抗VEGF薬のエビデンスを活かしたDME治療戦略

鈴間潔先生 香川大学医学部眼科学講座教授

糖尿病黄斑浮腫(DME)治療においては従来レーザー治療が中心的役割を担っていたが、現在では抗VEGF薬治療を初期に選択する治療戦略が主流となっている。
今回は、香川大学医学部眼科学講座の鈴間潔先生をお招きし、現在のDME治療における抗VEGF薬の位置づけについて、アメリカNIHが後援する糖尿病網膜症臨床研究ネットワーク(DRCR.net)により実施された試験であるProtocol T試験のエビデンスに基づいて解説頂いた。
(取材:2020年7月)

*National Institutes of Health

注意:
糖尿病黄斑浮腫を対象とした本試験のラニビズマブ投与群の用量は試験実施国(米国)で承認された0.3mgですが、国内承認用量は0.5mgです。また、ベバシズマブは糖尿病黄斑浮腫に対して試験実施国および国内未承認のため、ベバシズマブ投与群の結果を削除しています。

DME治療戦略の変化

従来のレーザー治療を中心とするDME治療の選択1, 2)においては、浮腫の状態に基づき、①局所性浮腫(主に毛細血管瘤からの漏出)と②びまん性浮腫(血管全体や脈絡膜側からの漏出)に分類し、①に対しては浮腫に関連する毛細血管瘤に局所光凝固術を施行し、②に対してはすべての漏出部位を凝固するのが困難であることから、硝子体手術、格子状光凝固術、ステロイド(トリアムシノロンアセトニド)治療などを優先的に選択してきた。ただし、蛍光眼底造影所見で網膜の広範囲に多数の毛細血管瘤が認められる場合は、すべての毛細血管瘤に対してレーザー治療による光凝固を行うことは現実的ではないため、光干渉断層計(OCT)の黄斑マップ所見を組み合わせることで、浮腫に関連している毛細血管瘤を特定し重点的に治療を行ってきた3)

 

しかし近年、複数の臨床試験4, 5 )から抗VEGF薬療法の視力改善効果が示唆されたことにより、抗VEGF薬治療を第一選択とする考え方に移行してきている6 , 7)。すなわち、抗VEGF薬治療を先行し、それによって十分な浮腫および視力の改善が認められない場合に、病態に合わせてレーザー治療や硝子体手術が組み合わされる6, 7)

Protocol Tの試験成績に基づくDME治療戦略

DME患者を対象としてアイリーアを含む抗VEGF薬の効果を比較したDRCR.net Protocol T試験の結果、52週目における最高矯正視力文字数の変化量は、アイリーア群では+13.3文字であり、他の抗VEGF薬に比べて視力文字数が有意に改善した(p= 0.034、ANCOVAによりベースライン視力を調整しHochberg法により多重性を調整)(図1)8)。なお、視力変化文字数に対して、ベースライン視力と治療群との間に有意な交互作用が認められたため、ベースライン視力別の部分集団解析が行われ、ベースライン視力が20/50(0.4)以下の患者群において、アイリーア群は他の抗VEGF薬に比べて有意な改善を示した(p=0.003、ANCOVAによりベースライン視力を調整しHochberg法により多重性を調整)(図2)8)

大学病院に紹介される患者は、視力不良例、特に視力0.4以下の方が多く、実臨床においても視力不良例に対するアイリーアの効果を実感している。また、当試験における視力不良群(0.4以下)でのエビデンスと効果の実感に基づき、当院のDME治療では、アイリーアを有力な選択肢の1つとして考えている。また、2年目においては有意差は認められなかったものの(図2)8)、2年間を通して患者の治療効果およびQOLを考えるうえで、AUC(視力変化-治療期間の曲線下面積)の視点を取り入れることも大事である(図3)。患者の日々の生活を考えると、治療のモチベーションにも重要な1年目に効果が得られやすいことに加え、治療期間を通して良い状態でいられることを考慮することは意義があると考える。

