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PULSAR試験から考えるアイリーア8mgの効果と期待

Ophthalmology Web Conference
開催日:2024年5月14日

大石 明生 先生

大石 明生 先生

長崎大学医学部眼科

滲出型加齢黄斑変性(nAMD)治療における抗VEGF療法の課題

現在のnAMD治療は抗VEGF療法が主流となっており、2020年の先進国におけるAMDによる社会的失明は、1990年から25%以上減少、日本を含む東アジアでも約25%減少したことが報告されている1)。一方で、日本では2019年時点においても黄斑変性は視覚障害認定の原因疾患の第4位(9.1%)であり2)、治療にはまだ課題が残っていると考えられる。

日本人nAMD患者を対象にアイリーア(2mg)のTreat and Extend(T&E)レジメンにおける有効性および安全性を検討した多施設共同研究であるALTAIR試験3)において、96週までの最終投与間隔が16週間隔であった患者が41.5~46.3%であった一方で、8週間隔であった患者は33.3~37.4%であった(図1)。このような早期に再発がみられる治療抵抗例は他の抗VEGF薬でも30%程度存在し、nAMD治療における課題となっている。

また、nAMD患者を対象としたアイリーア(2mg)の日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験であるVIEW2試験の長期フォローアップ4)では、2年後の最高矯正視力(BCVA)文字数のベースラインからの平均変化量は約+10文字であったが、実臨床でのフォローアップ期間中に視力が低下し、治療開始から7年後には約-8文字となった。このことから初期治療で視力が改善しても、維持期治療が適切に実施できないと長期に視力を維持することは難しいことが示唆されている。

図1|ALTAIR試験:96週までの最終投与間隔

FAS

図1:ALTAIR試験:96週までの最終投与間隔のグラフ

Ohji M, et al.: Adv Ther. 2020; 37(3) : 1173-1187.
利益相反:本研究はバイエル薬品の資金により行われた。著者のうち3名は、バイエル薬品の社員である。著者にバイエル薬品および参天製薬から研究助成金などを受領している者が含まれる。

Sustainable Disease Control(SDC)とは

黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した治療目標である。SDCを達成するために求められる基準としては、改善した視力を長期に維持できること、Fluidを速やかに減少させ長期に維持できることが大切であり、そのために経済的、身体的、時間的な負担を軽減し、治療を継続することが重要である(図2)

図2|Sustainable Disease Control(SDC)

黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した治療目標です。

図2:Sustainable Disease Control(SDC)の図

監修:鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 感覚器病学講座 眼科学分野
教授 坂本 泰二 先生

nAMD治療における新たな治療選択肢アイリーア8mg

アフリベルセプトは、VEGF-A、VEGF-B、PlGFと結合することで、VEGF受容体を介した血管新生や血管透過性亢進、炎症反応を抑制する。VEGFに対する結合親和性の強さを示すKD値は、ブロルシズマブ1.3pMに対し、アフリベルセプトでは0.1719pMであった(図3)。また、抗VEGF薬のVEGF阻害作用を示すVEGFによる細胞内カルシウム動員に対する50%阻害濃度(IC50)は、ブロルシズマブ5.74nMに対し、アフリベルセプトでは2.42nMであった12)

図3|VEGFに対する結合親和性(in vitro)

図3:VEGFに対する結合親和性(in vitro)の表

*:原著から単位(fM→pM)を変更
KD(equilibrium dissociation constant):平衝解離定数(結合親和性の強さを示す値、数値が小さいほど結合しているリガンドと受容体の濃度が高いことを示す)
95%信頼区間は理想的なKD曲線に当てはめることにより算出

方法:
組換え型ヒトVEGF-A165を用いたアフリベルセプト、ブロルシズマブおよびラニビズマブの結合親和性は結合平衝除外法(Kinetic Exclusion Assay)により検討し、平衝解難定数は非線形回帰分析から求めた。

利益相反:
本試験はBayerおよびRegeneronの支援のもと実施、著者らはすべてRegeneronもしくはBayerの社員(元社員を含む)である。

Schubert W, et al.: Transl Vis Sci Technol. 2022; 11(10): 36より一部改変

アイリーア(2mg)の治療抵抗例への治療選択肢には、光線力学的療法(PDT)併用や他の抗VEGF薬があるが、これらの治療にも視力改善効果や副作用等の課題が残る。そのような中、新たな選択肢としてアイリーア(2mg)の高濃度高容量[濃度114.3mg/mL(8mg)、投与容量(0.07mL)]製剤であるアイリーア8mgが臨床使用可能となった。アイリーア8mgは既存のアイリーア(2mg)の4倍の用量となり、硝子体内投与したときのシミュレーションでは、アイリーア(2mg)と比較して投与間隔が約20日(2半減期)延長されることが予測され、有効濃度以上の期間が20日程度長くなることが期待された。

