アフリベルセプトが阻害する病態分子
VEGFファミリーとガレクチン-1

Ophthalmology Web Conference

開催日:2021年3月22日

血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬アフリベルセプトは、炎症および血管新生といった病態に関与するさまざまな分子の阻害作用を有している事が知られている。

本講演では、アフリベルセプトが阻害するVEGFファミリーと糖鎖結合タンパク質ガレクチン-1の病態への関与について解説する。

石田 晋 先生

石田 晋 先生

北海道大学大学院医学研究院
眼科学教室 教授

VEGFファミリーの役割とアフリベルセプト

VEGFファミリーには、VEGF-A~Dと胎盤成長因子(PlGF)があり、3種のチロシンキナーゼ受容体(VEGFR-1~3)のいずれかまたは複数に結合する。血管新生因子であるVEGF-Aは白血球を誘導する白血球走化因子でもあり、VEGF受容体(VEGFR)-1を発現しているマクロファージ系炎症細胞を引き寄せる。

VEGFR-1にリガンドが結合すると、炎症性サイトカインのIL-6が発現誘導され、この産生されたIL-6が産生細胞自身に作用(オートクライン)し、さらにVEGF-Aの発現を誘導する。一方、血管内皮細胞に発現するVEGFR-2にリガンドが結合すると、細胞分裂および増殖により血管新生が促進される。また、転写因子NF-κBを活性化し、単球走化因子MCP-1を誘導するとともに細胞間接着分子ICAM-1の発現を促進する。

つまりV EGFR-1に結合するリガンドは、炎症細胞でVEGF-Aを増幅させることで間接的に血管新生を促進するのに対し、VEGFR-2に結合するリガンドは、直接的に血管新生を促進し、同時にICAM-1やMCP-1により炎症を惹起することで、相互に作用を増幅させていると考えられる(図1)。

図1 VEGF-Aによる炎症と血管新生

図1 VEGF-Aによる炎症と血管新生

提供 北海道大学大学院医学研究院 眼科学教室 石田 晋 先生

糖尿病網膜症(DR)において、炎症は糖尿病黄斑浮腫(DME)、血管新生は増殖糖尿病網膜症(PDR)の病態にそれぞれ関与している。我々の検討1)では、非糖尿病の対照群(網膜上膜(ERM)や黄斑円孔)と比べて、PDRでは硝子体液中のVEGF-Aが有意に上昇することが示された(p<0.01、two tailed unpaired Student's t-test)。それに対してVEGF-Bは、PDR群と対照群で有意な差はみられず、PDRの病態には関与していないと考えられた。

一方で、Pl GFに関する検討2)において、非糖尿病の対照群(ERMや加齢白内障)では房水内のPlGF発現は認めなかったが、DME群およびPDR群では、対照群に比べて有意な発現上昇が認められた(それぞれp<0.001、p<0.01、Mann–Whitney U-test)。さらに血管新生緑内障(NVG)では、PDRと比べても有意な上昇となった(p<0.05、同)。血管新生とPlGFの関連を検討した海外の報告3)によると、PlGFノックアウトマウスは野生型マウスに比べて網膜血管新生が抑制されており、炎症に関与しているVEGFR-1のリガンドであるPlGFが、実際に血管新生を促進することが示された。

VEGF阻害薬であるアフリベルセプトは、ヒト免疫グロブリン(Ig)G1のFcドメインにVEGFR-1の第2ドメインおよびVEGFR-2の第3ドメインを結合した、遺伝子組換え融合糖タンパク質である(図24)。前述のようにVEGFR-1はマクロファージ系炎症細胞、VEGFR-2は血管内皮細胞にそれぞれ発現しており、アフリベルセプトはこれらのリガンドであるVEGF-A、VEGF-B、PlGFと結合する事で、VEGFR-1およびVEGFR-2を介したシグナルを抑制すると考えられている。また、アフリベルセプトとVEGF-Aの解離定数(KD)は、VEGFRとVEGF-AのKDよりも小さいという特徴をもっており、アフリベルセプトはVEGFRよりも高い親和性をもってVEGF-Aに結合する4)

図2 アフリベルセプトの構造

図2 アフリベルセプトの構造

Dixon JA, et al. Expert Opin Investig Drugs. 2009; 18: 1573-2580.
利益相反:本論文の著者にRegeneronの治験担当医師が含まれる。

新たなVEGFR-2リガンドとしてのガレクチン-1の特徴とアフリベルセプト

我々は、網膜色素上皮(RPE)細胞において発現するガレクチン-1がVEGFR-2のリガンドであること、そしてアフリベルセプトはVEGFファミリー以外にガレクチン-1も阻害することを報告している5)

