抗VEGF薬の使い方を再検証
~患者のリスクマネジメントを中心に~

済生会熊本病院心臓血管センター 循環器内科 不整脈先端治療部門 最高技術顧問 奥村 謙 先生

2019年8月

動脈硬化・動脈血栓塞栓症の病態

我が国の死因別死亡率において、心疾患と脳血管疾患を合わせた心・脳血管疾患(もしくは心血管疾患)の割合は悪性新生物に次いで高い22)。動脈硬化に伴って形成された血管内のプラークが破綻すると血小板血栓となるが、この血栓が血流を遮断すると心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈梗塞などの動脈血栓塞栓症(arterial thromboembolic events;ATE)が生じる。動脈硬化とATEの主なリスク因子としては、高齢・高血圧症・糖尿病・脂質異常症・心房細動・喫煙・大量飲酒などが挙げられ、特に高齢・高血圧症・糖尿病・脂質異常症が重要である23)

VEGFは血管新生、リンパ管新生、血管透過性亢進に重要な役割を果たしている。特にVEGF-Aは血管内皮細胞に特異的に発現するVEGFR-2と結合し、種々の血管新生関連因子の遺伝子発現制御や、血管内皮細胞の増殖、遊走を促進し、血管透過性を亢進する。つまり、VEGF-Aは悪性腫瘍や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、関節リウマチ、動脈硬化症などの病態で血管新生を促進し、病態を増悪させる。一方で、虚血性疾患では血管新生を促進し血流回復に寄与するため、血管新生療法の治療因子としての有用性も検討されている24)

抗VEGF薬は悪性腫瘍治療薬として用いられているが、VEGF-VEGFR結合が阻害されると、血管拡張因子の抑制、血管収縮因子の亢進のほか、微小循環が希薄化し、酸化ストレスも増大して末梢血管抵抗が増大する。加えて、Na利尿とリンパ管新生の抑制により容量負荷(循環血液量の増加)が生じる。これらの末梢血管抵抗の増大および容量負荷により、高血圧や心血管疾患が発症すると考えられている25)

動脈血栓塞栓症に対するアイリーアの薬物動態および臨床成績

アイリーアの薬物動態に関しては、硝子体内投与後、アフリベルセプトが血中へ移行するが、その遊離型の平均最高濃度は静脈内投与後の1/220未満であることが示されている(図2)。さらに、アイリーア硝子体内投与後は静脈内投与後とは異なり、臨床上問題となる血圧変動は認められていない(図3)。

アイリーアの薬物動態に関しては、硝子体内投与後、アフリベルセプトが血中へ移行するが、その遊離型の平均最高濃度は静脈内投与後の1/220未満であることが示されている(図2)。さらに、アイリーア硝子体内投与後は静脈内投与後とは異なり、臨床上問題となる血圧変動は認められていない(図3)。

【図2】血漿中遊離型アフリベルセプト濃度推移(外国人データ)

【図2】血漿中遊離型アフリベルセプト濃度推移(外国人データ)

【図3】収縮期血圧変化量の推移

VIEW1試験、VIEW2試験のデータには一部承認外の成績が含まれます(アイリーア0.5mgの4週ごと投与は承認外の用法・用量です)。探索試験である海外第Ⅱ相試験(CLEAR-IT Ⅱ試験)で、アイリーア0.5mgの4週ごと投与が良好な結果を示したこと、また、投与間隔の延長で視力の維持効果が減弱したことから、本試験では低用量の対照として設定されています。

【図3】収縮期血圧変化量の推移

試験概要

第Ⅰ相試験:CLEAR-AMD試験(海外データ)

目的
滲出型AMD患者を対象として、アフリベルセプト静脈内投与の安全性、忍容性、生物学的活性を検討する

対象
滲出型AMD患者25例(アフリベルセプト0.3mg/kg投与群7例、1mg/kg投与群7例、3mg/kg投与群5例、プラセボ投与群6例)

方法
アフリベルセプトの静脈内投与製剤(0.3、1、あるいは3mg/kg)を静脈内投与し、投与1、8、15、および29日目に収縮期および拡張期血圧を測定し、ベースラインからの変化量を評価した。
また、対象患者のうちプラセボ投与群を除く19例については、投与1日目の2および4時間、2、4、8、および15日目に血漿中遊離型アフリベルセプト濃度を測定した。

【安全性】(29日間)

試験薬に関連する有害事象は、プラセボ群1例、アフリベルセプト投与群のうち1mg/kg投与群3例、および3mg/kg投与群5例に認められた。

主な有害事象

プラセボ群:嗄声1例(16.7%)
1mg/kg投与群:高血圧3例(42.9%)、頭痛2例(28.6%)、蛋白尿2例(28.6%)
3mg/kg投与群:頭痛4例(80.0%)、高血圧3例(60.0%)、蛋白尿3例(60.0%)、嗄声3例(60.0%) など
用量の増量に伴って増加しており、投与量との関連性が示唆された。

試験薬に関連する重篤な有害事象

3mg/kg投与群の1例に悪性高血圧が認められ、用量制限毒性であった。

試験薬に関連する投与中止に至った有害事象

1mg/kg投与群:頭痛、高血圧、および蛋白尿1例
3mg/kg投与群:悪性高血圧1例、高血圧および蛋白尿1例

第Ⅱ相試験:オープンラベル延長試験サブスタディ(702試験)(海外データ)

対象
滲出型AMD患者6例

方法
アイリーア2mgを硝子体内投与し、投与1日目の0(投与前)、4および8時間、2、3、4、5、8、および15日目に血漿中遊離型アフリベルセプト濃度を測定した。

