エビデンスから見る抗VEGF薬の安全性

取材:2021年4月

柴 友明 先生

柴 友明 先生

国際医療福祉大学医学部
眼科 教授

抗VEGF薬硝子体内投与の全身への影響

抗VEGF薬の登場によって、滲出性加齢黄斑変性(nAMD)やDMEなどの眼底疾患に対する治療は大きな変遷を遂げ、良好な治療効果が得られるようになった。視力維持・改善という抗VEGF薬の恩恵がもたらされた一方で、全身性の血管イベントにも留意する必要がある。実際に、nAMDまたはDMEに関するメタ解析の結果から、抗VEGF薬硝子体内投与による全身性の血管イベント発現率の上昇11)や全死亡リスクの上昇12)が報告されている。

また、抗VEGF薬硝子体内投与後の血漿中VEGF濃度に関する研究結果13)から、血漿中VEGF濃度の低下がみられており、薬剤の全身移行が示唆されている。以前から、抗VEGF薬の全身投与における血圧上昇や心血管イベントの発現が報告されており14、15)、全身VEGF濃度低下との関係性が示唆されていることから、抗VEGF薬硝子体内投与後の全身への影響についても留意する必要があると考えている。

全身性の血管イベント発生の機序に関する考察

抗VEGF薬静脈内投与による全身のVEGF阻害は、血管拡張作用を有する一酸化窒素(NO)の産生低下16)、血管内皮における血管抵抗性増加への関与17)などにより、血圧上昇や全身性血管イベント発症につながる可能性があると考えられている。抗VEGF薬硝子体内投与におけるイベント発症との関連性は明らかではないが、前述の通り、血漿中VEGF濃度低下が報告されているため、同様の懸念は否定できない。

DME患者を対象としたProtocol T試験では抗VEGF薬硝子体内投与後の血漿中VEGF濃度と平均血圧および血圧変化に関連性は認められなかった(図418)。また、NO産生低下は動脈硬化の発症および進展において重要な役割を担っているため、我々はnAMD患者を対象として抗VEGF薬硝子体内投与後の動脈硬化への影響を検討したが、抗VEGF薬の反復硝子体内投与による動脈硬化の進展は認められなかった19)。一方、動脈血栓塞栓症の既往歴は抗VEGF薬全身投与後の再発リスクとされ20)、全身VEGF阻害が血管再構築において重要となる側副血行路の阻害と関連している可能性が示唆されたことから21)、既往歴を有する症例に対しては抗VEGF薬硝子体内投与においても、特にリスクが高い可能性があることに留意する必要がある。

図4:Protocol T試験:補足研究における血漿中log(VEGF)濃度と平均血圧および変化量の分布

図4:Protocol T試験:補足研究における血漿中log(VEGF)濃度と平均血圧および変化量の分布

Protocol T試験・補足研究<事前に規定した副次解析>(海外データ)

目的:
抗VEGF薬硝子体内投与後の血漿中VEGF濃度の評価

対象:
Protocol T試験に参加した、アイリーア2.0mg、ベバシズマブ1.25mg、ラニビズマブ0.3mg群のいずれかに無作為に割り付けられた中心窩に及ぶDMEを有する患者660例のうち、本補足研究への参加に合意が得られ、血漿サンプルが収集された436例

方法:
ベースライン時、4週目、52週目、および104週目の来院時に、各抗VEGF薬の投与前に血漿サンプルを採取し、副次解析として血漿中の遊離型VEGF濃度をELISA法にて測定し、全身性の副作用(有害事象 など)との関連性について検討した。
ベースライン時、4週目、52週目、および104週目の来院時、10分間の座位後に収縮期血圧と拡張期血圧を測定した。
有害事象の発現は追跡期間を通して前向きに記録された。

評価項目:
平均血圧およびベースラインからの変化量、血漿中VEGF濃度およびその変化量、評価項目間の関連性 など

解析計画:
分散の安定化およびデータの正規化を図り回帰分析を行うために、血漿中の遊離型VEGF濃度を自然対数に変換する。
血漿中log(VEGF)濃度の平均変化量は、ベースライン時の血漿中log(VEGF)濃度で調整し、共分散分析(ANCOVA)を使用してPairwise法で群間比較を行い、Hochberg法により多重性の調整を行う。なお、外れ値による影響を最小限に抑えるため、平均値から3SD以上の数値は切り捨てる。

Jampol LM, et al.: Ophthalmology. 2018; 125(7): 1054-1063(Suppl.)
利益相反:本試験で用いられた薬剤(アフリベルセプト)はRegeneronより提供された。著者にRegeneron、Bayerから経済的支援、謝礼を受領している者、投資、コンサルタントをしている者が含まれる。
なお、本試験の資金提供組織はNational Institutes of Health(NIH)であり、プロトコルの作成、実施、データの管理についてはDRCR.netが主体である。

