今、そしてこれから、求められる個別化治療とは~nAMD編~
網膜疾患とVEGFファミリーの関与について

Ophthalmology Web Conference
開催日:2021年8月5日

植村 明嘉 先生

植村 明嘉 先生

うえむら眼科クリニック 院長

網膜疾患におけるVEGFファミリーのはたらき

現在、日本国内では網膜疾患に対して複数の抗VEGF薬が使用されており、薬剤の有効性と、副作用等を含めた安全性とのバランスは常に評価すべき課題となっている。その重要なファクターとして、硝子体内投与後の眼内半減期および眼内組織分布、全身への移行、VEGF受容体(VEGFR)のリガンドに対する結合親和性などが検討されているが、もう一つ重要なファクターとして、薬剤のターゲットである、中和するリガンドの種類が挙げられる。

国内で使用されている抗VEGF薬は全て、一般的にVEGFと呼ばれているVEGF-Aを中和する薬剤であるが、アフリベルセプトのように胎盤増殖因子(PlGF)などのVEGF-A以外のリガンドも中和する薬剤がある。網膜疾患、例えば糖尿病黄斑浮腫(DME)では、非糖尿病眼と比べて前房水でのVEGF-AおよびPlGFの発現が高く1)、PlGFがDMEや網膜静脈閉塞症(RVO)2,3)、滲出型加齢黄斑変性(nAMD)4)も含めた網膜疾患の病態において何らかの役割を担っている可能性が示唆される。

VEGFファミリーとして、VEGF-A~DとPlGFという5つのリガンドが知られている。このうちVEGF-AとPlGFに注目してみると、VEGF-Aは1回膜貫通型チロシンキナーゼ受容体であるVEGFR1およびVEGFR2に結合するが、PlGFはVEGFR2には結合せず、VEGFR1に結合する(図1)5)

図1 VEGFファミリー

図1 VEGFファミリー

Yancopoulos GD, et al. Nature. 2000; 407: 242-248.より改変

血管内皮細胞に強く発現しているVEGFR2にVEGF-Aが結合すると、細胞内シグナル伝達経路が活性化し、細胞増殖や遊走を促進して血管新生が起こる。また、隣接する内皮細胞同士の接着が開裂して、血管漏出による浮腫も引き起こすことから、網膜疾患における血管新生、血管透過性にはVEGF-AとVEGFR2が重要となっている。

一方、VEGFR1は網膜でどのような細胞において発現しているのかについても考える必要がある。正常の網膜において、VEGFR1は主に血管内皮細胞や、免疫系の細胞であるミクログリアに発現する。血管内皮細胞に発現するVEGFR1はnAMDやDMEといった網膜および脈絡膜の病態においては血管新生や血管透過性に関与し、ミクログリアに発現するVEGFR1は炎症にかかわることが知られている6)

血管内皮細胞に発現しているVEGFR1はVEGFR2に比べてVEGF-Aに対する結合親和性が高く、さらに細胞外ドメインが切り取られた分泌型VEGFR1となり内在性のVEGF-A阻害剤のように働くことで、VEGFR2シグナルを調節している。生理的環境下におけるVEGFR1シグナルの内皮細胞での役割は限定的である一方、病的な環境下における内皮細胞のVEGFR1活性化と血管新生や浮腫との関連性が報告されている6)

生理的な網膜血管発生プロセスにおけるVEGFR1とVEGFR2のはたらき

我々は、リガンドと受容体の様々な組み合わせで活性化するVEGFシグナル伝達経路を解明するため、マウス網膜の血管発生プロセスを研究している7)。マウスは出生後、視神経乳頭から周辺部に向かって血管が伸びていく。周辺部は低酸素状態となるため、アストログリア細胞でVEGF-Aが多く発現して血管新生が促進される8)。血管内皮細胞はVEGFR1とVEGFR2を同時に発現するが9)、アフリベルセプトにより双方のシグナル伝達を阻害することで血管新生の抑制が示された8)。VEGFR2のみを阻害した場合に血管新生が抑制されたことから10)、マウス網膜の血管新生においてVEGFR2が重要な役割をもつことが示唆された。一方、VEGFR1の細胞内シグナル伝達を阻害したVEGFR1 TK-/-マウスでは、全身の発育や網膜血管の発生に異常をきたさないことから11)、生理的な環境下ではVEGFR1シグナルが必須ではないことが示唆される。