第Ⅲ相試験:VIEW1試験(海外データ)
日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:VIEW2試験

目的
中心窩下新生血管を伴う滲出型AMD患者を対象として、アイリーアの有効性についてラニビズマブ0.5mg4週ごと投与に対する非劣性を検証するとともに、安全性についても検討する

対象
滲出型AMD患者2,419例※(アイリーア2mg4週ごと投与群613例、0.5mg4週ごと投与群601例、2mg8週ごと投与群610例、およびラニビズマブ0.5mg4週ごと投与群595例)
※VIEW1試験1,217例およびVIEW2試験1,240例(うち日本人101例)より

方法
アイリーア2mg4週ごと投与群、0.5mg4週ごと投与群、2mg8週ごと投与群、およびラニビズマブ0.5mg4週ごと投与群の4群に無作為に割り付け、初回投与1日目、1週目、および4週目以降4週ごとに収縮期血圧、拡張期血圧を測定し、ベースラインからの変化量を評価した。

【安全性】

滲出型AMDを有する患者を対象として国内外で実施された第Ⅲ相試験[2試験の併合解析(2年間)]において、アイリーア投与群に割り付けられた1,824例(2mg8週ごと投与:610例、2mg4週ごと投与:613例、0.5mg4週ごと投与:601例)中896例(49.1%)、ラニビズマブ投与群(0.5mg4週ごと投与)に割り付けられた595例中311例(52.3%)に副作用※1が認められた。

主な副作用

アイリーア投与群:結膜出血480例(26.3%)、眼痛158例(8.7%)、眼圧上昇89例(4.9%)
ラニビズマブ投与群:結膜出血171例(28.7%)、眼痛54例(9.1%)、眼圧上昇39例(6.6%)

試験薬に関連する試験眼の重篤な有害事象

アイリーア投与群:白内障(2例)、網膜出血、視力低下、網膜色素上皮裂孔(各1例)
ラニビズマブ投与群:視力低下、偽眼内炎、網膜色素上皮裂孔(各1例)

試験薬に関連する全身性の重篤な有害事象

アイリーア投与群:脳血管発作※2(4例)、一過性脳虚血発作、急性冠動脈症候群、ラクナ梗塞、心筋梗塞、虚血性脳卒中※2、腎不全(各1例)

試験薬に関連する投与中止に至った有害事象

アイリーア投与群:脳血管発作※3(3例)、黄斑変性、視力低下、網膜出血、薬疹、急性冠動脈症候群、ラクナ梗塞、虚血性脳卒中、腎不全、歩行障害※3、会話障害※3(各1例)
ラニビズマブ投与群:偽眼内炎1例

※1:投与手技に起因する有害事象を含む
※2:脳血管発作の1例と、虚血性脳卒中は死亡に至る有害事象であった
※3:脳血管発作の1例と歩行障害および会話障害は同一症例であった

【図4】各適応症を対象とした第Ⅲ相試験における脳卒中と心筋梗塞の発現状況

【図4】各適応症を対象とした第Ⅲ相試験における脳卒中と心筋梗塞の発現状況

アイリーア適正使用ガイド第3版 p.20

ATE発症リスク軽減のために
-内科医/循環器専門医の視点から

ATE発症の最大のリスクは、脳卒中や心筋梗塞の既往、高齢、高血圧、糖尿病などの危険因子である。

脳卒中および虚血性心疾患には初期症状がある。脳卒中が疑われる初期症状としては、①意識障害(意識がもうろうとし、反応が鈍い)、②運動麻痺(半身に力が入らない。口を横に引くと顔がゆがむ。箸や茶碗をうまく使えない。字がうまく書けない。手の動きがぎこちない。つまずく。足がもつれる)、③感覚障害(顔や全身の左又は右半身の感覚がおかしくなる。身体半分がしびれる)、④言語障害(舌がもつれる。呂律がまわらない。言葉がうまく話せない。聞いた言葉や読んだ文章が理解できない)、⑤視覚障害(一過性黒内障、視野欠損、複視)などがある。虚血性心疾患が疑われる初期症状としては、典型的症状(圧迫されるような強い胸の痛み、胸の重苦しさがある。冷汗を伴うことが多い)、非典型的症状(動悸・息切れ・めまい・嘔気)などがある23)

ATE発症予防のためには、①問診により、脳卒中や心筋梗塞の既往歴を認めた場合には適切な予防治療が行われていることを確認、②未治療の高血圧や糖尿病を認めた場合には治療に先立って専門医への受診を指示、③服薬にもかかわらず血圧や血糖のコントロールが不良の場合にはまず主治医にこれらのコントロールを依頼するなどの対応を検討、④投与前には、可能な限り血圧測定などを実施し、患者さんの全身状態に異常がないことを確認、⑤異常が認められた場合には、治療の延期や専門医の受診を促すなどの対応を考慮、⑥投与後ATEが疑われる初期症状を見逃さないために、顔や手足の半側麻痺、言語障害、胸痛などの身体の異変が認められた場合には速やかに主治医へ連絡するか、医療機関を受診するよう指導するべきであると考える。

22)厚生労働省ホームページ: 平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況
23)アイリーア®硝子体内注射液40mg/mL適正使用ガイド第3版
24)一般社団法人日本血栓止血学会ホームページ
25)Touyz RM, et al.: J Am Soc Hypertens. 2018; 12: 409-425
26)Kitchens JW, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1511-1120