New normalで求められる抗VEGF療法

Ophthalmology Web Conference
開催日:2021年8月18日

平野 隆雄 先生

平野 隆雄 先生

信州大学医学部附属病院
眼科 講師

糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する抗VEGF療法

DMEは糖尿病患者の約7%で合併し、DME患者の39%で視力低下を認めるといわれている1,2)。増殖糖尿病網膜症のように失明の原因とはならないが、就労年齢層における社会的失明の原因として問題となっている3)。治療としては既存の全身管理、網膜光凝固、ステロイド局所投与、硝子体手術に加え、2014年に抗VEGF薬であるラニビズマブ、アフリベルセプトがDMEにまで適応拡大された。

抗VEGF療法については、網膜光凝固やステロイド硝子体内投与を対照とした複数の臨床試験で、その視力改善効果が示唆されている4,5)。また、黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫を対象に硝子体手術の有効性を検討した臨床試験でも視力改善効果が示唆されており6)、硝子体手術でも抗VEGF療法に匹敵する視力改善効果が得られる可能性はある。しかし、術後、視力低下を認める症例も一定数認められ治療効果を手術施行前に推測することは難しいと考えられている。日本の眼科医176人に対する調査7)によると、DME治療の第一選択として81.2%が抗VEGF療法を選択していた。しかし、抗VEGF療法の重大な問題点として費用、頻回な治療、感染、全身合併症、水晶体損傷等が挙げられていた。こちらは2019年の報告であるが、頻回な治療はすでに問題となっており、COVID-19が流行している今は、頻回な治療はさらに問題となっている。

コロナ禍の診療への影響8)

信州大学附属病院眼科において、2018~2021年の月ごとの外来患者数を比較すると、緊急事態宣言下の2020年4~5月に患者数が減少していた。そこでCOVID-19の糖尿病網膜症定期診療への影響を調べるため、2019年および2020年の2~5月に当院眼科糖尿病網膜症外来の受診予約があり、 6ヵ月以上の通院歴がある患者のキャンセル数、キャンセル理由について後ろ向きに検討を行った。キャンセル数は2019年に41人、2020年は55人で2020年のキャンセル理由はCOVID-19の流行が26人(47%)と最多であった(図1)。このうちキャンセル後に受診した21例についての検討では、7例12眼でキャンセル前の最終受診時と比べて視力低下を認めたことから、定期診療による治療の大切さが示唆された。

図1 糖尿病網膜症定期診療のキャンセル理由

図1 糖尿病網膜症定期診療のキャンセル理由

対象:
信州大学医学部附属病院眼科糖尿病外来に6ヵ月以上の通院歴があり2019年、2020年の2~5月に受診予約をした糖尿病網膜症患者を対象とした。

方法:
診療録をもとに、受診キャンセル数、キャンセル理由、キャンセル症例のその後の経過などについて後ろ向きに検討した。

土屋 彩子, 平野 隆雄ほか. あたらしい眼科. 2022; 39(3): 345-349.
利益相反:著者にバイエル薬品株式会社より研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。

New Normalで求められるDMEに対する抗VEGF療法

各国の網膜専門医によるVision academyから発表されたCOVID-19流行下での抗VEGF療法のガイダンス9)では、COVID-19への曝露を最小限にするために、モニタリングのための通院は可能な限り行わず、治療のために通院することが提案されている。例えば、Pro re nata(PRN)投与では毎月の診察を要し、症状が良ければ治療をしないこともあるので、COVID-19流行下では避けた方が良いといえる。これに対して、Treat & Extend(T&E)投与では、個々の状況に応じて治療間隔を適宜調整する方法で、加齢黄斑変性やDMEに対して抗VEGF薬のT&E投与による投与間隔の延長が報告されている10,11)

われわれは、DMEを対象として、レーザー局所光凝固を併用したアイリーアT&E投与の治療成績を評価するために多施設共同前向き研究12)を行った。導入期として、基本的にアイリーア2mgの5回毎月投与を行い、その後、8週ごとの投与間隔から開始し、再投与基準に従い4週幅で延長し、最大投与間隔を16週とするT&E期に移行した。なお、導入期3回毎月投与後に再投与基準を満たさなかった場合には、その時点からT&E期に移行した。主要評価項目である2年目における最高矯正視力(BCVA)文字数のベースラインからの変化量は+5.0文字、ベースラインBCVAが24~73文字の患者に限定すると+5.9文字であり、2年間の追跡を完遂した患者では、それぞれ+6. 1文字、+7. 8文字であった(図2)。また、2年目における中心サブフィールド黄斑厚(CST)のベースラインからの変化量は、それぞれ-164.1μm、-163.7μmであった。投与間隔が16週であった割合は、1年目終了時点で46.7%、2年目終了時点では66. 7%であり、投与間隔12週以上とした場合、2年目終了時点での割合は70%以上であった(図3)。