図1:DRCR. net Protocol Tの2年成績(海外データ)

注)統計解析はベバシズマブ1.25mg投与群を踏まえた結果を示す
ANCOVAによりベースライン視力を調整し、Hochberg法により多重性を調整したp値および信頼区間
欠測値は多重代入法を用いて補完し、平均値から3SD以上の外れ値は除外

The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network: N Engl J Med. 2015; 372: 1193-1203
Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

図2:DRCR. net Protocol Tの2年成績(海外データ)

注)統計解析はベバシズマブ1.25mg投与群を踏まえた結果を示す
ANCOVAによりベースライン視力を調整し、Hochberg法により多重性を調整したp値および信頼区間
欠測値は多重代入法を用いて補完し、平均値から3SD以上の外れ値は除外

The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network: N Engl J Med. 2015; 372: 1193-1203
Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

図3:AUCの概念図

監修:香川大学医学部 眼科学講座 教授 鈴間 潔 先生

また、同試験における、抗VEGF薬治療期間のレスキュー治療としてレーザー光凝固術が施行された患者割合は、2 4 週~2 年の期間で他の抗VEGF薬に対して、アイリーア群は41%と有意に低かった(p= 0.04 、Fisher’s Exact Test)(表1)8)

また、アイリーアの全身に対する安全性についても、非致死性心筋梗塞や脳卒中、血管死などAnti-Platelet Trialists' Collaboration(APTC)の定義に基づく動脈血栓塞栓事象の発生率は、12例(5%)であった。心筋梗塞・脳卒中の既往歴の有無別の検討も行われ、既往歴のない患者群で10例(5%)、既往歴のある患者群では2例(10%)であった(表2)8)

Protocol T試験のこれらの結果を踏まえて、当院では、DMEに対する初期治療として少なくとも3回はアイリーアの毎月連続投与を行っている。アイリーア単独治療では浮腫が改善しない場合にレーザー治療を組み合わせており、残存する局所性浮腫例に対しては前述の通りに局所光凝固術を施行し、びまん性浮腫例に対しては閾値下凝固術6 )が望ましいと考えている。ただし、新生血管膜や黄斑上膜が視力に影響している場合には硝子体手術6, 7 )を選択している。

表1:DRCR.net Protocol Tの2年成績(海外データ)

全体比較( Fisher’s Exact Test )においてp<0.05の場合に、多重性を調整した(全体比較と対比較のうちp値が大きい方を採用)対比較( Fisher’s Exact Test )を行った。

*全体比較:p<0.001、対比較:アフリベルセプト vs. ラニビズマブ:p=0.058
**全体比較:p=0.046、対比較:アフリベルセプト vs. ラニビズマブ:p=0.12
***全体比較:p<0.001、対比較:アフリベルセプト vs. ラニビズマブ:p=0.04
※全体比較のp値はベバシズマブ1.25mg投与群を含めて解析した結果を示す。

The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network: N Engl J Med. 2015; 372: 1193 -1203
Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-135 9より作表
※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

抗VEGF薬を積極的に選択・継続すべきDMEの患者像

最後に、私見ではあるが、現在私自身がDME治療において積極的に抗VEGF薬を選択および継続すべきと考える患者像について述べる。まず、血糖コントロール不良な患者については、ベースラインの血糖コントロールの影響を受け難いと報告されている抗VEGF薬治療9 )を優先して施行している。

 

また、中心窩に近い部位に硬性白斑があり治療抵抗性が予測される場合10)には、1ヵ月ごとなどの固定投与を継続することで視力改善を得るよう努めている。片眼の視力・視野が著しく障害されている患者など、残された眼(ラストアイ)の視力維持が特に重要と考えられる患者にも継続的に投与を行っている。最近では、OCT画像において視細胞(ellipsoid zone)が形態的に悪化していないのにもかかわらず視力が不良な症例などで、抗VEGF薬治療が機能的改善をもたらす可能性が指摘されており11)、このような症例にも積極的に治療を実施している。

