日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:VIBRANT試験1)
(レーザー治療に対する優越性の検証)
1)バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験:VIBRANT試験]承認時評価資料
滲出型加齢黄斑変性(AMD)患者を対象とした海外第Ⅱ相試験(CLEAR-IT Ⅱ試験)および糖尿病黄斑浮腫(DME)患者を対象とした海外第Ⅱ相試験(DA VINCI試験)、国内外で実施された第Ⅲ相試験[滲出型AMD患者を対象としたVIEW1試験およびVIEW2試験、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫を有する患者を対象としたCOPERNICUS試験およびGALILEO試験)]の結果等を参考に、アイリーアの用法及び用量を「2mgを4週ごとに硝子体内投与する」と設定し、アイリーアのレーザー治療に対する優越性を検証しました。
【実施地域】
米国、カナダ、日本の3ヵ国、62施設
試験概要
目的
網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)※に伴う黄斑浮腫を有する患者を対象に、アイリーアの有効性について黄斑レーザー光凝固術に対する優越性を検証するとともに、安全性および忍容性についても検討する
- ※
- BRVOは、網膜出血または網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion:RVO)を示唆するその他の検眼鏡的所見(毛細血管拡張性毛細血管床など)があり、閉塞静脈の灌流領域(眼底の1象限以下)に静脈の拡張がみられる(または以前から静脈の拡張が存在していた)ものと定義した。半側網膜静脈閉塞症(hemi-retinal vein occlusion:HRVO)は、上側もしくは下側の2象限に閉塞が及ぶRVOである。本試験では、HRVO患者にもBRVOと同じように投与および治療を行った。
試験対象
BRVOに伴う黄斑浮腫を有する患者:183例(うち日本人:21例)
[主な選択基準]
- スクリーニング前12ヵ月以内にBRVOに伴う中心窩を含む黄斑浮腫を有する18歳以上の男女
- スクリーニング時および初回投与日における試験眼のETDRS視力表による最高矯正視力文字数が73~24文字(スネレン視力で20/40~20/320) など
[主な除外基準]
- 試験眼に硝子体手術歴を有する
- 試験眼に副腎皮質ステロイドまたはVEGF阻害剤の眼内投与歴を有する
- 初回投与日前3ヵ月以内に、試験眼の眼周囲に副腎皮質ステロイドの治療歴を有する
- 僚眼に、初回投与日前3ヵ月以内に副腎皮質ステロイドまたはVEGF阻害剤の眼内投与歴を有する、またはこれらの眼周囲使用歴を有する
- 試験眼に周辺部散乱光凝固術または汎網膜光凝固術、局所光凝固術、または格子状網膜光凝固術の治療歴を有する
- いずれかの眼に虹彩新生血管、硝子体内出血、牽引性網膜剝離が認められる、またはいずれかの眼に黄斑に及ぶ網膜前線維症を認める
- 初回投与日前6ヵ月以内に、脳血管障害または心筋梗塞の既往を有する など
試験デザイン
無作為化二重遮蔽比較対照試験
投与方法
対象患者を、アイリーア投与群(アイリーア2mg投与)およびレーザー治療群の2群に無作為に割り付けた。アイリーア投与群ではアイリーア2mgを20週目まで4週ごとに、その後は24週目の投与以降、48週目まで8週ごとに投与した。また、レスキュー治療基準に従い、36週目にレーザー治療を行った。レーザー治療群では初回治療日に黄斑レーザー光凝固術による治療を実施した。また、レスキュー治療基準に従い、12、16、20週目のいずれかにレーザー治療を行い、24週目以降はレスキュー治療基準に該当した時点よりアイリーア投与を開始した。
- ※
- 硝子体内出血、乳頭新生血管または前眼部新生血管を併発した5乳頭径以上の網膜新生血管など臨床的に意味のある眼内新生血管が認められた場合は、すべての患者に対し、試験期間中のいずれの時点でも周辺部散乱光凝固術を行うことができることとした。なお、周辺部散乱光凝固術は、BRVOまたはHRVOが認められる象限に対してのみ行うこととした。
- 1)
- レーザー治療/偽照射間隔は少なくとも12週間あけること
- 2)
- 4週ごとに3回投与し、以降8週ごと投与
[レスキュー治療基準]:12週目以降
- OCTで中心網膜厚(CRT)が前回までの最低値よりも50µm超増加
- OCTにより検出される新規または遷延性の網膜内嚢胞様変化または網膜下液、もしくは中心サブフィールドにおける遷延性のびまん性浮腫
- BRVOが原因で、最高矯正視力文字数が前回までの最高値と比べて5文字以上低下し、かつOCTで中心網膜厚(CRT)が前回までの最低値よりも増加
主な有効性評価項目
主要評価項目:
- 24週目に最高矯正視力文字数でベースラインから15文字以上の視力改善がみられた患者の割合
二次評価項目:
- ①24週目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量
- ②24週目における中心網膜厚(CRT)のベースラインからの変化量
- ③24週目におけるNEI VFQ-25合計スコアのベースラインからの変化量
追加評価項目:
- 52週目にベースラインから15文字以上の視力改善がみられた患者の割合
- 52週目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量
- 52週目における中心網膜厚(CRT)のベースラインからの変化量
- 52週目におけるNEI VFQ-25合計スコアのベースラインからの変化量
- 24週目および52週目の中心窩における網膜内の液体成分の状態 など
主な安全性評価項目
有害事象、副作用、重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡、APTC定義による動脈血栓塞栓事象 など
解析計画
検証的な解析
主要評価項目(FAS):
アイリーア投与群のレーザー治療群に対する優越性の検証
二次評価項目(FAS):
同上。ただし、検定の多重性を考慮し、主要評価項目で優越性が検証された場合に限り、事前に定めた順序(①から昇順)に従い検定を行う。
探索的な解析
追加評価項目(FAS)
部分集団解析:
ベースラインの網膜灌流状態別の主要評価項目および二次評価項目の解析
日本人の部分集団解析 など
OCT(optical coherence tomography):光干渉断層計
FAS(full analysis set):最大の解析対象集団
NEI VFQ-25(National Eye Institute 25-item Visual Function Questionnaire):米国国立眼病研究所の25項目からなる視覚機能についてのアンケート
- 偽注射:硝子体内注射と同じ処置を行うが、注射の代わりに針のない注射シリンジを局所麻酔下で眼球に押し付ける方法
- レーザー偽照射:黄斑治療用のレンズを装着し、細隙灯顕微鏡のスイッチを入れ、レーザー治療群と同じ治療時間、レーザーのスイッチを切ったまま(PASCALレーザーの場合は出力を0)、レーザー照射と同じ音を出す方法
- 中心網膜厚(CRT:central retinal thickness):中心サブフィールド(中心窩から直径1mmの範囲)の網膜厚
網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の用法及び用量
アフリベルセプト(遺伝子組換え)として1回あたり2mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。
試験対象例数と各群の患者の内訳
- 1)
- 24週目以降レスキュー治療基準に従ってアイリーア2mg投与を開始
- 2)
- 20週目までは4週ごと投与、その後は24週目の投与以降8週ごと投与
患者背景および特性(FAS)
VIBRANT試験において、各群のベースライン時の人口統計学的特性は以下の通りでした。
VIBRANT試験
平均値±標準偏差(性別、人種、網膜灌流状態以外)
- 1)
- 10乳頭面積(Disc Area:DA)未満の毛細血管閉塞と定義。なお、虚血型は10DA以上の毛細血管閉塞と定義
レーザー治療/投与回数
アイリーア投与群におけるアイリーアの平均投与回数は24週目までが5.7回、52週目までは9.0回であり、24~52週目では3.6回でした。アイリーア投与群でレスキュー治療としてレーザー治療を受けた患者は9例で、レーザー治療回数はいずれも1回でした。レーザー治療群における52週目までの平均レーザー治療回数は1.7回でした。レーザー治療群では24週目を完了した83例のうち67例がレスキュー治療としてアイリーアの投与を受け、その平均投与回数は4.4回でした。
レーザー平均治療回数およびアイリーアの平均投与回数(FAS)
平均値±標準偏差(例数)
- 1)
- 24週目以降レスキュー治療基準に従ってアイリーア2mg投与を開始
- 2)
- レーザー治療を2回受けた患者は61例(67.8%)
- 3)
- 24~52週目にアイリーア投与を受けた患者(84例)の平均投与回数は3.6±0.8回
視力評価
(1)視力の改善
24週目にベースラインから15文字以上の視力改善がみられた患者の割合は、アイリーア投与群52.7%、レーザー治療群26.7%であり、アイリーア投与群のレーザー治療群に対する優越性が検証されました。24週目以降レーザー治療群ではレスキュー治療としてアイリーアの投与が開始されましたが、52週目におけるベースラインから15文字以上の視力改善がみられた患者の割合は、アイリーア投与群57.1%、レーザー治療群41.1%でした。
24および52週目に15文字以上の視力改善がみられた患者の割合(LOCF、FAS)
- 1)
- 24週目以降、レーザー治療群の67例がアイリーア2mg投与によるレスキュー治療を、アイリーア投与群の9例がレーザー治療によるレスキュー治療を受けた
- 2)