図2 最高矯正視力文字数の平均変化量

図2 最高矯正視力文字数の平均変化量

欠測値はLOCF法で補完した。
LOCF:Last Observation Carried Forward

Hirano T, et al. Sci Rep. 2021; 11: 4488. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
利益相反:本研究はバイエル薬品株式会社の支援により行われた。著者にバイエル薬品株式会社、参天製薬株式会社より研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。

図3 投与間隔の分布および投与回数

図3 投与間隔の分布および投与回数

Hirano T, et al. Sci Rep. 2021; 11: 4488. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
利益相反:本研究はバイエル薬品株式会社の支援により行われた。著者にバイエル薬品株式会社、参天製薬株式会社より研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。

DMEに対する、レーザー局所光凝固を併用した、導入期(アイリーア3回から5回の毎月投与)とその後のT&E投与は、2年間の検討で7割以上が通院及び投与の間隔を3ヵ月以上に延長できたことから、New Normalで求められる投与レジメンの選択肢の一つと考えられる。

また、導入期終了時に視力改善が乏しい症例や中心窩近傍に漏出を伴う毛細血管瘤がある症例では本来期待される治療効果が得られない場合もあることが示唆され12)、このような症例では他の治療への変更を検討することも、治療方針の柔軟性を確保することや通院を減らすことにつながると考えられる。

医療者側からの連絡による早期受診の促進と治療中断の防止

前述のVision academyのCOVID-19流行下での抗VEGF療法のガイダンス9)では、その中で英国のTheRoyal College of OphthalmologistsのCOVID-19流行下での診療方針13)が引用されており、光凝固を必要とするような重度の非増殖性糖尿病網膜症および増殖性糖尿病網膜症を除くDMEにおいては、抗VEGF薬硝子体内投与の予定を一旦延期し、4ヵ月後に診察のもと判断を行うことが提案されている。視力低下の可能性などを考慮して、出来るだけ4ヵ月を超えての投与延期は避けた方が良いと考えられる。 

実際に当院でも抗VEGF薬3回毎月投与とその後のT&E投与で管理中のDME症例において、次回の4ヵ月後の抗VEGF薬投与の予約がキャンセルとなり、さらに2ヵ月経過した6ヵ月後の診察となった際には浮腫の再発および視力低下がみられていた症例を経験している。

また、当院でCOVID-19の流行を理由に受診をキャンセルした26人のうち6人は2020年8月までに再受診がなかったが、医療従事者からの連絡で5人が眼科機関(近医4人、当院1人)を受診した8)。糖尿病網膜症、DMEにおいて、4ヵ月程度の長期で受診が途絶えている患者には、医療者側から連絡を取り、通院を中断させないことも重要と考えられる。


文献
1)Yau JW, et al. Diabetes Care. 2012; 35(3): 556-564.
2)Minassian DC, et al. Br J Ophthalmol. 2012; 96(3): 345-349.
3)Watkins PJ. BMJ. 2003; 326(7395): 924-926.
4)Korobelnik JF, et al. Ophthalmology. 2014; 121(11): 2247-2254.
5)DRCR. net; Elman MJ, et al. Ophthalmology. 2010; 117(6): 1064-1077. e35.
6)DRCR. net; Haller JA, et al. Ophthalmology. 2010; 117(6): 1087-1093. e3.
7)Sugimoto M, et al. J Diabetes Investig.2019; 10(2): 475-483.
8)土屋 彩子, 平野 隆雄ほか. あたらしい眼科. 2022; 39(3): 345-349.
9)Korobelnik JF, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2020; 258(6): 1149-1156.
10)Haga A, et al. Acta Ophthalmol. 2018; 96(3); e393-e398.
11)John F Payne, et al. Ophthalmology. 2017; 124(1): 74-81.
12)Hirano T, et al. Sci Rep. 2021; 11: 4488.
13)Royal College of Ophthalmologists. Medical retinal management plans during COVID-19. 2020.
14)Brown DM, et al. Ophthalmology. 2015; 122: 2044-2052.
15)Heier JS, et al. Ophthalmology. 2016; 123: 2376-2385.

