網膜の血管が閉塞し、虚血が生じて網膜が低酸素状態になり、血管新生を促すためにVEGFが大量に産生され、血管透過性が亢進し血漿成分が漏出して浮腫が生じてきます。また、VEGFが発現し受容体に結合すると、血管透過性が亢進するだけでなく、さまざまな炎症性サイトカインや炎症関連分子の産生も亢進してきます。具体的には、まず虚血によってVEGFが産生され、VEGFが血管内皮細胞に存在するVEGFR-2に結合すると、転写因子NF-κBを発現させることで白血球の接着分子であるICAM-1、白血球の走化因子であるMCP-1の発現が誘導されます。一方、VEGFが炎症細胞に存在するVEGFR-1に結合することで、ICAM-1やMCP-1の発現を誘導したり、直接白血球の接着や遊走を促したりします。ICAM-1やMCP-1は、白血球の遊走、浸潤を促進することで炎症を慢性化させたり、血流を低下させたりします。血流が低下することで更なる虚血にもつながることから、重要な因子であると考えています。
 他にもBRVOの病態ではIL-6やIL-12、VEGFファミリーに属する血管新生因子PlGFなどのサイトカインも上昇してきます。PlGFは選択的にVEGFR-1に結合し、炎症関連分子の発現を誘導し、白血球の走化・浸潤を誘導することで炎症を惹起します。VEGFと同様PlGFも炎症病態にとって重要な作用を有しています。
 このようにBRVOの病態は虚血と炎症の両面から捉えることが重要です。虚血によってVEGFやPlGFといった血管新生因子が産生され、それが白血球の遊走や浸潤を促進し、血流の低下や炎症を惹起します。これによって虚血は進行し、血管新生因子の発現がさらに亢進することで、炎症を慢性化させます。従って、BRVOの病態というのは虚血と炎症が相互に影響し合う負のスパイラルの状態にあると考えられます(図12)

2)野間英孝: 日本の眼科 2014 ; 85 : 136-141.

図1:BRVOの炎症病態(仮説)

野間英孝:日本の眼科 2014;85:136-141.

再発を繰り返す患者さんの特徴

図2:BRVOで再発を繰り返す患者の特性

 BRVOで再発を繰り返す患者さんには特徴があり(図2)、まず、発症からの時間経過があげられます。これは先述したように、BRVOが慢性化するとVEGF以外の炎症性サイトカインの産生が亢進してくるためです。また、MAの発現、加齢も再発のリスク因子となります。MAがあると血流が遮られて内圧が高まり、高齢者では血管内皮機能が障害されているため、血漿成分が漏出しやすくなります。網膜静脈閉塞症(RVO)に伴う黄斑浮腫を有する患者を対象としたRETAIN試験でも高齢者、高血圧の合併例で黄斑浮腫が再発しやすいことが示されています3)
 虚血・無血管領域がある場合にも、VEGFの産生量が高まるため、再発しやすくなります。また、Major BRVOとMacular BRVOでは、Major BRVOの方が出血範囲が広く、VEGFや炎症性サイトカインの濃度が高くなることから再発しやすくなります4)。このように、BRVOの病態では虚血と炎症が相互に関与して再発を促すことから、再発リスクを低減するためには両者をしっかりと抑制することが重要です。

3)Campochiaro PA, et al. : Ophthalmology. 2014 ; 121 : 209-219.
4)Noma H, et al. : Ophthalmologica. 2016 ; 235 : 203-207.
監修:東京医科大学八王子医療センター眼科 准教授 野間英孝先生

抗VEGF薬投与スケジュールの考え方

 BRVOでは網膜の内層の血管が閉塞して浮腫が生じますが、早期の未治療例であれば外層はしっかりと保持されているので、早期に抗VEGF薬を1回投与することで浮腫は軽減し、視力や視野の歪みなども改善します。こうした病態の患者さんでは、一般に抗VEGF薬の1+PRN投与で視力予後が悪化することはありません。しかし、BRVO患者さんのなかには外層が障害されている方も散見され、その場合は、再発後の視力は再発前のレベルまで回復せず、再発を繰り返すことで視力は悪化してしまうため、再発前のプロアクティブな投与が必要です。当院では当初、BRVOに対して抗VEGF薬の1+PRN投与で治療を行っていましたが、現在は先述の通り1+個別の定期投与という方法を検討中です。
 網膜の外層が障害されているかどうかはOCTでEllipsoid zoneを観察すれば分かります。外層が著しく障害されている場合には、抗VEGF薬を投与して浮腫を軽減しても視力が回復しないこともあります。その場合には、他の治療法に切り替えるなどの検討が必要です。