抗VEGF薬硝子体内投与におけるリスクマネジメント

抗VEGF薬治療に際しては、動脈血栓塞栓症の発現リスクの有無を把握するため、問診などにより患者背景を十分に確認する必要がある。そもそも動脈血栓塞栓症は再発率の高い疾患であり、久山町研究では脳卒中の累積再発率は10年間でおよそ50~75%と報告されていることからも22)、既往歴の有無を確認することは特に重要であると考えている。Protocol T試験におけるアイリーア投与群の2年間のAPTC定義に基づく動脈血栓塞栓事象の発現率は12例(5%)であったが(表1)、心筋梗塞・脳卒中の既往歴の有無別の検討が行われた結果、既往歴のない患者群では10例(5%)、既往歴のある患者群では2例(10%)であったと報告されている(事後部分集団解析)23)。DMEなど、抗VEGF薬硝子体内投与の治療対象となる患者には動脈血栓塞栓症の発症リスク因子を有する方が多いため、全身背景の確認のもと、内科医との連携の拡充を検討するなど、安全性を十分考慮して治療を行うことが重要である。

また、治療導入に際しては、有効性と安全性のバランスを評価したうえで薬剤選択を行い、患者に対する十分な説明のもとで治療を開始することが望ましいと考えられる。

表1:Protocol T試験:事前に規定した注目すべき全身性の有害事象(2年間)

表1:Protocol T試験:事前に規定した注目すべき全身性の有害事象(2年間)

*:Anti-Platelet Trialists’ Collaboration
¶:ICH 国際医薬用語集(MedDRA)の器官別大分類の胃腸障害の事象を含む。
#:MedDRAの器官別大分類の内因性腎障害を示す腎および尿路障害事象のサブセットに加えて、他の器官別大分類の血中クレアチニン上昇もしくは異常または腎移植を含む。

Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(6): 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変


11) Schmid MK, et al.: Br J Ophthalmol. 2015; 99(2): 141-146
12) Avery RL, et al.: JAMA Ophthalmol. 2016; 134(1): 21-29
13) Yoshida I, et al.: Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2014; 252(9): 1483-1489
14) Ranpura V, et al.: Am J Hypertens. 2010; 23(5): 460-468
15) Ranpura V, et al.: Acta Oncologica. 2010; 49(3): 287-297
16) Hood JD, et al.: Am J Physiol. 1998; 274(3): H1054-H1058
17) Izzedine H, et al.: Ann Oncol. 2009; 20(5): 807-815
18) Jampol LM, et al.: Ophthalmology. 2018; 125(7): 1054-1063
19) Shiba T, et al.: Ophthalmologica. 2016; 235(4): 225-232
20) Scappaticci FA, et al.: J Natl Cancer Inst. 2007; 99(16): 1232-1239
21) Pereg D, et al.: Eur Heart J. 2008; 29(19): 2325-2326
22) Hata J, et al.: J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2005; 76(3): 368-372
23) Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(6): 1351-1359

Protocol T試験の試験概要(海外データ)

注意:
Protocol T試験のラニビズマブの用量は0.3mgですが、日本でのラニビズマブの糖尿病黄斑浮腫への適応は0.5mgです。
ベバシズマブは糖尿病黄斑浮腫に対して試験実施国(米国)および日本で未承認であるため、ベバシズマブ群の結果を削除しています。

試験概要

目的

中心窩に及ぶ糖尿病黄斑浮腫(DME)を有する患者を対象に、(1)アイリーア硝子体内投与、(2)ベバシズマブ硝子体内投与、(3)ラニビズマブ硝子体内投与の有効性および安全性を比較検討すること

試験対象

中心窩に及ぶDMEを有する患者660例660眼※1

試験デザイン

多施設共同無作為化比較試験

投与方法

対象患者を、アイリーア2.0mg投与群、ベバシズマブ1.25mg投与群、ラニビズマブ0.3mg投与群の3群に無作為に割り付けた。いずれの治療群においても、初回投与後は再治療プロトコルに従って再治療が行われ、24週目以降はレーザー実施基準に従ってレーザー治療が実施された。52週目までは4週ごと来院とし、52週目以降は4週ごと来院を基本とし、疾患状態および治療内容に従って8週ごと、16週ごとの来院に延長可能とされていたが、52週目と104週目は全患者の来院が規定されていた。

評価項目

主要評価項目:1年目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量(ベースラインの最高矯正視力で調整)
副次評価項目:1年目における試験実施計画書に従った硝子体内投与回数 など
その他の評価項目:2年目における最高矯正視力文字数のベースラインからの変化量(ベースラインの最高矯正視力で調整) など
安全性の主な評価項目:投与手技に関連する※2、薬剤に関連する(眼※3、全身性※4)有害事象、硝子体内投与後1ヵ月目および1年目の血漿中VEGF濃度およびその変化量 など

