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ROPとは

未熟児網膜症とは1)

未熟児網膜症(ROP;retinopathy of prematurity)は早産に伴う低出生体重児に発症する疾患であり、重篤な視力障害や失明を引き起こすことがあります。
通常、網膜血管は胎齢14週頃より視神経乳頭部から発生を始め、枝分かれして眼底の前方へ成長し、出生前には最周辺部に達して成長が完了します。
しかしながら早産により網膜血管が成長途中の段階で出生すると、安定した母体から環境が急激に変化することによって、網膜血管は最も未熟な血管細胞がある成長先端部で成長を停止し、虚血状態である無血管領域からのVEGF(vascular endothelial growth factor;血管内皮増殖因子)の放出が亢進します。このVEGFの作用によって異常な血管の新生と増殖が起こります。
ROPは重症化すると網膜剥離を引き起こすことがあります。ROPが進行すると、VEGFの作用によって異常な血管が硝子体に伸長するとともに、周囲にコラーゲンなどの結合組織が生じます。この結合組織は収縮するため、接着している網膜を牽引し、網膜剥離を引き起こします。 小児では増殖組織の収縮と網膜の伸展性が強いため、成人より高度な網膜剥離になり、重篤な視力障害や失明を引き起こすことがあります。

ROPの病態

ROPの病態のイラスト

ROPによる網膜剥離

ROPによる網膜剥離のイラスト

ROPとVEGF

ROPとVEGFのイラスト

監修:産業医科大学 眼科学教室 教授 近藤寛之 先生

1)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第1章

未熟児網膜症の疫学

日本でのROPの推定患者数は年間約5,000人と報告されています。また、医療を受けている患者は約1,000人と報告されています。
ROPは日本における小児の失明原因第1位の疾患であると報告されています。

日本のROP患者数

  • 推定患者数は年間約5,000人1)
  • 医療を受けている患者は約1,000人※、2)

ROPと失明

日本ではROPが小児の失明原因第1位の疾患であり、全体の30%に達したとの報告がされている3、4)

※ 政府統計の患者調査(2017年)。調査日現在において、継続的に医療を受けている者(調査日には医療施設を受療していない者も含む)の数を推計した。

1)未熟児網膜症研究班:未熟児網膜症(平成21年度)<https://www.nanbyou.or.jp/entry/621> (参照 2023年11月)
2)政府統計の総合窓口:患者調査(平成29年患者調査)
<https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450022&tstat=000001031167&survey=%E6%82%A3%E8%80%85%E8>(参照 2023年11月)
3)東範行:日眼会誌. 2012; 116: 683-702.
4)柿澤敏文(研究代表):全国視覚特別支援学校及び小・中学校弱視学級児童生徒の視覚障害原因等に関する調査研究-2015年度調査-報告書

未熟児網膜症の病因1)

ROP発生の最大の要因は網膜血管の未熟性です。早産により網膜血管が成長途中の段階で出生すると、網膜血管は最も未熟な血管細胞がある成長先端部で成長を停止し、異常な血管の新生と増殖が起こります。在胎週数、出生体重が少ないほど網膜血管が未熟であることから、ROPの発症率が高く、重症化しやすくなります。
また、悪化誘因として高濃度酸素の投与が挙げられます。高濃度酸素の投与は網膜血管を収縮させ、虚血を悪化させることから、呼吸窮迫症候群や未熟児無呼吸発作などの治療において、長期に高濃度酸素を投与された場合は、ROPの発生や重症化の可能性が高まります。
さらに、その他にも多くの因子がROPの発生・悪化に複雑に関与すると考えられています。
近年は、呼吸管理の進歩によって、軽症例のROPは減少している一方で、在胎週数、出生体重が極端に少ない超低出生体重児の生存率上昇に伴い、重症例は依然多くみられることから、ROPに対する治療の重要性が高まっています。

ROPの発生要因・悪化誘因

ROPの発生要因・悪化誘因

1)東範行(編):未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第1章