- 地域およびベースライン最高矯正視力で調整した両側CMH検定
- 3)
- レスキュー治療を受けた67例の24週から52週目までの平均投与回数
- 4)
- 24週目以降に投与を受けた84例の24週から52週目までの平均投与回数
- 5)
- 地域およびベースライン最高矯正視力を層としたCMH型の重みを用いて調整した
LOCF(last observation carried forward):最終評価スコア外挿法
(2)視力の変化
24週目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量は、アイリーア投与群+17.0文字、レーザー治療群+6.9文字であり、アイリーア投与群のレーザー治療群に対する優越性が検証されました。また、レーザー治療群では24週目以降レスキュー治療としてアイリーアの投与が開始されましたが、52週目においても最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量はアイリーア投与群+17.1文字、レーザー治療群+12.2文字でした。
最高矯正視力文字数の変化量の推移(LOCF、FAS)
- 1)
- 24週目以降、レーザー治療群の67例がアイリーア2mg投与によるレスキュー治療を、アイリーア投与群の9例がレーザー治療によるレスキュー治療を受けた
- 2)
- 治療群、地域およびベースライン最高矯正視力を固定効果、最高矯正視力文字数のベースライン値を共変量としたANCOVAモデル
- 3)
- アイリーア投与群-レーザー治療群
形態学的評価
中心網膜厚(CRT)の変化
24週目におけるCRTのベースラインからの変化量は、アイリーア投与群-280.5μm、レーザー治療群-128.0μmであり、アイリーア投与群のレーザー治療群に対する優越性が検証されました。また、レーザー治療群では24週目以降レスキュー治療としてアイリーアの投与が開始されましたが、52週目におけるCRTのベースラインからの変化量はアイリーア投与群-283.9μm、レーザー治療群-249.3μmでした。
CRTの変化量の推移(LOCF、FAS)
- 1)
- 24週目以降、レーザー治療群の67例がアイリーア2mg投与によるレスキュー治療を、アイリーア投与群の9例がレーザー治療によるレスキュー治療を受けた
- 2)
- 治療群、地域およびベースライン最高矯正視力を固定効果、CRTのベースライン値を共変量としたANCOVAモデル
- 3)
- アイリーア投与群-レーザー治療群
QOLに関する評価
【参考情報】NEI VFQ-25合計スコア
24週目におけるNEI VFQ-25合計スコアのベースラインからの変化量は、アイリーア投与群7.7ポイント、レーザー治療群6.3ポイントであり、アイリーア投与群のレーザー治療群に対する優越性は検証されませんでした。52週目におけるベースラインからの変化量はアイリーア投与群9.4ポイント、レーザー治療群8.3ポイントでした。
NEI VFQ-25合計スコアのベースラインからの変化量(LOCF、FAS)
- 1)
- 24週目以降、レーザー治療群の67例がアイリーア2mg投与によるレスキュー治療を、アイリーア投与群の9例がレーザー治療によるレスキュー治療を受けた
- 2)
- レスキュー治療を受けた67例の24週から52週目までの平均投与回数
- 3)
- 24週目以降に投与を受けた84例の24週から52週目までの平均投与回数
- 4)
- 治療群、地域およびベースライン最高矯正視力を固定効果、NEI VFQ-25合計スコアのベースライン値を共変量としたANCOVAモデル
- 5)
- アイリーア投与群-レーザー治療群
安全性(52週間の有害事象発現率)
VIBRANT試験の52週目において、すべての有害事象はアイリーア投与群で91例中76例(83.5%)、レーザー治療群で92例中75例(81.5%)に認められました。主な有害事象はアイリーア投与群で結膜出血22例(24.2%)、高血圧10例(11.0%)、レーザー治療群で結膜出血・高血圧が各15例(16.3%)などでした。副作用※1は、アイリーアを投与された158例※2中43例(27.2%)に認められました。主な副作用は、結膜出血26例(16.5%)などでした。試験薬に関連する投与中止に至った有害事象は、アイリーア投与群で眼圧上昇が1例に認められました。試験薬に関連する重篤な有害事象および試験薬に関連する死亡は認められませんでした。
- ※1
- 投与手技に起因する有害事象を含む
- ※2
- アイリーア投与群91例、レーザー治療群67例
VIBRANT試験
発現例数(発現率%)
- 1)
- 24週目以降、レーザー治療群の67例がアイリーア2mg投与によるレスキュー治療を、アイリーア投与群の9例がレーザー治療によるレスキュー治療を受けた
- 2)
- 20週目までは4週ごと投与、その後は24週目の投与以降8週ごと投与
- 3)
- すべての有害事象のうち、APTC(Antiplatelet Trialists’ Collaboration)定義により判定された動脈血栓塞栓事象