 

患者への説明としては、抗VEGF薬治療が現在主流となっている治療法であること、浮腫が改善しない場合にレーザー治療などの他の治療を組み合わせることがあることを伝え、日常生活の中で視力の改善を実感、経験してもらうため、最初の1年間は特に積極的な治療継続を推奨している。

表2:DRCR.net Protocol Tにおける安全性(海外データ)

* Anti-Platelet Trialists’ Collaboration

Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

■リファレンス:
1) ETDRS Research Group. Arch Ophthalmol. 1985; 103(12): 1796-1806
2) DRCR. net. Arch Ophthalmol. 2007; 125(4): 469-480
3)Takamura Y, et al.: Int J Endocrinol. 2018; 2401094. doi: 10. 1155
4)Brown DM, et al.: Ophthalmology. 2013; 120(10): 2013-2022
5)Heier JS, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(11): 2376-2385
6)Schmidt-Erfurth U, et al.: Ophthalmologica. 2017; 237(4): 185-222
7) Kodjikian L, et al.: Eur J Ophthalmol. 2019; 29(6): 573-584
8) Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(6): 1351-1359
9) Singh RP, et al.: Ophthalmol Retina. 2017; 1(5): 382-388
10) Domalpally A, et al.: Ophthalmology. 2015; 122(4): 779-786
11) Yoshitake T, et al.: Invest Ophthalmol Vis Sci. 2019; 60(2): 787-794

DRCR.net Protocol Tの試験概要(海外データ)

目的

中心窩に及ぶ糖尿病黄斑浮腫(DME)を有する患者を対象に、(1)アイリーア硝子体内投与、(2)ベバシズマブ硝子体内投与、(3)ラニビズマブ硝子体内投与の有効性および安全性を比較検討すること

試験対象

中心窩に及ぶDMEを有する患者660例660眼

投与方法

対象患者を、アイリーア2.0mg投与群、ベバシズマブ1.25mg投与群、ラニビズマブ0.3mg投与群の3群に無作為に割り付けた。いずれの治療群においても、初回投与後は再治療プロトコルに従って再投与が行われ、さらに、24週目以降はレーザー実施基準に従ってレーザー治療も実施された。52週目までは4週ごと来院とし、52週目以降は4週ごと来院を基本とし、疾患状態および治療内容に従って8週ごと、16週ごとの来院に延長可能とされていたが、52週目と104週目は全患者の来院が規定されていた。

主要評価項目

1年目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量(ベースラインの最高矯正視力で調整)

副次評価項目

1年目における試験実施計画書に従った硝子体内投与回数、局所/格子状レーザー光凝固による治療を受けた患者の割合 など

主な安全性評価項目

投与手技に関連する※1、薬剤に関連する(眼※2、全身性※3)有害事象 など

※1 眼内炎、牽引性網膜剥離、裂孔原性網膜剥離、網膜裂孔、白内障、眼内出血、眼圧上昇
※2 炎症、牽引性網膜剥離、牽引性網膜剥離の悪化・黄斑部への進行
※3 高血圧、腎事象、胃・消化管事象、APTC定義に基づく心血管事象

解析計画

●主要評価項目については、ベースライン視力を調整した共分散分析(ANCOVA)により群間比較を行う。その際、Hochberg法により多重性の調整を行う。欠測値については多重代入法を用いて補完する。平均値から3SD以上の外れ値は除外する。
●副次評価項目については、評価項目に応じ、ベースライン因子を調整したANCOVAなど適切な手法を用いて検討する。
●安全性評価項目については、片眼のみ、あるいは両眼とも投与を受けた患者群ごとの全身性有害事象の発現状況についても検討する。
なお、有効性の主要な評価項目については、主なベースライン特性による層別解析を行うとともに交互作用についても検討する。2年目については1年目の統計解析手法を踏襲する。

