Sustainable Disease Control(SDC)
~持続可能なnAMD治療を目指して~
黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、Sustainable Disease Control(SDC)とはその達成を目指した治療目標である。
滲出型加齢黄斑変性(nAMD)と糖尿病黄斑浮腫(DME)におけるSDC達成に向けた課題と治療選択について専門医に伺った。

古泉 英貴 先生
琉球大学
大学院医学研究科
医学専攻眼科学講座
Sustainable Disease Control(SDC)
黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した指標

監修:鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進医療科学専攻 感覚器病学講座 眼科学分野 教授 坂本 泰二先生
1)
Bhagat D, et al.: Clin Ophthalmol. 2020; 14: 2975-2982
2)
Joko T, et al.: Patient Prefer Adherence. 2020; 14: 553-567
3)
Ohji M, et al.: Adv Ther. 2020; 37: 1173-1187
4)
Do DV, et al.: Ophthalmology. 2011; 118: 1819-1826
5)
Dugel PU, et al.: Ophthalmology. 2020; 127: 72-84
6)
Heier JS, et al.: Lancet. 2022; 399: 729-740
7)
Brown DM, et al.: Am J Ophthalmol. 2022; 238: 157-172
8)
Wykoff CC, et al.: Lancet. 2022; 399: 741-755
滲出型加齢黄斑変性(nAMD)治療の変遷
nAMD治療は、1970年代よりレーザー光凝固による治療が始まり、径瞳孔的温熱療法(TTT)や黄斑移動術、ベルテポルフィンを用いた光線力学的療法(PDT)が登場、その後に抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)薬が開発された。2023年12月現在、本邦で使用可能な抗VEGF薬には、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ブロルシズマブ、ファリシマブがあり、それぞれ標的とするサイトカインや、構造、分子量が異なる。このような様々な抗VEGF薬の登場により、視力維持から視力改善が目指せる時代となっている。また、実地診療を担う専門医を対象としたアンケート調査1)では、nAMDに対する主な治療方針として専門医の90%以上が抗VEGF薬単独を選択していることからも、現在のnAMD治療の中心は抗VEGF薬といえる。
デンマークの調査2)では、AMDによる社会的失明の発生率は2000年から2010年の間で約半分に減少しており、その社会的失明の発生率減少は抗VEGF薬が登場した2006年以降に顕著であった。
一方で、2050年までに世界の人口は推定89億人、平均寿命は64.6歳から74.3歳に延長すると予測されており、それに伴い世界のAMD人口は3190万人から4690万人に増加すると想定されている3,4)。今後、nAMD治療における抗VEGF薬のニーズはさらに高まっていくと考えられる。
抗VEGF療法の限界
抗VEGF薬の投与レジメンには、固定投与、PRN(Pro ReNata)投与、T&E(Treat and Extend)投与があり、それぞれにメリット・デメリットがある。臨床試験でも用いられている固定投与は、治療計画が立てやすい反面、治療過多や治療不足になりやすい。PRN投与は個別化治療の側面を有し、治療回数を減らせるが、病態悪化時に投与を行うリアクティブな治療になり、良好な治療成績を出すためには厳格な管理が必要となる。T&Eは個別化治療の側面を持ちながら来院回数を減らせるというメリットの一方、症例によっては治療過多になることがある。前述の専門医を対象としたアンケート1)では、50%以上の専門医が維持期の投与レジメンとしてT&E(modified T&Eを含む)を選択していた。
アイリーア(2mg)のT&Eに関する多施設共同研究であるALTAIR試験では5)、導入期3回投与後、最長16週間、最短8週間で、2週幅または4週幅の延長・短縮を行うT&Eを行った。52週時における最高矯正視力文字数(BCVA)のベースラインからの変化量(主要評価項目:検証的な解析)は、2週幅調節群で+9.0文字、4週幅調節群で+8.4文字であり、試験が終了した96週時点では、それぞれ+7.6文字および+6.1文字となった。96週時点での投与間隔は、41.5~46.3%の症例が16週間隔まで延長できていたものの、33. 3~37. 4%の症例では8週間隔にとどまっており、投与間隔は症例によりばらつきがみられた(図1)。
nAMDの治療は長期にわたることから、治療反応性が良好な患者に対しては投与間隔をさらに延長することが患者負担軽減に繋がり理想となるが、投与間隔が短い患者では頻回の来院や投与による負担が増えることから対策が必要になってくる。
長期治療においては、治療の中断も課題となる。最低5回の抗VEGF薬投与、3ヵ月以上無治療で経過観察できた症例で、中断後1年で41%、5年で79%に疾患活動性が再燃したとの報告がある6)。また、三重大学のデータでは、12~16週間隔でT&Eを行い、1年間滲出がなかった症例で、中断後2年で50%が再燃し、さらに再燃した患者では中断後2年目の来院回数が増加したことが報告されている7)。密なケアができる環境でない限り、中断は難しいという印象を持っている。
図1 ALTAIR試験:96週までの最終投与間隔
FAS