† 照会事項への回答

日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験13)

【概要】

PULSAR試験では、アイリーア8mg12週間隔または16週間隔投与による有効性についてアフリベルセプト2mg8週間隔投与に対する非劣性を検証するとともに、安全性についても検討した。試験対象は中心窩下脈絡膜新生血管(CNV)を伴うnAMD患者1,011例であり、うち日本人が98例含まれていた。アフリベルセプト2mg投与群は、導入期として4週間隔で連続3回投与後に8週間隔で投与し、アイリーア8mg投与群は導入期として4週間隔で連続3回投与後、12週または16週間隔で投与した。ただし、8mg12週間隔投与群および16週間隔投与群では、16週目以降、DRM(doseregimen modifi cation)基準に従い投与間隔を変更した。

短縮の基準は「BCVA文字数の12週目からの5文字超低下」かつ「中心網膜厚(CRT)の12週目からの25μm超増加、または中心窩に新たな出血、または新たな新生血管が発現」であり、Fluidや出血があれば投与する一般的なT&Eの基準とは異なっていた。なお、2年目(52~96週目)は投与間隔短縮のDRM基準に加え、投与間隔延長のDRM基準に従って投与間隔の延長が可能であった。

【結果】

主要評価項目(検証的な解析)である48週目におけるBCVA文字数のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、8mg12週間隔投与群で+6.1文字、8mg16週間隔投与群で+5.9文字であり、2mg8週間隔投与群(+7.0文字)に対する非劣性が検証された(図4)。日本人集団では、8mg16週間隔投与群で+7.5文字、2mg8週間隔投与群で+4.3文字であった。

図4|BCVAのベースラインからの変化量[48週:主要評価項目(検証的解析結果)、60週:主な副次評価項目]

(MMRM、FAS)

図4:16週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合[主な副次評価項目]の図表

※1

実測値

※2

各群-2mg8週間隔投与群

※3

非劣性(非劣性限界値-4文字)の片側検定

階層的検定手順に従い、下位の「8mg投与群併合の中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の16週目における優越性」は示されたが、続く「8mg12週間隔投与群の最高矯正視力の48週目における優越性」が示されなかったため、検定を終了した。

MMRM(mixed model for repeated measurements):反復測定混合効果モデル。ベースラインの最高矯正視力文字数を共変量、投与群、来院および層別因子[地域(日本、その他の地域)、ベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)]を固定効果とし、ベースラインの最高矯正視力文字数と来院の交互作用項、投与群と来院の交互作用項を含む。

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

16週目に中心窩領域に網膜内液(IRF)および網膜下液(SRF)が認められなかった患者の割合は、8mg投与群併合で63.3%、2mg8週間隔投与群で51.6%であり、8mg投与群併合の2mg8週間隔投与群に対する優越性が示された(図5)。日本人集団では、8mg投与群併合で76.2%、2mg8週間隔投与群で66.7%であった。これは8mg投与群では導入期治療によりdry maculaが得られた患者の割合が高かったことを示している。また、48週目では8mg12週間隔投与群で71.1%、8mg16週間隔投与群で66.8%、2mg8週間隔投与群で59.4%(日本人集団ではそれぞれ60.0%、78.8%、66.7%)であり、60週目ではそれぞれ74.6%、72.2%、74.6%であった。

図5|16週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合[主な副次評価項目]

(LOCF、FAS)

16週目に中心窩領域にIRFおよびSRFが認められなかった患者の割合[主な副次評価項目]のグラフ

※1

8mg投与群併合-2mg8週間隔投与群[地域(日本、その他の地域)およびベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)で層別化したMantel-Haenszel型の重みを用いて調整した]