糖鎖に結合するタンパク質の総称をレクチンといい、ガレクチンは、糖鎖を構成する糖の一種であるガラクトースに結合するタンパク質である(図3)。糖鎖は核酸(DNAやRNA)、タンパク質に続く「第3の生命鎖」として近年注目されており、核酸は4種類の塩基、タンパク質は20種類のアミノ酸からなる配列であるのに対し、糖鎖はガラクトースなど8種類の糖の配列で構成される。細胞膜表面に発現する受容体を木の幹だとすると、糖鎖は木の幹である受容体から枝葉のように出ているため、ガレクチン-1が糖鎖に結合することで受容体のシグナル伝達に影響を与える可能性がある。

図3 糖鎖のガラクトース部分に結合するガレクチン

図3 糖鎖のガラクトース部分に結合するガレクチン

提供 北海道大学大学院医学研究院 眼科学教室 石田 晋 先生

ガレクチン-1がアフリベルセプトのどの部分に結合しているのかを調べたところ5)、VEGFR-1由来の第2ドメイン部分には結合せず、VEGFR-2由来の第3ドメイン部分と濃度依存性に結合することが明らかとなった。また、アフリベルセプトは他のVEGF阻害薬と異なり糖鎖を持つタンパク質であるため、この糖鎖にガレクチン-1が結合すると考えられるが、酵素処理してアフリベルセプトの糖鎖を取り除くと、ガレクチン-1結合能は消失した。したがって、ガレクチン-1はアフリベルセプトのVEGFR-2(第3ドメイン)の糖鎖部分に、濃度依存性に結合すると考えられた。

血管内皮細胞のVEGFR-2の糖鎖にガレクチン-1が結合することから、ガレクチン-1はVEGFR-2のシグナル伝達に影響を与えている可能性がある。実際に我々の検討では5)、ガレクチン-1がVEGFR-2を活性化することが確認された。つまり、ガレクチン-1がVEGFR-2の糖鎖部分に結合することによってVEGFR-2が活性化され、細胞内シグナル伝達を介して血管内皮細胞の増殖を誘導し血管新生を促進させる可能性が示唆された。

VEGF-AはVEGFR-2に結合し、ガレクチン-1はVEGFR-2の糖鎖部分に結合するが、いずれの結合によってもVEGFR-2が活性化され、血管内皮細胞の増殖すなわち血管新生が促進される。アフリベルセプトはVEGF-Aと結合し、さらに糖鎖部分がガレクチン-1と結合することで、VEGF-Aやガレクチン-1によるVEGFR-2活性化を抑制し、血管新生を抑制すると考えられる(図45)。また、前述のようにVEGF-AとPlGF阻害によりVEGFR-1活性化を介した炎症の増幅も抑制すると考えられる(図5)。以上のことから、ガレクチン-1およびPlGFの機能阻害は、アフリベルセプトの付加特性であると考えられる。

図4 アフリベルセプトによるガレクチン-1阻害と血管新生抑制作用

図4 アフリベルセプトによるガレクチン-1阻害と血管新生抑制作用

提供 北海道大学大学院医学研究院 眼科学教室 石田 晋 先生

図5 アフリベルセプトによるVEGFRリガンドの阻害

図5 アフリベルセプトによるVEGFRリガンドの阻害

提供 北海道大学大学院医学研究院 眼科学教室 石田 晋 先生

DME、PDRにおけるガレクチン-1の働き

さらに我々は、続報として終末糖化産物(AGE)による炎症シグナルがガレクチン-1を発現誘導していることも報告している6)。VEGFが関与する網脈絡膜疾患の中で、網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)や網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫ではガレクチン-1の上昇を認めない一方で、DME、PDR、NVGでは上昇することが示された(図6)。

AGEは糖尿病患者の眼内で蓄積されるものであるが、本検討では長期の高血糖によるAGEの蓄積に伴い、DR選択的なガレクチン-1の発現上昇が認められた。さらに、ガレクチン-1はミュラー細胞で産生されることも示された。このことから、糖尿病患者ではAGEによってミュラー細胞でガレクチン-1の発現が誘導され、ガレクチン-1が血管内皮細胞のVEGFR-2に結合することで血管新生(PDR)や炎症(DME)を惹起し、VEGFとは独立した制御機構でDR病態に関与していると考えられた。実際、PDR患者から摘出した線維血管増殖組織において、ガレクチン-1がミュラー細胞に局在することも確認された5)

図6 網膜疾患における房水中のガレクチン-1濃度

図6 網膜疾患における房水中のガレクチン-1濃度

Kanda A, et al. Sci Rep. 2017; 7: 16168.
利益相反:本研究はBayerの支援により行われた。

滲出型加齢黄斑変性(nAMD)におけるガレクチン-1の働き

nAMDでは、脈絡膜新生血管(CNV)の線維化が重要な病態として知られているが、ガレクチン-1は、nAMDにおいても血管新生および線維化に影響を及ぼし、その病態に関与していると考えられる。

