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Sustainable Disease Control(SDC)達成を目指したnAMD治療

Ophthalmology Web Conference
開催日:2024年3月26日

大島 裕司 先生

大島 裕司 先生

福岡歯科大学
総合医学講座
眼科学分野

現在の滲出型加齢黄斑変性(nAMD)治療の課題

nAMDは、以前は治療が困難であったが、抗VEGF薬の登場により、視力維持から視力改善が目指せる時代に変化した。デンマークにおける調査1)では、AMDによる社会的失明の発生率は2000年から2010年にかけて半減しており、その社会的失明の発生率減少は抗VEGF療法が広まりはじめた2007年以降に顕著であった。一方で、AMD患者数は増加しており、2040年に全世界で2億8800万人に達すると予想されている。特に、増加率はアジア圏が最も高く、1億1300万人になると報告されている2)。今後、治療を必要とする患者が増加することを鑑みると、患者と医師の負担を考えた治療方針を検討する必要があると考えている。

nAMDは慢性疾患であることから継続的な治療が必要であり、抗VEGF療法では維持期の治療選択が重要となる。治療レジメンはreactiveまたはproactiveな方法があるが、近年はproactiveな方法のひとつであるTreat andExtend(T&E)レジメンが多く用いられている。本邦からアイリーア(2mg)をT&Eレジメンで検討したALTAIR試験3)も報告され、日本人に対する維持期でのT&Eレジメンの有用性が示されている。

T&Eレジメンにより投与間隔を延長し、最終的には病態に応じて休薬できることが理想であるが、休薬後2年で50%が再燃し、更に再燃した患者では治療間隔が短縮され、受診回数が増加したという報告4)があることからも、休薬の判断は難しく、継続的な治療やモニタリングが必要になると考える。しかし、継続的な治療には患者の通院や経済的な負担、治療に対するモチベーションの維持、また、患者自身による治療の自己中断に伴う中途失明のリスクなどのさまざまな壁があり(図1)、継続的な治療に対する患者の理解が不可欠だと感じている。

図1|長期視力予後を考えた治療戦略におけるジレンマ

図1:長期視力予後を考えた治療戦略におけるジレンマのイラスト図

大島裕司先生ご提供

長期治療における課題と問題点

黄斑疾患の治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、Sustainable Disease Control (SDC)とはその治療達成を目指した治療目標である。SDCを達成するために求められる基準として、改善した視力を長期に維持できること、Fluidを速やかに減少させ長期に維持できること、負担を軽減して治療継続できることが挙げられる(図2)。

図2|Sustainable Disease Control(SDC)

黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した治療目標です。

図2:Sustainable Disease Control(SDC)の図

監修:鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 感覚器病学講座 眼科学分野
教授 坂本 泰二 先生

nAMD患者が治療で最も重視するのは長期的な視力維持であることが報告5)されているが、視力改善が乏しい場合、脱落する可能性が高い6)。また、Fluidの残存は視力に影響する可能性があり、特に網膜内液(IRF)は長期的には黄斑萎縮を来し、視力不良の原因となることから、Fluidを速やかに減少させ維持することは、投与間隔や長期的に視力を維持する上でも重要と考えられる。近年新たに上市された抗VEGF薬のnAMD患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験7,8)では、維持期における最長投与間隔を12週または16週に設定し、負担軽減が試みられている。しかし、T&Eレジメンで治療を継続しても最短投与間隔で維持され、投与間隔を延長できない患者が一定数存在することはALTAIR試験3)結果で示されている。

これらのことから、nAMD治療において少ない負担で良好な視力を得て維持するためにはSDCが重要であると考える。負担軽減により継続的な治療を維持するためにも少しでも投与間隔を延長できる薬剤が望まれ、アイリーア8mgが開発された。

アイリーア8mgへの期待

nAMD患者を対象とした第Ⅲ相国際共同試験であるPULSAR試験13)では、アイリーア8mg12週間隔または16週間隔による有効性についてアフリベルセプト2mgに対する非劣性を検証するとともに、安全性についても検討した。主要評価項目(検証的な解析)である48週目における最高矯正視力(BCVA)文字数のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、8mg12週間隔投与群で+6.1文字、8mg16週間隔投与群で+5.9文字であり、2mg8週間隔投与群(+7.0文字)に対する非劣性が検証された(図3)。

図3|BCVAのベースラインからの変化量[48週:主要評価項目(検証的解析結果)、60週:主な副次評価項目]

(MMRM、FAS)

図3:PULSAR試験:BCVAのベースラインからの変化量のグラフと表

※1

実測値

※2

各群-2mg8週間隔投与群

※3

非劣性(非劣性限界値-4文字)の片側検定

階層的検定手順に従い、下位の「8mg投与群併合の中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の16週目における優越性」は示されたが、続く「8mg12週間隔投与群の最高矯正視力の48週目における優越性」が示されなかったため、検定を終了した。

MMRM(mixed model for repeated measurements):反復測定混合効果モデル。ベースラインの最高矯正視力文字数を共変量、投与群、来院および層別因子[地域(日本、その他の地域)、ベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)]を固定効果とし、ベースラインの最高矯正視力文字数と来院の交互作用項、投与群と来院の交互作用項を含む。