解析計画
  • 主要評価項目については、ベースライン視力を調整した共分散分析(ANCOVA)により群間比較を行う。その際、Hochberg法により多重性の調整を行う。欠測値については多重代入法を用いて補完する。平均値から3SD以上の外れ値は除外する。
  • 副次評価項目については、評価項目に応じ、ベースライン因子を調整したANCOVAなど適切な手法を用いて検討する。
  • 安全性評価項目については、片眼のみ、あるいは両眼とも投与を受けた患者群ごとの全身性有害事象の発現状況についても検討する。
  • 事前に規定した解析として、主要評価項目および副次評価項目(1年目におけるCSTのベースラインからの変化量)について、ベースライン視力(<20/40 vs. ≧20/40)による層別解析を行うとともに、交互作用についても検討する。
  • 2年目については1年目の統計解析手法を踏襲する。
  • 事前に規定した副次解析については、ベースライン時の血漿中log(VEGF)濃度を調整しANCOVAを使用してPairwise法で群間比較を行い、Hochberg法により多重性の調整を行う。平均値から3SD以上の数値は除外する。
事後部分集団解析

心筋梗塞・脳卒中の既往歴の有無別のAPTC定義に基づく動脈血栓塞栓事象の解析† など

†本事後部分集団解析は、アイリーアの添付文書で規定する「9.特定の背景を有する患者に関する注意」のうち、「9.1.2脳卒中又は一過性脳虚血発作の既往歴等の脳卒中の危険因子のある患者」に関連する解析結果のため掲載しています。

※1:試験対象眼は各患者片眼のみとする
※2:眼内炎、牽引性網膜剥離、裂孔原性網膜剥離、網膜裂孔、白内障、眼内出血、眼圧上昇
※3:炎症、牽引性網膜剥離、牽引性網膜剥離の悪化・黄斑部への進行
※4:高血圧、腎事象、胃・消化管事象、APTC定義に基づく動脈血栓塞栓事象
APTC:Anti-Platelet Trialists’ Collaboration

1)The Diabetic Retinopathy Clinical Research Network: N Engl J Med. 2015; 372(13): 1193-1203
2)Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016: 123(6): 1351-1359
利益相反:本試験で用いられた薬剤(アフリベルセプト)はRegeneronより提供された。著者にRegeneron、Bayerから経済的支援、謝礼を受領している者1、2)、Regeneronの株式所有者2)が含まれる。
なお、本試験の資金提供組織はNational Institutes of Health(NIH)であり、プロトコルの作成、実施、データの管理についてはDRCR.netが主体である

●本邦におけるラニビズマブの糖尿病黄斑浮腫に対する用法及び用量
ラニビズマブ(遺伝子組換え)として1回あたり0.5mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。

安全性

試験眼に発現した眼の主な有害事象†(2年間)

  • アフリベルセプト投与群224例中、霧視54例(24.1%)、硝子体浮遊物41例(18.3%)、結膜出血34例(15.2%)、白内障28例(12.5%)、眼痛25例(11.2%)、視力低下22例(9.8%)、眼乾燥20例(8.9%)、嚢下白内障17例(7.6%)、眼刺激16例(7.1%)、流涙増加および硝子体出血各15例(6.7%)、視力障害12例(5.4%)であった。
  • ラニビズマブ投与群218例中、霧視50例(22.9%)、硝子体浮遊物49例(22.5%)、結膜出血26例(11.9%)、眼痛23例(10.6%)、視力低下22例(10.1%)、眼乾燥20例(9.2%)、眼そう痒症16例(7.3%)、眼刺激15例(6.9%)、白内障13例(6.0%)、流涙増加および眼充血各11例(5.0%)であった。

全身性の主な有害事象†(2年間)

  • アフリベルセプト投与群224例中、高血圧39例(17.4%)、鼻咽頭炎39例(17.4%)、咳嗽22例(9.8%)、貧血、頭痛および副鼻腔炎各20例(8.9%)、嘔吐および尿路感染各17例(7.6%)、インフルエンザ16例(7.1%)、コントロール不良の糖尿病、高コレステロール血症、上気道感染各15例(6.7%)、胃食道逆流性疾患、季節性アレルギーおよび慢性腎不全各14例(6.3%)、低血糖、背部痛および浮動性めまい各13例(5.8%)、悪心、転倒、腎不全、気管支炎および蜂巣炎各12例(5.4%)であった。
  • ラニビズマブ投与群218例中、高血圧44例(20.2%)、鼻咽頭炎29例(13.3%)、インフルエンザおよび頭痛各20例(9.2%)、上気道感染19例(8.7%)、肺炎および副鼻腔炎各18例(8.3%)、背部痛17例(7.8%)、貧血15例(6.9%)、コントロール不良の糖尿病、浮動性めまいおよび咳嗽各14例(6.4%)、下痢、ウイルス性胃腸炎、悪心各13例(6.0%)、うっ血性心不全、ビタミンD欠乏、腎不全、尿路感染および蜂巣炎各12例(5.5%)、低血糖、末梢性浮腫、季節性アレルギー、転倒、脱水、関節痛および気管支炎11例(5.0%)であった。

Wells JA, et al.: Ophthalmology. 2016; 123(6): 1351-1359 ※承認の範囲内の症例群のみに限定し、一部改変

(ICH国際医療用語集(MedDRA)のコード化を用いたメディカルモニターに基づく事象)
†:発現率5.0%以上とする