利益相反

本試験で用いられた薬剤(アフリベルセプト)はRegeneron Pharmaceuticals社より提供された。著者にRegeneron Pharmaceuticals社、Bayer HealthCare Pharmaceuticals社から経済的支援、謝礼を受領している者(#1、2)、Regeneron Pharmaceuticals社の株式所有者(#2)が含まれる。
なお、本試験の資金提供組織はNational Institutes of Health(NIH)であり、プロトコルの作成、実施、データの管理についてはDRCR.netが主体である。
The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network: N Engl J Med. 2015; 372: 1193-120 3 #1
Wells JA , et al .: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 #2

【本邦におけるラニビズマブの用法及び用量(糖尿病黄斑浮腫)】

ラニビズマブ(遺伝子組換え)として1回あたり0.5mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。

DRCR.net Protocol Tにおける有害事象(2年間)(海外データ)

試験眼に発現した眼の主な有害事象

  • アフリベルセプト投与群224例中、霧視54例(24.1%)、硝子体浮遊物41例(18.3%)、結膜出血34例(15.2%)、白内障28例(12.5%)、眼痛25例(11.2%)、視力低下22例(9.8%)、眼乾燥20例(8.9%)、嚢下白内障17例(7.6%)、眼刺激16例(7.1%)、流涙増加および硝子体出血各15例(6.7%)、視力障害12例(5.4%)であった。
  • ラニビズマブ投与群218例中、霧視50例(22.9%)、硝子体浮遊物49例(22.5%)、結膜出血26例(11.9%)、眼痛23例(10.6%)、視力低下22例(10.1%)、眼乾燥20例(9.2%)、眼そう痒症16例(7.3%)、眼刺激15例(6.9%)、白内障13例(6.0%)、流涙増加および眼充血各11例(5.0%)であった。

全身性の主な有害事象

  • アフリベルセプト投与群224例中、高血圧39例(17.4%)、鼻咽頭炎39例(17.4%)、咳嗽22例(9.8%)、貧血、頭痛および副鼻腔炎各20例(8.9%)、嘔吐および尿路感染各17例(7.6%)、インフルエンザ16例(7.1%)、コントロール不良の糖尿病、高コレステロール血症、上気道感染各15例(6.7%)、胃食道逆流性疾患、季節性アレルギーおよび慢性腎不全各14例(6.3%)、低血糖、背部痛および浮動性めまい各13例(5.8%)、悪心、転倒、腎不全、気管支炎および蜂巣炎各12例(5.4%)であった。
  • ラニビズマブ投与群218例中、高血圧44例(20.2%)、鼻咽頭炎29例(13.3%)、インフルエンザおよび頭痛各20例(9.2%)、上気道感染19例(8.7%)、肺炎および副鼻腔炎各18例(8.3%)、背部痛17例(7.8%)、貧血15例(6.9%)、コントロール不良の糖尿病、浮動性めまいおよび咳嗽各14例(6.4%)、下痢、ウイルス性胃腸炎、悪心各13例(6.0%)、うっ血性心不全、ビタミンD欠乏、腎不全、尿路感染および蜂巣炎各12例(5.5%)、低血糖、末梢性浮腫、季節性アレルギー、転倒、脱水、関節痛および気管支炎11例(5.0%)であった。

全身性の重篤な有害事象および死亡例

  • 全身性の重篤な有害事象はアフリベルセプト投与群224例中88例(39%)、ラニビズマブ投与群218例中82例(38%)、死亡(全死因)例はアフリベルセプト投与群224例中5例(2%)、ラニビズマブ投与群218例中11例(5%)に認められた。

 

(ICH国際医薬用語集[MedDRA]のコード化を用いたメディカルモニターに基づく事象)
†:発現率5.0%以上とする

Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123: 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変