※2

地域(日本、その他の地域)およびベースラインの最高矯正視力文字数(60文字未満、60文字以上)で調整した片側CMH検定

LOCF(Last Observation Carried Forward):最終評価スコア外挿法。欠測値に対して欠測前の最後の測定値を用いて補完する解析方法

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

48週目における投与間隔は、8mg12週間隔投与群では79.4%が12週間隔を維持し、8mg16週間隔投与群では76.6%が16週間隔を維持していた(図6)。また、60週目には、8mg12週間隔投与群の77.8%が12週間隔を維持し、8mg16週間隔投与群の74.1%が16週間隔を維持していた。前述のALTAIR試験3)では、96週時点で12週間隔以上が56.9~60.2%、16週間隔が41.5~46.3%であったことから、アイリーア8mgではより長い投与間隔での投与が期待される。また、8mg12週間隔投与群、16週間隔投与群の48週目までの平均投与回数は導入期投与も含めてそれぞれ5.9回、5.1回であった。2年目以降では延長基準も加わるため、さらなる投与回数の減少が期待される。

図6|48週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合/投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合[探索的評価項目]

8mg16週間隔投与群において48週目まで投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合(SAF

48週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合のグラフ

8mg16週間隔投与群において48週目まで投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合(SAF

投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合のグラフ

※ SAFのうち48週目までの投与を完了した患者のみ

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

有効性が高い薬剤は有害事象が懸念されることもあるが、60週間において、試験薬に関連する試験眼の有害事象は2mg8週間隔投与群で3.6%、8mg投与群併合で4.6%であり、眼内炎症反応はそれぞれ1.2%、0.7%であった。また、全身性の試験薬に関連する重篤な有害事象は、2mg8週間隔投与群で脳血管発作2例、急性心筋梗塞、高血圧が各1例、8mg16週間隔投与群で心筋梗塞、肺塞栓症が各1例であった。

アイリーア8mgへの期待

PULSAR試験において、アイリーア8mgはより長い投与間隔でアイリーア(2mg)に対する非劣性が検証されたことから、未治療例への使用はもちろん、アイリーア(2mg)でコントロール不良な患者やコントロールはできているがさらに投与間隔を延ばしたい患者についても、アイリーア8mgへの切り替えで投与間隔の延長が期待される。

一方で、アイリーア(2mg)で何らかの有害事象があった患者やほとんど反応しない患者には、使用しにくいと考えられる。また、投与量が多い分、眼圧上昇の懸念があるため、緑内障患者には注意が必要である。心血管リスクの高い患者については、抗VEGF薬と心血管イベントの関連はないことが報告されているが14)、注意は必要であると考えている。

電子添文における導入期の用法・用量は「アフリベルセプト(遺伝子組換え)として8mg(0.07mL)を4週ごとに1回、通常、連続3回(導入期)硝子体内投与するが、症状により投与回数を適宜減じる。」とされており、維持期同様、導入期も症状により投与回数が適宜調整可能になったが、どのような投与方法が良いのか今後の検討が必要である。また、重要な基本的注意として「本剤投与前に、十分な麻酔と広域抗菌点眼剤の投与を行うこと。」とあり、投与に際した抗菌薬投与の具体的な日数は設定されていない。漫然と抗菌薬を投与し続けることは好ましくないため、実態に合った電子添文になっていることは評価できる。

まとめ

アイリーア8mgは投与間隔の延長による負担軽減が期待されるが、より効果的な使用にはさらなる検討が必要である。日本は高齢人口が多く、保険制度により高い薬剤でも使いやすい面があるので、効果を検証する上で日本の果たす役割は小さくないと考える。今後、日本から多くのエビデンスが報告されることを期待したい。

文献

1)

GBD 2019 Blindness and Vision Impairment Collaborators.: Lancet Global Health. 2021; 9(2): e144-e160

2)

Matoba R, et al.: Jpn J Ophthalmol. 2023; 67(3): 346-352

3)

Ohji M, et al.: Adv Ther. 2020; 37(3): 1173 -1187

4)

Lukacs R, et al.: BMC Ophthalmol. 2023; 23(1): 110

5)

Bhagat D, et al.: Clin Ophthalmol. 2020; 14: 2975-2982

6)

Joko T, et al.: Patient Prefer Adherence. 2020; 14: 553-567

7)

Do DV, et al.: Ophthalmology. 2011; 118(9): 1819-1826

8)

Dugel PU, et al.: Ophthalmology. 2020; 127(1): 72-84

9)

Heier JS, et al.: Lancet. 2022; 399(10326): 729-740

10)

Brown DM, et al.: Am J Ophthalmol. 2022; 238: 157-172

11)

Wykoff CC, et al.: Lancet. 2022; 399 (10326): 741-755

12)

Schubert W, et al.: Transl Vis Sci Technol. 2022; 11(10): 36

13)

バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:PULSAR試験]承認時評価資料

14)

Ngo Ntjam N, et al.: JAMA Ophthalmol. 2021; 139(6): 1-11

Q&A

安川先生:アイリーア8mgはどのような点で期待できるか?特にどのような患者の処方にメリットを感じるか(未治療患者にも期待しているか)?

