ROPの治療
未熟児網膜症の治療
ROPの治療には、抗VEGF療法、レーザー光凝固、硝子体手術などが用いられます。
1. 抗VEGF療法
異常な血管の増殖に関与するVEGFの作用を抑えることを目的とする。
患児の全身状態のためにレーザー光凝固や早期の硝子体手術が施行できないケースでは、治療行為による全身への影響が軽微な抗VEGF療法は有力な選択肢となる1)。
抗VEGF療法の欠点としては、抗VEGF薬によって血中VEGFが抑制されること、まれに注射による眼内炎や水晶体損傷を生じる可能性があること、線維増殖膜の収縮を起こすこと、再燃率が高く、投与後に長期にわたり頻回の眼底検査を要すること、長期的な安全性が確立していないことなどがあげられる2)。
薬剤選択は、治療効果(奏効率、再燃率、再燃までの期間)および全身・局所の副作用発現リスクを考慮してなされるべきである1)。
活動性の高い、すなわち充血した線維増殖が広範に存在する場合には、抗VEGF薬での単独治療は適応ではない1,3)。
また、初回投与後1ヵ月未満の追加投与や眼局所の感染症がある例は抗VEGF療法が適応にならない2)。
ROP患者への硝子体内注射時には成人患者との違いに注意が必要である2)。
また、硝子体内注射後は慎重かつ長期的な経過観察が必要であり、眼底検査の頻度は、ROPの病型や重症度、患児の全身状態、施設の管理方法との兼ね合いで決定する2)。
硝子体内注射手技の違い2)
※ 日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験(FIREFLEYE試験)においては、硝子体内投与時の注射針の刺入部は角膜輪部から1.0〜2.0mmとした。
2)より一部改変
経過観察の目安2)
2. レーザー光凝固
レーザー光線を網膜の無血管領域に照射して広範に凝固し、VEGFの放出を抑えることを目的とする4)。
レーザー光凝固の手技や治療予後は確立しているが、まれに著明な水晶体血管膜や瞳孔強直によって施行困難な重症例があること、凝固に時間がかかること、術者の習熟を要すること、凝固が広範囲に及ぶと視野狭窄や近視を来すことなどの問題点がある2)。
3. 硝子体手術5)
主に、ROPが進行して網膜剥離となった場合に早期に実施する。
網膜剥離が黄斑に及ばないstage 4Aの段階で治療を行うべきであり、バックリング手術と硝子体手術(水晶体温存あるいは水晶体切除併用)が選択される。
1)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第7章
2)未熟児網膜症眼科管理対策委員会:未熟児網膜症に対する抗VEGF療法の手引き(第2版), 日眼会誌. 2023; 127: 570-578.
3)Kusaka S, et al.: Br J Ophthalmol. 2008; 92: 1450-1455.
4)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第1章
5)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第6章
アイリーアによる未熟児網膜症の治療
ROPの治療において、アイリーアはVEGFによる異常な血管の増殖を抑えることで、正常な血管の伸展を促すことを目的としています。
ROPでは、血管に覆われた網膜の有血管領域と無血管領域の境界線が隆起し、無血管領域の虚血部位からVEGFが放出されます。
このVEGFにより異常に増殖した網膜血管は、隆起により伸長が阻まれ、硝子体側に伸長します。
アイリーアを硝子体内投与することでVEGFはアイリーアと結合し、抗VEGF作用により異常な血管が退縮すると考えられ、異常な血管の退縮後には、正常な血管が周辺網膜方向に伸展すると考えられます。
アイリーアによる治療法
*1 血管内皮増殖因子受容体1(vascular endothelial growth factor receptor 1)
*2 血管内皮増殖因子受容体2(vascular endothelial growth factor receptor 2)
監修:産業医科大学 眼科学教室 教授 近藤寛之 先生