レーザー誘導CNVモデルマウスを用いた我々の検討7)では、RPEにおけるガレクチン-1の発現が対照群(無処置の正常マウス)に比べて有意に上昇した(p<0.05、Student'st-test)。また、ガレクチン-1ノックアウトマウスではCNVの分子病態の中心となる単球走化因子MCP-1および細胞間接着分子ICAM-1の遺伝子発現が低下し、CNVの縮小が認められ、VEGFR-2下流の細胞内シグナル伝達キナーゼERKの活性化も抑制された。このことから、CNVモデルマウスにおいて、ガレクチン-1はVEGFR-2を介した炎症および血管新生を促進することが示唆された。

CNVの線維化には、上皮-間葉転換(EMT)という現象が関わっている。網膜下にはもともと線維芽細胞は存在しないが、RPE細胞がEMTにより線維芽細胞に変化することで、網膜下の線維化が起こると考えられ、その分子メカニズムには形質転換増殖因子(TGF)-βや細胞内シグナル分子SMAD、そして転写因子Snailが関与している8)

これらの分子メカニズムについてガレクチン-1ノックアウトマウスのレーザー誘導CNVを用いて評価したところ7)、1型コラーゲンやフィブロネクチンといった細胞外基質が正常マウスのレーザー誘導CNVに比べて減少しており、線維化が抑制された。さらに、このマウスCNVではTGF-βや線維化マーカーα-SMA、SMAD2の活性化およびSnailの発現抑制も認められ、ガレクチン-1が線維化を促進している可能性が示唆された。

nAMD患者の摘出CNV組織を用いた検討7)では、DRと同様に、ガレクチン-1は血管内皮細胞でVEGFR-2と共局在し、さらにRPE細胞で活性化したSMAD2とも共局在していることが示された。このことから、ガレクチン-1はRPE細胞においてSMAD2にも結合して細胞内シグナル伝達を増強していると考えられる。

以上より、nAMDの血管新生と線維化における新たな分子メカニズムを我々は提唱している(図77)。血管内皮細胞においては、VEGF-Aやガレクチン-1がVEGFR-2に結合するとERKなどの下流のシグナル分子が活性化し、炎症や細胞増殖による血管新生が惹起されると考えられる。RPE細胞においては、ガレクチン-1がSMAD2に結合することでTGF-β-SMADシグナル伝達経路を介したEMTが起こり、CNVの線維化が増幅すると考えられる。このように、ガレクチン-1はnAMDの病態にもさまざまな形で関与していることが示唆された。

VEGFファミリー分子の新たなメカニズムの解明

VEGFファミリー分子は互いに発現を誘導し合って血管新生を増幅する現象が知られていたが、我々は最近PlGFがガレクチン-1の発現も誘導することを報告した9)。ヒトRPE培養細胞を用いた我々の検討では、VEGF-A、VEGF-Bのいずれもガレクチン-1の遺伝子発現に影響を与えなかったが、PlGFは濃度依存性にガレクチン-1の発現を誘導することが明らかとなった。そして、PlGF自身も自己誘導により遺伝子発現が上昇することが分かった。

また、PlGFの受容体であるVEGFR-1を抗VEGFR-1抗体で中和すると、ガレクチン-1の発現は低下した。このことから、PlGFが、RPE細胞に発現するVEGFR-1を介してガレクチン-1の発現を誘導することが示され、PlGFの自己誘導によってガレクチン-1の発現が増幅すると考えられた(図8)。実際に、nAMD患者由来のCNV組織において、RPE細胞にガレクチン-1とPlGF、VEGFR-1が共局在していることが確認された。

以上より、nAMDの病態においても、VEGF-AのみならずPlGFやガレクチン-1の関与が認められた。

図7 nAMDの血管新生と線維化における新たな分子メカニズム~ガレクチン-1の多彩な病態関与~

図7 nAMDの血管新生と線維化における新たな分子メカニズム~ガレクチン-1の多彩な病態関与~

Wu D, et al. FASEB J. 2019; 33: 2498-2513.
利益相反:本研究の一部はBayerの支援により行われた。

図8 ヒトRPE細胞におけるPlGF自己誘導のメカニズムとガレクチン-1

図8 ヒトRPE細胞におけるPlGF自己誘導のメカニズムとガレクチン-1

Yamamoto T, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021; 62: 22.
利益相反:本論文の著者にBayerより謝礼および研究費を受領したものが含まれる。

文献

1) Kinoshita S, et al. Acta Ophthalmol. 2016; 94: e521-523.
2) Ando R, et al. Acta Ophthalmol. 2014; 92: e245-246.
3) Carmeliet P, et al. Nat Med. 2001; 7: 575-583.
4) Dixon JA, et al. Expert Opin Investig Drugs. 2009; 18: 1573-1580.
5) Kanda A, et al. Sci Rep. 2015; 5: 17946.
6) Kanda A, et al. Sci Rep. 2017; 7: 16168.
7) Wu D, et al. FASEB J. 2019; 33: 2498-2513.
8) Hirasawa M, et al. Mol Vis. 2011; 17: 1222-1230.
9) Yamamoto T, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021; 62: 22.