【多施設共同前向き網膜光凝固併用Treat & Extend投与試験】12)

試験概要

目的

DMEを有する患者を対象に、レーザー光凝固を併用し、アイリーア硝子体内投与の間隔を最長16週としたT&E投与による2年間の有効性および安全性を評価する。

試験対象

中心窩に及ぶDMEを有する患者40例40眼(2015年4月1日~2017年2月28日に信州大学、福井大学、三重大学、旭川医科大学、筑波大学、北海道大学、九州大学及び滋賀医科大学国内の8施設より登録)

[主な選択基準]

  • 1型あるいは2型糖尿病を有する20歳以上
  • 試験眼にSD-OCTでCST300μm以上の中心窩に及ぶDMEを有する 
  • DMEに伴う視力障害を有する
  • ETDRS視力表による最高矯正視力文字数が24文字以上 など
試験デザイン

医師主導多施設共同前向き非無作為化オープンラベル単群臨床試験

投与方法

導入期では、アイリーア(アフリベルセプトとして2mg)の初回投与後、16週まで5回連続毎月投与した。再投与基準のいずれにも該当しない場合は、疾患が安定していると判断し、T&E期に移行した。T&E期では、初回投与16週後に投与間隔を8週に延長し、その後の来院時に再投与基準を満たさなかった場合、4週幅で最長16週まで延長した。その後、再投与基準を満たした場合は投与間隔を8週に短縮し、その後の来院時に再投与基準を満たさなかった場合に4週幅で最長16週まで再度延長した

[再投与基準]

  • OCTでCSTがそれまでの最低値よりも150μm超増加 
  • OCTにより検出される網膜の新規または遷延性の嚢胞様変化あるいは網膜下液、もしくはCST350μm以上の遷延性びまん性浮腫が認められる(初回投与8週後以降)

※導入期は基本的に5回投与とするが、3回投与後、再投与基準に該当しない場合はT&E期に移行した。この際、4回目投与後に再投与基準のいずれかに該当する場合は、疾患が再発したとみなし、5回目投与は4回目投与の4週間後に施行した(8週後ではない)。

なお、初回投与1週後にベースラインのFA所見に応じてショートパルス局所/格子状レーザー光凝固が実施された。その後のレーザー光凝固は前回の実施から4週以上おいて実施された。

主要評価項目

2年目における最高矯正視力文字数およびCSTのベースラインからの変化量

副次評価項目

2年目までの平均投与回数、投与間隔分布、眼および全身性の有害事象

解析計画

<探索的な解析>
主要評価項目(FAS、PPS):投与後の変化は4週ごとに集計し、各時点のベースラインからの変化量は反復測定分散分析およびDunnett法を用いた多重比較により評価した。なお、欠測値はLOCF法で補完した。
なお、本試験は単群試験であることから既報との比較検討を目的として、有効性の主要評価項目については、VIVID/VISTA試験14、15)の視力基準に合致した患者における層別解析を行った。

SD:spectral domain
CST(central subfi eld macular thickness):中心サブフィールド黄斑厚
FAS(full analysis set):最大の解析対象集団。試験中で少なくとも1回アイリーア硝子体内投与を施行した集団。
PPS(per protocol set):治験実施計画書に適合した対象集団。2年間の追跡を完遂し、試験プロトコールを遵守した集団。

安全性

眼および全身性の有害事象(副次評価項目)

(n=40、SAF)

眼の有害事象:
眼痛2例(5%)、白内障進行2例(5%)、眼そう痒感1例(2. 5%)、結膜出血1例(2. 5%)、眼圧上昇1例(2. 5%)、流涙1例(2. 5%)、眼瞼炎1例(2. 5%)

眼の重篤な有害事象:
網膜中心静脈閉塞症1例(2.5%)

全身性の重篤な有害事象:
肺炎1例(2.5%)、下肢蜂窩織炎1例(2.5%)、脳梗塞1例(2.5%)

SAF(safety analysis set):安全性解析対象集団