BRVO治療におけるアイリーアのベネフィット

 アイリーアには即効性があり、投与後早期からの視力、浮腫の改善が期待でき、その効果は長期間持続する印象があります。これまでに、アイリーアはVEGF-Aのみならず、PlGFおよびVEGF-Bとも結合することが報告されており、PlGFは炎症にも関与していると言われているため、BRVOの背景にある網膜の虚血と炎症の両方に作用が期待できると考えられます。また、サルを用いた検討では、アイリーアとラニビズマブの硝子体内投与後の前房水中濃度半減期は同程度でしたが、前房水中のVEGF濃度が検出限界以下に低下した期間はアイリーア群で長いことが示されています(図35)。これは、VEGF抑制持続期間の長さを反映したと考えられますが、実臨床においてラニビズマブからアイリーアに切り替えることで、投与間隔が延長したという臨床研究の結果も報告されています6)
 ここで紹介したアイリーアの特性は、早期からの炎症抑制、投与間隔の延長につながり、患者さんの負担軽減に寄与すると考えられます。当院においてBRVO治療をアイリーアで開始することにしたのは、こうしたアイリーアの特性を評価したためです。
 また、早期の未治療例だけでなく、出血が多い症例、漿液性網膜剥離(SRD)が強い症例など、重度のBRVOでも、作用持続期間の長いアイリーアが適していると考えています。

5)Niwa Y, et al. : Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015 ; 56 : 6501-6505.
6)Tagami M, et al. : Clin Ophthalmol. 2017 ; 11 : 403-408.

図3:抗VEGF薬の硝子体内投与後の前房水中薬物濃度と前房水中VEGF濃度の推移(サル)

Niwa Y, et al.:Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015;56;6501-6505.

方法:カニクイザルの硝子体手術を受けていない眼(n=3)、および硝子体手術を受けた眼(n=3)に対し、ラニビズマブ(0.5mg/50mL)およびアフリベルセプト(2mg/50mL)の硝子体内投与を行い、投与前後の前房水中薬物濃度およびVEGF濃度について検討した。(サル眼は硝子体手術以外の特別な処置を受けていない) 前房水は投与前、投与後1日目、3日目、1から8週目までの各週に採取した。ラニビズマブ、アフリベルセプト、およびVEGF濃度は酵素免疫測定法によって測定した。

アイリーア使用時の注意点

 抗VEGF薬にはNO産生阻害を介した血管収縮作用があるため、全身に移行すると血管が収縮して高血圧の発症リスクが高まります。そのため、脳梗塞や心筋梗塞などの既往例では注意が必要です。患者さんには、アイリーアのベネフィットだけでなく、こうしたリスクを十分に説明し、これまでの臨床試験ではアイリーア群における動脈血栓塞栓関連事象の発現率は1%以下で、レーザー治療などの対照群と変わらないことを説明しています。

BRVO治療の最適化、個別化を推進するために

 BRVOで再発を抑制するためには、早期にVEGFをしっかりと抑制し、虚血と炎症の負のスパイラルを断ち切り、病態を慢性化させないことが重要です。アイリーアはこうした治療を実践するのに適した特性を有する薬剤だと評価しています。早期から抗VEGF薬を使用することで、MAの発現を抑制し、炎症性サイトカインの増加、虚血の拡大の抑制も期待できます。今後も治療経過中の炎症性サイトカインを測定し、BRVOの病態解明、再発予測、病態に合わせた最適な投与スケジュールの開発、個別化治療の確立に役立てたいと考えています。

L.JP.MKT.OP.09.2017.1116

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