Ohji M, et al. Adv Ther. 2020; 37: 1173-1187.
利益相反:本研究はバイエル薬品の資金により行われた。著者のうち3名は、バイエル薬品の社員である。著者にバイエル薬品および参天製薬から研究助成金などを受領している者が含まれる。
治療目標の明確化および患者理解
上甲らが行った患者アンケート8)では、nAMD患者が治療で最も重視するのは長期的な視力維持であることが明らかになった(図2)。一方で、患者は視力の悪化がないことを理由に治療を自己中断する傾向があることも五味らによって報告されている(図3)。
この課題を解決するためには、抗VEGF療法は継続が必要であることや継続に伴う負担の軽減を鑑みて治療目標を明確にし、患者と目線合わせをしながら長期的に治療を継続することが大切であると考えている。
図2 wAMD患者を対象とした選好研究において患者が最も重視した項目

対象:
良い方の少数視力が0.5以上であり、日本語を読んで理解し、調査を完了することができる50歳以上の抗VEGF薬による治療を受けている滲出型加齢黄斑変性(Wet age-related macular degeneration:wAAD)患者120例
方法:
抗VEGF薬の投与方法を選択する上で、患者が重視する項目についてアンケート調査を実施した。①1年目の投与回数 ②1年目の診察回数 ③1年目の視力改善率(15文字以上増加した患者の場合)④2年目の視力維持率(15文字以上の低下を回避した患者の割合)の4つの項目について、どの項目を相対的に重視するかを調査した。
Joko T, et al.: Patient Preference and Adherence. 2020; 14: 553-567.
Reprinted/Re-used and adapted with permission from the original publisher Dove Medical Press Ltd.
利益相反:
本研究はバイエル薬品の資金により行われた。本論文の著者のうち、2名はバイエル薬品、1名はバイエルコンシューマーケアの社員である。著者にバイエル薬品および参天製薬より謝礼を受領している者が含まれる。
Joko T, Nagai Y, Mori R, et al. Patient Preferences for Anti-Vascular Endothelial Growth Factor Treatment for Wet Age-Related Macular Degeneration in Japan: A Discrete Choice Experiment. Patient preference and adherence.2020;14:553-567. Originally published by and used with permission from Dove Medical Press Ltd. ©2020
Joko et al. This work is published and licensed by Dove Medical Press Limited and incorporate the Creative Commons Attribution ‒ Non Commercial (unsorted, v3.0) License (http://creativecommons.org/licenses/by-nc/3.0/).
図3 AMD患者における治療中止の理由(上位5つ)