病的環境下におけるVEGFR1とVEGFR2のはたらき

糖尿病網膜症では、高血糖により網膜血管内皮細胞が障害され、内皮細胞を取り囲むペリサイトが脱落して血管壁のバリアが破綻し、出血や浮腫が起こる12)

マウス網膜新生血管の先端部では、内皮細胞が血小板由来増殖因子(PDGF)-Bを分泌し、ペリサイトに発現するPDGF-β受容体(PDGFRβ)と結合すると、細胞増殖および遊走が促進され、新生血管を取り巻くようにペリサイトが増殖し、内皮細胞を被覆していく12)。生後直後のマウスにPDGFRβ阻害抗体を投与し、網膜血管のペリサイトを人為的に消失させたペリサイト消失網膜モデルを作成したところ、正常な網膜と比べて血管が拡張、蛇行しており、内皮細胞間の接着が開裂して血管漏出や網膜浮腫が起こった12)。また、生後1日目に1回のみPDGFRβ阻害抗体を投与した場合でも、糖尿病網膜症の病態に類似した出血や硬性白斑のような滲出斑があらわれ、成体に至っても網膜浮腫や漿液性網膜剥離が遷延した11)

正常網膜では、内在性ミクログリアが細胞突起を伸縮させることにより微小環境を監視し、恒常性維持に寄与する。しかしペリサイト消失網膜では、ミクログリアと単球に由来する多数のマクロファージが血管壁周囲に浸潤し、アメーバ状の細胞体を呈して内皮細胞に接着する。ペリサイト消失網膜からマクロファージを除去すると出血や浮腫が抑制されたことから11)、ペリサイト消失によるバリア破綻では、血管壁の機械的強度低下だけではなく、マクロファージを主軸とした炎症が重要であることが示唆された。

ペリサイト消失網膜ではVEGF-AとPlGFが、マクロファージと内皮細胞の相互作用を媒介することが明らかとなっている。正常網膜のミクログリアはVEGF-AとPlGFを発現しないのに対して、ペリサイト消失網膜では血管周囲のマクロファージがVEGF-AとPlGFを高発現していた11)。さらにペリサイト消失網膜では内皮細胞のVEGFR2発現と、マクロファージのVEGFR1発現が上昇していた11)。こうした状況で眼内にアフリベルセプトを投与し、VEGF-AとPlGFを中和すると、ペリサイト消失網膜のマクロファージが減少するとともに、浮腫・出血が抑制された11)。同様に、VEGFR1 TK-/-マウスの網膜でペリサイトを消失させてもマクロファージ浸潤や浮腫・出血が抑制された(図2)11)。さらにペリサイト消失網膜では、アフリベルセプトがマクロファージの遊走運動を抑制することも明らかになった(図3)11)

これらの結果から、ペリサイト消失網膜では内皮細胞と、ミクログリアまたは単球に由来するマクロファージが、負のサイクルを形成していると考えられた。マクロファージはVEGFR1を発現すると同時にVEGF-AとPlGFを産生することにより、自己に作用するオートクライン、あるいは近傍の細胞に作用するパラクラインを介してVEGFR1シグナルを活性化し、炎症を遷延させる。一方、マクロファージが産生するVEGF-Aは、内皮細胞のVEGFR2を活性化してバリア破綻と血管新生を増悪させるとともに、単球走化性シグナルを活性化してさらなるマクロファージ浸潤を促進する。こうした、ペリサイト消失を契機とするマクロファージ-内皮細胞間のフィードバックループにより、網膜血管の病態が不可逆的に進行すると考えられる(図4)6)。アフリベルセプトは、VEGF-AとPlGFを同時に阻害することにより、このサイクルを断ち切る可能性があると考えられる。

図2 ペリサイト消失網膜におけるVEGFR1シグナル

図2 ペリサイト消失網膜におけるVEGFR1シグナル

***p<0.001(2-tailed Student’s t test)

対象・方法:
VEGFR1の細胞内チロシンキナーゼドメインを欠損させたマウス(VEGFR1 TK-/-マウス)を用いて、ペリサイト消失網膜における単位面積当たりのマクロファージ数をマーカー抗体を用いてカウントし、野生型マウスと比較検討した(コントロール n=10、VEGFR1-TK-/- n=10)。

Ogura S, et al. JCI Insight. 2017; 2: e90905.