大石先生:nAMDにおいては、既存のアイリーア(2mg)で効果が認められている患者は勿論のこと、アイリーア8mgにはPULSAR試験の結果で示されたような効果持続性に期待している。そのため、使いにくい患者を除いては、アフリベルセプトを選択する際に、既存の2mgではなく、基本的に8mgを中心として治療するという使い方でいいのではないかと考えている。未治療患者についても同様である。

中尾先生:DMEにおいても、大石先生と同じように考えている。既存のアイリーア(2mg)で効果が認められている患者は勿論のこと、未治療患者におけるアイリーア8mgによる効果持続性について期待している。一般的に投与間隔の延長は、トータルの投与回数の減少にもつながる可能性があると考えている。また、VEGFをしっかり抑えないと炎症が惹起されて治療抵抗例になってしまう可能性を考えると、早期からの抗VEGF療法の介入、治療初期からしっかりVEGFを抑えることが重要である。そういった観点からも、アイリーア8mgを用いた初期治療に期待している。

安川先生:PULSAR試験、PHOTON試験で、アイリーア8mg投与群における12週または16週の投与間隔が維持された割合、投与回数の結果が示された。臨床上のポイントや意義をどう考えるか?

大石先生:12週または16週の投与間隔を維持した割合の結果が薬価に見合うかどうかというのは今後臨床で使用する上でのポイントになると考えている。1回のコストは高いが、その分来院の頻度が減少し、トータル的にみて負担が少ないということになれば、患者にとっても医療者にとっても使いやすくなる。

中尾先生:治療の選択肢が増えている中、我々医療者が患者に説明するときには、長期的な目線、つまり持続可能な治療(SDC)を達成できるかが重要だと考える。そこを患者にも理解してもらえれば、先行投資ということで、薬価が高くてもアイリーア8mgの使用を検討しやすくなるように考える。

安川先生:抗VEGF療法の有効性として、nAMDにおいてはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や網膜色素上皮剥離(PED)への効果、また、DMEであれば毛細血管瘤への作用(参考情報)などに期待したいところである。そのような効果または作用が認められた結果、再発が少なくなり、視力予後の改善に繋がる可能性があると思うがどう考えるか?また、しっかりと治療を行うべき病型や病態、効果が期待できる病型や病態についても意見を伺いたい。

大石先生:AMD治療においては、PCVやPEDへの効果に期待したいと考える。しかし、現時点ではまだデータが不足しているため、あくまでも期待に過ぎない。

中尾先生:DMEは抗VEGF療法を継続することで、毛細血管瘤や硬性白斑を含めた網膜症自体への作用(参考情報)が報告されている。現時点ではアイリーア8mgではデータが不足しているため、今後の情報の集積に期待したい。

安川先生:安全面について、使用上注意すべき点はどのように考えているか?

大石先生:投与容量が多くなることが一番の注意点だと考える。

安川先生:眼圧上昇への対策として、前房穿刺は行うか?

大石先生:全例に対して同様に前房穿刺を行うということは考えていない。

安川先生:臨床で使用する上では投与回数も考慮する必要があるが、眼内炎症についてはいかがか?

中尾先生:両試験の60週間における眼内炎症反応の発現割合は、PULSAR試験ではアフリベルセプト2mg8週間隔投与群で1.2%、アイリーア8mg投与群併合で0.7%であり、PHOTON試験ではそれぞれ0.6%、1.0%であった。従来通り、注意して診察していく必要があると考えている。

まとめ(安川先生)

これまで臨床で使用してきたアイリーア(2mg)の高濃度高容量製剤であるアイリーア8mgを、今後どのように使用していくかがポイントになる。本日の講演が先生方の日常診療の参考になれば幸いである。

安川 力 先生

安川 力 先生

名古屋市立大学大学院
医学研究科視覚科学