対象:
抗VEGF薬の注射歴が少なくとも1回ある50歳以上の日本人AMD患者272例(コホート1:抗VEGF薬を中止した患者207例、コホート2:抗VEGF薬を継続している患者65例)
方法:
治療中止の理由や治療への不満、QOL(EQ-5D-5L)、患者の積極性(PAM-13)に関して匿名のオンライン調査を実施した。調査期間は30日間(2019年9月11日から10月10日)であった。
Gomi F, et al. J Clin Med. 2021; 10(14): 3106
利益相反:著者にバイエル薬品より謝礼を受領しているものが含まれる。
SDC達成に求められる3基準における実臨床とのギャップへの取り組み
黄斑疾患の治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した指標である。SDCを達成するために求められる基準が3つ挙げられおり、これらを達成することが理想であるが、実臨床とのギャップが存在する。
① 改善した視力を長期に維持できる
nAMD治療において、視力の改善と長期的な視力の維持は、患者の最も高いニーズであり重視されている(図2)。そのため、乏しい視力改善、または視力の低下は治療からの脱落を招いてしまう9)。しかし、治療中断を89%が医師側で判断している報告もあり(図3)、我々はこのことを改めて認識する必要があると考えている。
② Fluidを速やかに減少させ長期に維持できる
Fluidには、大きく分けて網膜下液(SRF)、網膜内液(IRF)、そして網膜色素上皮下液(sub-RPE fluid)の3種類あり、そのすべてのfluidが病的状態と関連していると考えられている10)。最近のnAMD治療の考え方として、十分な治療下においても残存するSRFについては視力への影響が低いという報告11-13)もある一方で、SRFの再燃は視力に影響することも報告14)されていることから、やはりこの3種のfluidをしっかり制御することが良好な結果につながることは言うまでもない。
ALTAIR試験において16週時点でのfluidの有無別に検討したサブ解析が報告されており、BCVAのベースラインからの変化量は、52週時でfluidなし群で+10.6文字、fluidあり群で+6.5文字、96週時にfluidなし群で+9.1文字、fluidあり群で+4.3文字であった(図4)。導入期においてfluidの存在により良好な視力改善が得られなかった場合、視力予後も悪く、治療中断につながりやすい可能性がある。
③ 負担軽減により治療継続できる
前述の通り、nAMD患者が治療で最も重視するものは長期的な視力維持であるが、次いで少ない投与回数を重視していることがわかった(図2)。投与間隔を延長して、少ない来院回数や投与回数でコントロールすることが望ましく、患者のニーズでもあり、医療側の負担軽減にもつながる。
図4 ALTAIR試験:最高矯正視力文字数の変化量の推移<16週時点におけるfluidの有無別のサブグループ解析>
FAS、LOCF

デザイン:
無作為化前向き試験のサブ解析
対象:
ALTAIR試験に参加した、治療歴のないベースライン視力73~25文字(ETDRS文字数)の50歳以上の滲出型AMD患者246例
方法:
16週間のtotal fluid Status(事前規定の解析項目)と、any fluid、IRF、SEDまたはPEDと視力の関係をベースライン、16週、52週および96週時の測定時点(事後解析項目)で検討した。Fluid statusはSD-OCTを用いてinvestigatorが評価した。
†アイリーア(2mg)2週幅調節群およびアイリーア(2mg)4週幅調節群の合計、アイリーア(2mg)2週幅調節群の1例はFluid状態が不明
Ohji M, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2021; 259(12): 3637 -3647.
利益相反:本研究はバイエル薬品の資金により行われた。著者のうち3名は、バイエル薬品の社員である。著者にバイエル薬品および参天製薬から研究助成金などを受領している者が含まれる。
まとめ
抗VEGF療法の登場により視力改善が可能となり、日本を含む先進国でAMDによる社会的失明が減少した。一方でAMD患者は今後も増加することが予測され、現在の課題にフォーカスすることにより今後の治療のあり方を考える必要がある。
現在の抗VEGF療法ではnAMDの根治は難しく、長期的な継続治療が必要であることから、持続可能な治療のためのゴールを設定し、患者と目線合わせを進めていくことが重要である。短期的な視力回復から長期的で持続可能な病態管理を見据えてSDCを目指した治療が重要となるが、実臨床とのギャップはまだ存在し、今後の課題解決に向けた取り組みが求められる。
文献
1)
髙橋 寛二ら.: 眼科 2020; 62(5): 491-502
2)
Bloch SB, et al.: Am J Ophthalmol. 2012; 153(2): 209-213.e2
3)
World Health Organization. The global burden of disease: 2004 update
4)
World population to 2300. New York: UN, 2004
5)
Ohji M, et al.: Adv Ther. 2020; 37: 1173-1187
6)
Nguyen V, et al.: Ophthalmol Retina. 2019; 3(8): 623-628
7)
Matsubara H, et al.: Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 2022; 260(6): 1867-1876
8)
Joko T, et al.: Patient Preference and Adherence. 2020; 14: 553-567
9)
Spooner K, et al.: Ophthalmol Retina 2021; 5(6): 511-518
10)
Schmidt-Erfurth U, et al.: Prog Retin Eye Res. 2016; 50: 1-24
11)
Waldstein SM, et al.: Ophthalmology 2016; 123: 1521-1529
12)
Sharma S, et al.: Ophthalmology 2016; 123: 865 -75
13)
Regillo CD, et al.: Am J Ophthalmol. 2015; 160: 1014-1023
14)
Wickremasinghe SS, et al.: Retina. 2016; 36(7): 1331-1339