図3 マクロファージ運動におけるVEGFR1シグナル

図3 マクロファージ運動におけるVEGFR1シグナル

***p<0.001(2-tailed Student’s t test)

対象・方法:
マクロファージに特異的な受容体に蛍光色素を導入したCx3cr1-GFPマウスの網膜器官培養を行い、アフリベルセプト投与後のマクロファージの動きをトラッキングし、マクロファージの細胞運動速度を投与前と比較検討した(コントロール(IgG):投与前n=68、投与後 n=56、アフリベルセプト:投与前 n=52、投与後n=47)。

Ogura S, et al. JCI Insight. 2017; 2: e90905.

図4 ペリサイト消失による炎症とバリア破綻の悪循環

図4 ペリサイト消失による炎症とバリア破綻の悪循環

NFAT:nuclear factor of activated T cells
CCL2:CC chemokine ligand 2
CCR2:CC chemokine receptor 2

Uemura A, et al. Prog Retin Eye Res. 2021; 100954.

脈絡膜新生血管(CNV)でも、VEGF-A・PlGF同時阻害のシナジー効果が実験的に確認されている。nAMDの病態モデルとして使用されるレーザーCNVモデルでは、VEGF-AまたはPlGFの単独阻害、または双方を同時阻害する群を含めた検討の結果、VEGF-A・PlGF同時阻害によりマクロファージ浸潤、血管透過性、IL-6発現が相乗的に抑制された13)

アフリベルセプトの特性

アフリベルセプトは、VEGFRのリガンド結合ドメインを有する遺伝子組換え融合糖タンパク質である。VEGFとの結合に重要なVEGFR2のIg3ドメインと、VEGFR1のIg2ドメインにFcがつながった構造をしている。Fcが二量体を形成し、アフリベルセプト1分子にVEGFR由来の各ドメインがそれぞれ2つずつ含まれる(図5)

図5 VEGFファミリーとアフリベルセプト

図5 VEGFファミリーとアフリベルセプト

提供 うえむら眼科クリニック 植村明嘉先生

アフリベルセプトは、VEGFR 2由来のドメインによりVEGF-Aを中和する。さらに、VEGFR1に由来するドメインによりVEGF-AおよびPlGFを中和する。このように、アフリベルセプトはVEGF-Aに加えてPlGFもターゲットとする特徴を有する薬剤である。

以上から、血管新生および血管透過性に関わるシグナル伝達経路は、VEGF-A-VEGFR2の結合が重要な役割を果たしている。またマクロファージにおける炎症の促進には、VEGF-AおよびPlGFとVEGFR1の結合によるシグナル伝達経路が関与している。

アフリベルセプトはVEGFR1、VEGFR2双方のシグナルを同時に阻害することから、血管新生および血管透過性を抑制するだけでなく、炎症も抑制すると考えられる。

文献

1) Noma H, et al. Ophthalmologica. 2017; 238: 81-88.
2) Noma H, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2015; 56: 1122-1128.
3) Noma H, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 3878-38853.
4) Motohashi R, et al. J Infl amm(Lond). 2018; 15: 26.
5) Yancopoulos GD, et al. Nature. 2000; 407: 242-248.
6) Uemura A, et al. Prog Retin Eye Res. 2021; 100954.
7) Uemura A, et al. Exp Cell Res. 2006; 312: 676-683.
8) Uemura A, et al. J Clin Invest. 2006; 116: 369-377.
9) Fruttiger M. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2002; 43: 522-527.
10) Koch S, et al. Cold Spring Harb Perspect Med. 2012; 2(7): a006502.
11) Ogura S, et al. JCI Insight. 2017; 2: e90905.
12) Uemura A, et al. J Clin Invest. 2002; 110: 1619-1628.
13) Balser C, et al. J Neuroinfl ammation. 2019; 16(1): 26.