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

16週目に中心窩領域にIRFおよび網膜下液(SRF)が認められなかった患者の割合は、8mg投与群併合で63.3%、2mg8週間隔投与群で51.6%であり、8mg投与群併合の2mg8週間投与群に対する優越性が示された(図4)。なお、この結果は、8mg投与群でdry maculaが得られた患者の割合が2mg投与群を上回ったということを示している。また、60週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合は、8mg12週間隔投与群で74.6%、8mg16週間隔投与群で72.2%、2mg8週間隔投与群で74.6%であった。

図4|16週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合[主な副次評価項目]

(LOCF、FAS)

図4:PULSAR試験:16週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合のグラフ

※1

8mg投与群併合-2mg8週間隔投与群[地域(日本、その他の地域)およびベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)で層別化したMantel-Haenszel型の重みを用いて調整した]

※2

地域(日本、その他の地域)およびベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)で調整した片側CMH検定

LOCF(Last Observation Carried Forward):最終評価スコア外挿法。欠測値に対して欠測前の最後の測定値を用いて補完する解析方法

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

60週目における中心網膜厚(CRT)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、8mg12週間隔投与群で-153.7μm、8mg16週間隔投与群で-150.7μm、2mg8週間隔投与群で-154.8μmであった。60週目における投与間隔は、8mg12週間隔投与群では77.8%の患者が12週間隔投与を維持、8mg16週間隔投与群では74.1%の患者が16週間隔投与を維持していた(図5)。なお、8mg16週間隔投与群では38.5%の患者が次回予定された投与間隔が20週間隔に延長すると判断されていた。

試験眼に対する平均投与回数は、60週目ではそれぞれ6.9回、6.0回、8.5回であった(図6)。

安全性について、60週間におけるすべての有害事象の発現率は8mg投与群併合で78.6%、2mg8週間隔投与群で77.4%であり、眼内炎はそれぞれ0.7%、0.6%であった。

図5|投与間隔

8mg12週間隔投与群において60週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合(SAF※1
[探索的評価項目]

図5:PULSAR試験:8mg12週間隔投与群において60週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合のグラフ

8mg16週間隔投与群において60週目まで投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合(SAF
[探索的評価項目]

図5:PULSAR試験:8mg16週間隔投与群において60週目まで投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合のグラフ

60週目までに投与間隔が短縮となった患者の割合、次回予定された投与間隔別の患者の割合(SAF※1
[事前に規定されたその他の評価項目]

図5:60週目までに投与間隔が短縮となった患者の割合、次回予定された投与間隔別の患者の割合の表

例数(%)

※1

SAFのうち60週目までの投与を完了した患者のみ

※2

60週目までの最終来院日における評価に基づく投与間隔

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

図6|60週までの投与回数[事前に規定されたその他の評価項目]

投与回数※1(試験眼、SAF)

図6:60週までの投与回数[事前に規定されたその他の評価項目]

※1

偽注射を除く投与回数

※2

SAF(n=338)のうち1例が欠測

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

まとめ

抗VEGF薬の登場により視力改善が可能となり、nAMDによる社会的失明が減少した。一方、現在の抗VEGF療法ではnAMDの根治は難しく、長期的な継続治療が必要であることから、SDCを目指した治療が重要となる。アイリーア8mgは、より高濃度のアフリベルセプトを含み、アフリベルセプト2mgより少ない投与回数、長い投与間隔で治療を行えることが期待され、新規のnAMD患者における選択肢として有用であると考えている。

文献

1)

Bloch SB, et al.: Am J Ophthalmol. 2012; 153(2): 209-213.e2

2)

Wong WL, et al.: Lancet Glob Health 2014; 2: e106-116

3)

Ohji M, et al.: Adv Ther. 2020; 37: 1173-1187

4)

Matsubara H, et al.: Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022; 260(6): 1867-1876

5)

Joko T, et al.: Patient Prefer Adherence. 2020; 14: 553-567

6)

Spooner K. et al.: Ophthalmol Retina. 2021; 5: 511-518

7)

Dugel PU, et al.: Ophthalmology. 2020; 127: 72-84

8)

Heier JS, et al.: Lancet. 2022; 399: 729-740

9)

Bhagat D, et al.: Clin Ophthalmol. 2020; 14: 2975-2982

10)

Do DV, et al.: Ophthalmology. 2011; 118: 1819-1826

11)

Brown DM, et al.: Am J Ophthalmol. 2022; 238: 157-172

12)

Wykoff CC, et al.: Lancet. 2022; 399: 741-755

13)

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

座長コメント

本邦において2012年から10年以上の使用経験を有するアイリーア(2mg)の高濃度製剤としてアイリーア8mgが登場した。SDCの達成を目指し、投与間隔の延長を含めた負担軽減により継続的な治療を行ううえで、アイリーア8mgを用いたPULSAR試験、PHOTON試験の結果は、日常診療の参考となると考えられる。

石田 晋 先生

石田 晋 先生

北海道大学大学院
医学研究院 眼科学教室